魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜団長は副団長を嫁にしたい〜

ゆずは

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団長は副団長を見つける

5 団長(候補)は副団長(候補)の入団に安堵する

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「予選で拘束された者は三名です」
「意外と少ないな」
「ええ。それも軽い揉め事ばかりだったので、すぐに解放されるかと」
「ああ」

 昼食の後に予選の様子を報告する。
 諍いを起こしたのは貴族と平民だ。身分関係なく参加できる御前試合だからこそとも言えるか。

「本戦は俺の近くで控えていてくれ。何かあれば陛下と王太子殿下を最優先で護ってくれ」
「御意」

 移動を始めた殿下の後ろに付き、会場に赴く。
 本戦は予選以上に熱気にあふれていた。

「陛下!!王太子殿下!!」

 客席からあがる歓声に、陛下と王太子殿下が手を上げて応えている。
 王族が姿を現すなどそれほど多くはない。
 レヴィ殿が言っていたように、今の王族は国民からの信頼も厚い。…殿下から直接の勧誘があったからと言って、平民である俺が副官の立場のようになっているのを考えても、懐の深さが伺えるというものだ。
 本戦に進むことができるのは三十二人。そこからは勝ち抜き戦になる。会場は大きく四区画に分けられ、順次一回戦目が行われる。
 ほぼ休む時間は無く、体力勝負という面も出てくるが、あとは本人の鍛え方によるだろう。

 陛下から開始の宣言があり、各区画で一回戦目が開始となった。
 あまり腕の面で目立った選手はいない。
 俺の目から見てそう感じるのだから、殿下が声をかけそうな者は今のところいないだろう。
 あの少年は一回戦目の三巡目で闘技場に入ってきた。
 疲れた様子はない。
 あのあとしっかりと体を休めたのだろう。

「……へえ」

 僅かに漏れ出た殿下からの声に、無関心な態度を貫いた。

「良くなってるな」

 殿下の目は確実にあの少年を見ていた。
 相手は体格のいい選手だったが、俺が伝えたことを実践しようとしているのか、無理に正面から打ち合うことが少なくなっている。
 力に対して力で受けるのではなく。
 ……飲み込みがいい。
 この短時間でそれなりに動けている。

「……だが、あれじゃ保たないな」
「何がですか」
「剣だ」

 殿下の呟きに、はっとして会場を見た。
 あの少年の動きばかりに気を取られて、一番負荷がかかる剣に意識を向けることを忘れていた。
 連戦が続けば剣にも負荷がかかる。手入れを入念にしている暇もない。
 予選から本戦が始まるまでに少しでも手入れができていればいいのだが。

「気づけばいいんだが」
「……」

 次の試合が始まる前に気づけば、代わりの剣を手にすることもできるはずだ。
 少年は一回戦目は危なげなく勝利を収めた。続く二回戦目、三回戦目も問題なく。けれど、剣を替えたようには見えない。
 準決勝では若干ひやりとした場面はあったが、なんとか乗り越えることができた。すでに平民は残っていず、貴族ばかり。誰も彼もが体格のいい青年ばかりだ。
 然程も休憩を挟まないまま、決勝が始まった。
 少年も、相手も、若干息は上がっていたが、まだ動くだけの体力派あるようだった。
 少年の剣筋は乱れていない。
 ああ、これならば優勝できるだろう――――と俺の口元に笑みが浮かんだ瞬間、激しい音がして少年の剣が完全に折れた。

「駄目だったか」
「………」

 観客たちが盛り上がり、闘技場の中は歓声で包まれる。
 審判からも勝負ありと宣言が降りた。
 少年は呆然と手の中の折れた剣を見続けていた。
 相手に声をかけられようやく我に返ったらしい少年は、地面に刺さった剣先を拾い上げ、その場をあとにしていく。
 優勝者への表彰はすぐに始まった。
 一つだけ叶えられる望みで、優勝した男は近衛騎士団への配属を希望した。恐らくそれは叶えられるだろう。

「オットー」
「はい」
「行くぞ」

 歓声が鳴り止まない中、殿下が移動を開始した。
 目的は言わない殿下だったが、選手の控えの場に向かっているようだった。
 人の波を避けるように進み、若干喧騒から外れた物陰に、その少年が座り込んでいた。未だに折れた剣を握りしめており、俯いている。

「ザイル・リクシー」

 殿下が名を呼ぶと、その少年ーーーーザイルは、弾かれたように顔を上げた。

「クリストフ殿下……っ」
「お前、俺のところに来るつもりはあるか?」
「……!!」
「どうする?」
「わ……私は……!!」

 ザイルはその場に片膝を付き殿下の前に跪いた。

「殿下に仕えること、私ーーーーザイル・リクシーは、女神アウラリーネに誓います…!!」

 女神になど誓う必要はない。
 内心忌々しく思いながらも、殿下もザイルに目をかけていたことに何故か安堵していた。

「今日から兵舎に入れ。オットー、一ヶ月後、北にザイルも連れて行く。それまで鍛えてやれ」
「御意」
「あ……あの、殿下っ、ありがとうございます……!!!」
「励めよ」
「はい!!」

 俺とザイルに背を向けた殿下。
 背中を見送るザイルの目に、明らかな輝きを見て、どうにも落ち着かない気分になった。




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