魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜団長は副団長を嫁にしたい〜

ゆずは

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団長は副団長と友になる

4 団長は副団長の回復ぶりに脱帽する

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◆side:オットー

 あれほど心配したというのに、ザイルは癒やしを受け終わった翌日には、俺と剣を交えることができるまで回復していた。
 ……癒やしとはそれほど効果のあるものなのか?
 徐々に以前のような体制に戻していく予定をたてていたんだが。全く必要なかった。

「……神官の癒やしって」
「ん?」
「あれほど効果のあるものなのか…?」

 執務室で殿下の書類仕事を捌いてる時、思わずそんなことを口にしていた。
 殿下は少し考えるように口元に指を当て、それほど間を開けずに俺を見た。

「ない。ザイルの回復ぶりは驚異的だな」
「………」

 殿下がそう言うならそうなんだろう。

「この調子なら遠征の予定も延ばさなくていいが……」

 殿下が僅かに苦笑したとき、執務室の扉が叩かれ、すぐに書類を抱えたザイルが入ってきた。

「追加です、殿下」
「………お前たち二人に監視されながら書類仕事をこなす羽目になるなんて思ってもいなかった………」

 書類仕事が大嫌いな殿下。
 各部署に書類を届けてる間にいなくなることが多かったが、それをザイルが担ってくれた今、俺は心置きなく殿下を監視できる。
 ……ザイルをここに関わらせるつもりはなかったのに、「副団長というなら」と、半ば強引に執務室でも書類仕事に携わるようになった。
 だからといって、遠征の準備が滞っているわけではない。物資の確認、補充、食糧の手配。執務室での補佐をしながら、俺が指示したことは全て終わっているのだから、俺が余計神官の癒やしの効果を過大評価してしまうのも仕方ないことだと思う。

「殿下、遠征費用の申請に関して、王太子殿下より至急の確認書類が来ております」
「あ、ああ」
「オットー、この間の魔物に関して報告書が上がってないと第三騎士団の方から苦情が出ています」
「……忘れてました」
「今日中に提出を、ということです。私も手伝うので」
「……ええ」

 ……元気だ。
 背を痛がる様子もないし。
 俺の心配は何だったんだろう…と思いながら、ソファに座り報告書を書き始める。
 嬉しい誤算。
 ……ああ、そうだ。
 別に、悪いことではないのだから。
 素直に喜ぼう。
 そう思えば羽根ペンもよく動く。
 そのうち、用紙の邪魔にならないところにカップが置かれた。柑橘の香りが頭の中をすっきりとさせていった。
 ザイルがお茶を淹れたのか。
 道具は置いていたが、使ったこともなかった。

「いい香りだな」
「料理長殿に頂いてきました。殿下の仕事も捗ると思いまして」
「………ああ」

 そう言われたらやるしかないな。
 諦めてしっかり終わらせてくれ…殿下。





◆side:ザイル

 恐らく大怪我だったんだと思う。
 けれど、不安がなくなったことがよかったのか、神官の癒やしがとてもよく効いてくれた。
 オットーさん……オットー団長と打ち合っても、リドを走らせても、どこにも痛みはなく、体は動きやすいくらいだった。
 遠征の準備も指示されたことは全てこなした。オットー団長に確認してもらったが、不備はなかった。
 指示されたわけではなかったが、執務室での殿下の書類仕事を手伝うようにした。遠征前だからなのか、机の上にはかなりの書類が溜まっていた。
 処理の終わった書類もこれから各部署に回さなければならないが、オットー団長が目を離せば、殿下はすぐに逃亡すると聞かされて、あれほど完璧に見えていた殿下にもそういう面があったのか……と、親しみが湧いたくらいだった。
 けれど、仕事が滞るのはまずい。たかが書類、されど書類、だ。男爵領でさえ、報告書があがってこないために仕事が滞り、父が嘆いている姿を何度もみたことがある。
 それなら、と、処理の終わった書類を、私が各部署に回すようにした。下位貴族である私だが、『第二王子殿下直属兵士団副団長』の肩書がある。
 王城内でそれは周知されているらしく、濃紺の軍服も相まって侮られることはなかった。……が、殿下への仕事を持たされることも多くなった。
 これも仕方ないことだ。
 それだけの案件を殿下が抱えてるということなのだから。
 偶々廊下で会った第三騎士団の団長から、私が怪我をした際の魔物に関して、報告書が上がってないと言われ、苦言を呈されたが。こればかりは素直に謝っておこう。

 途中、厨房に立ち寄り柑橘系の香りがする茶葉を分けてもらった。
 料理長殿は快く缶ごと手渡してくれた。
 執務室には茶を淹れる設備があるのに、使われた形跡がなかったから。お茶の香りで気分転換でもしてもらえれば、書類仕事も今より進むかもしれない。

 執務室に戻り書類を捌き、簡易的な台所で紅茶を淹れた。
 私の分も淹れていいかな。いいよな。
 三人分のカップをトレイに載せ、殿下の執務机に置き、報告書の用紙を見ているオットー団長の前にも置く。
 あれに関しては私も関係しているから、オットー団長の隣に腰掛け、とりあえず一口紅茶を飲んだ。
 ……うん。自分で淹れたものだけど、今までで一番美味しくできている。

 殿下の長く吐き出される息遣いと、オットー団長の緩んだ目元を見て、単純な私は自分の役割を得た気がして、嬉しくなりながら、もう一度紅茶を口にした。



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