魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜団長は副団長を嫁にしたい〜

ゆずは

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団長は副団長を見つける

4 団長(候補)は苛々する

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「え……あの」

 明るい茶色の髪が濡れて陽の光を浴びて艶めいて見える。
 濡れた薄いシャツに体の線がはっきりと浮かび上がっていた。チラチラとこちらを、少年を見る視線が鬱陶しい。

「使って」
「え」

 腰につけていたタオルを出すと、困惑気味な顔で俺を見る。瞳は黄色みのかかった茶色か。

「あのっ」
「何」

 タオルを握りしめた少年が、熱い瞳を俺に向けてきた。
 その目にドクリと心臓が鳴る。

「あ、あの…!第二王子殿下の#下__もと
__#にいる方ですよね!?」
「は?」
「わ、私、殿下に憧れていて……!!」

 ……ああ。なるほど。
 ふつりと、得体のしれない感情がこみ上げてくる。

「殿下の剣の腕は本当に素晴らしくて…!少しでもあの剣技に近づきたくて、毎日、鍛錬してきました……!!」
「……ええ」

 剣を扱う者の中には、殿下に憧れている者が多い。それだけ殿下の腕前が素晴らしいということではあるのだが、こうまではっきりと瞳を輝かせて言葉にされると酷く不快に思えた。
 この感情の意味がわからない。
 今までもこういう者はいた。けれど、ここまで不快に思ったことはなかった。

「あ、あの……!」

 ……殿下を紹介しろとか、口利きをしろとか、そんな言葉がでてくるのかと溜息をついたとき、その少年は熱を載せた声で言い切った。

「助言をいただけませんか!?」
「は?」
「殿下についている唯一の方も、殿下に次ぐ腕前だと聞いております!私はもっと強くなりたい……今のままでは足りない。もっと、強くなりたいんです…!!」
「――――」

 予想の斜め上を行った。
 ……というか、完全に予想外のことを言われた。
 殿下に近づきたい、ではなく、腕を上げたい?その結果として殿下に近づきたい、のではなく?

「――――真正面から受け止めるばかりでなく力を受け流すように動くことも必要かと」
「はい…!!」
「大剣と打ち合えば力負けする可能性はあります。まだ体ができていないようで――――」
「はい!!」
「………」

 この少年の目は今俺に向けられている。
 そのことに落ち着かない気分になった。
 さっきまでは不快に思っていたのに。自分の感情がよくわからない。

「――――とにかく」
「はい!!」
「まずは頭と体を拭いてください。あなたは貴族でしょう?もう少し危険というものを」

 俺が渡したタオルを握りしめて、少年は目を丸くしていた。

「……なんですか」
「あ、いえ。……え、と」

 少年の狼狽えぶりに、何かおかしなことでも口にしただろうかと不安に思ったが、思い返しても何も不思議なことは口に出していないはずだ。

「……どうして、貴族だと」
「どうしてもなにも、どこからどう見ても貴族の子息にしか見えませんが」

 そんなことか…と嘆息した。
 着ているものも、剣の振るい方も、平民の者ではありえない。殿下から男爵の子息と聞いたということもある。
 何も驚くことではない。
 この御前試合には多数の貴族も出場しているのだから。

「……私は」

 ここで初めて言いよどむ少年に、貴族にもそれなりの事情があるのだろうと理解する。

「とにかく拭きなさい」

 いつまでも欲を誘うような格好はするものじゃない。

「貴族は……駄目ですか」
「え?」

 ぼそりと溢れた言葉に、とっさに反応はできなかった。
 聞き間違いでなければ「貴族では駄目か」と問われたはず。……何が?

「どういう」
「あの……すみません。助言、ありごとうございました!このタオル使わせていただきます!!」
「え」

 少年は傍らにおいていた剣をつかむと、脱兎のごとくその場を離れていった。

「……は?」

 何が起きたのか。
 いや、その言葉の意図は何だったのか。
 引き止める前に人混みに紛れていった少年。
 その態度や行動も意味がわからなかったが、いつまでもこの場に立ちすくみ、少年が走り去った後を見ていた俺自身の行動も、意味がわからなかった。




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