魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜団長は副団長を嫁にしたい〜

ゆずは

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団長は副団長と友になる

2 団長は心を乱し、そして安堵する

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◆side:オットー

 失敗した。
 ザイルの動きに満足して周囲を警戒することを怠った。

「ザイル…!」

 触手によって宙に吊り上げられ、そのまま地面に叩きつけられる。
 嫌な音がその場に響いた。
 僅かに呻いた口元から、鮮血が流れ落ちる。

 目の前が紅く染まった。
 ザイルに群がる触手を粉々に切り刻み、本体をも八つ裂きにする。
 魔物が息絶えるのに時間はかからなかった。
 呼吸が弱くなっているザイルの体にマントを巻き付け、できるだけ揺らさないよう抱き上げルドに乗る。リドはどこかに行くことなく、しっかりついてきた。
 王都の門も走り抜け、王城の医療室に駆け込んだ。

 俺の行動は殿下まで報告されたらしい。
 医療師が険しい表情で応急処置をしている間に、殿下が医療室に来た。

「…酷いな」
「申し訳ありません……っ」
「神官を呼んでくる」

 殿下はそう言い残し、すぐに医療室を後にした。
 俺は、応急処置の終わったザイルの眠るベッドの傍らに座って待つことしかできなかった。
 あの魔物の動きに、自分がもう少し早く気づいていれば。

 ザイルと二人で動くことが、最近では当たり前のようになっていた。
 正直、一カ月で鍛え上げるという目的はすでに達成している。
 こいつと二人で魔物を討伐しているうちに、互いの行動が読めるようになっていた。
 だからこそ、そこに油断が生じたのだ。

 このまま彼が動けない体になってしまったら。
 二度と剣を持てない体になってしまったら。
 俺は、どう償っても償いきれない――――。

「オットー」
「殿下」

 どれくらいそうしていたのか、いつの間にか殿下が戻ってきた。殿下の後ろには、白いローブを着た神官が控えている。

「神殿長殿、申し訳ありません。お話した彼です」
「ええ。少々お待ちください」

 神殿長と呼ばれた神官。……確かに殿下は神官位を持っているが、神殿長……神官の中でも最高位の者を呼んできてくれたのか……?
 神殿長はザイルの枕元に立つと、手を伸ばしややしてから眉を顰めた。

「これはひどい状態ですね…。癒しで治るかどうか……。遠征は五日後でしたか、殿下?」
「ええ」
「難しいかもしれませんね」
「…遠征自体は期日を伸ばしても問題ないので。お願いできますか、オリバー神殿長殿」
「わかりました。できる限りのことをさせていただきます」

 にこりと笑い頷いた神殿長は、真剣な表情でザイルの手に触れ、祈りの言葉を口にした。

「オットー」

 殿下に呼ばれ、立ち上がる。

「何があった」
「……触手を持った魔物との戦闘中、私に油断があり、ザイルが触手にかかりました。そのまま宙に吊られ、地面に…。全ては確認と警戒を怠った自分の責任です」

 今までの経験はなんだったのか。なんのために腕を磨いてきたのか。

「…後悔しても仕方ないだろ。責任を取って俺の下を去るとかいうなよ?お前たち以外に俺についてこれる奴がいないんだから」
「…殿下」
「そんな顔のオットーは久しぶりに見たな。ああ、そうだ。オットーとザイルの二人になったからな。俺の直属の兵士団として申請した。お前が団長で、ザイルが副団長だ」
「……まだ私たち二人しかいないのに、団長と副団長、ですか」
「問題ないだろ?実力重視の兵士団だ。入団を決めるのは俺。見極めるのはお前だ、オットー」

 それは本当に決定事項なんだろう。
 一年前、俺に王子だと告げたときのような、人を揶揄うような笑みで。

「……わかりましたよ、殿下。団長、副団長として、今後もお仕えいたします」
「ああ、頼んだ」
「私が団長だというなら、執務室の机の上に溜まった書類をどんどんこなしてもらえるように、殿下に強く訴えてもいいということですね」
「…………いや、それは」
「実際、各方面から色々言われてうるさかったんですよ。今後は休みなく書類仕事を片付けていただきます」
「オットー」
「滞っていたものが進みますね?」

 殿下と俺のやりとりを聞いていたのか、神殿長がザイルの手を握りながら、笑い始めた。

「よい部下をお持ちですね、殿下」
「……よすぎて困りますよ、神殿長殿」
「それはよきことです。……思っていたほどは酷くないようですよ。この方の癒しは一旦終わります。また明日に。無茶をしなければ、明日には動けるでしょう」
「ありがとうございます」

 ……よかった。
 苦しそうだったザイルの表情が、やや落ち着いている。

「……あと問題があるとするなら、魔物に対する恐怖心……か。そればかりは今心配しても仕方ないな。オットー、一応予定通りの遠征準備を進めてくれ。どちらにせよ、遠征にはザイルも連れていく」
「――――御意」

 胸の前に右手をあて頭を垂れる。
 ザイルの回復次第か……と再びザイルに視線を移すと、何故か涙を流していた。
 意識が戻ったのだろうか。
 擦らないよう目元の涙を指で拭うと、ぴくりと指先が動いた。

「ザイル」

 今度は瞼が震え、ゆっくりと開いていく。

「ザイル」

 もう一度呼ぶと、涙で潤んだ瞳が俺を捉えた。




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