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閑話 ⑤
★お気に入り5000お礼★ 『勇者は魔王の溺愛から逃れられない』①
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お礼の全4話、楽しんでいただけると幸いです^^
★注意★
以下の内容が含まれます
『魔王クリス』
『勇者アキ』
『触手攻め』
嫌な方、苦手な方は読まずにお願いしますm(_ _)m
_______________
「なあ……嘘だって言ってよ……っ、冗談だ、って、いつもみたいに笑ってさ……!!」
「……アキ」
「なんで……なんでなんだよ……クリス……!!」
夢だと言ってほしかった。
悪い冗談なんだと。
でも、この現実は確かに今俺の眼の前で起きてること。
漆黒と真紅で彩られた禍々しくも壮麗な椅子に長い脚を組みながら腰掛けているのは、俺が王都を出発してからずっと『仲間』として一緒にいたクリストフその人だ。
*****
黒髪を持って生まれたことで、国から魔王を倒す『勇者』と認定された。
いやいや、勇者って、聖剣を扱えて剣技にも魔術にも精通した人でしょ?……と、物心ついた頃に思ったけれど、まあ、俺の意見なんて聞き入れられない。
恐れ多くも?腹がでっぷりと出た国王様から賜った『聖剣』は、重たすぎて俺は振り上げることもままならなかった。
……けど、まあ、俺は魔術だけは誰よりも得意で、聖剣を使える姿を見せなきゃと考えた挙げ句、身体強化とか軽量化魔術を組み合わせて軽々と聖剣を持ち上げて掲げるというパフォーマンスには成功したけれど。
持ち上げたからと言って剣術が自動的に付与されるわけもなく、「新たなる勇者の出立である」と国王様の宣言のあと、王都民から花吹雪とともに見送られ、華々しく王都を出立した俺は、魔術で魔物たちを屠っていた。そのほうが確実だし。
「魔力は大丈夫?」
「問題なし!」
それに、だ。
俺には剣を振るう、剣術を覚える必要も理由もない。
俺の背中を守るように佇んでいるのは俺よりかなり背が高くて美丈夫なクリストフ。
同じ村の出身なのに、田舎臭さなんて何も感じないクリストフーーーークリスは、とにかく強い。クリスより綺麗に剣を扱う人を俺は知らない。
そんなクリスが村を出る俺についてきてくれた。
国王様との謁見には同行できなかったけれど、出立のとき王都から少し出たところで待っていてくれて、俺の頭についた花びらを取りながら「行こうか」と腰に手を当てて促してくれた。
そんなクリスがいるから、剣を振るう理由がない。
ま、そもそもね。
魔術を使わないと聖剣を持てない俺が振り回すことなんて無理なんだけど。
「なんか、クリスが聖剣持ってるほうがしっくり来るんだけど」
「まさか。俺には触れることもできないよ」
クリスはいつも俺に触れる。
魔物討伐が終わったときや、食事の後。
頭にキスをされるのは慣れたし、時々頬にもキスをされる。
「でもいいのかな。本来なら他にも数人の仲間を連れて行く旅なのに」
「いいよ。クリスと二人がいい」
野宿のときも宿屋のときも、眠るときはクリスに抱き込まれる。もちろん、おやすみとおはようのキスがついてくる。
どうしてクリスがキスをしてくるのか、俺はその理由を知らない。
けど、俺がそれを拒まない理由も、クリスと二人だけの旅がいいことの理由も、わかってる。
無事に『勇者』の役目が果たされたら、クリスに言おうと思ってることがある。
そう。
無事に、『魔王を倒せたら』。
クリスに、『好き』だ、って。
絶対に、言う。
背中を合わせるたびに
夜を二人きりで過ごすたびに
優しいキスをもらうたびに
どんどん
たくさん
好きになる
なのに、魔王城が目前となったとき、クリスは突然俺に告げた。
「アキ、ここでお別れだ」
「……え?」
月の輝きが白く当たりを照らすそんな夜だった。
月明かりを背に浴びたクリスは、少し悲しそうに眉をひそめ小さく笑うと、突然のお別れ宣言に呆然とする俺の顎をすくい取り、冷たい唇を俺のそこに押し当ててきた。
その唇は熱が移る前に離れてしまった。
「クリス……?」
「本当は」
「……なに」
「アキが途中で諦めるように、勇者の使命なんて関係ないって、どこか遠い村でも国にでも逃げるようにしたかった」
「なに、言って」
「『俺なんか聖剣もまともに使えない出来損ないの勇者だし』って言いながら、誰よりもどんな勇者よりも勇者らしかった」
煌々と輝いていた月が雲に隠れた。
濃くなる夜闇の中、クリスの瞳だけが碧く、輝く。
「だから、ここまで来てしまった。もう、無理なんだ」
「待って。クリスが何言ってるかわかんない……!」
冷たいキスと、困ったように笑う瞳。
頭の中が混乱して何を言えばいいかわからなくなってたところに、クリスの背後にどこからともなく二人分の人影が現れる。
まるで、闇の中から現れたような二人。
その背に、黒い、闇夜より黒い、蝙蝠のような羽根を持った二人。
「魔族……!!」
魔王の眷属。
俺が、倒すべき相手。
クリスが狙われてる
そう思った俺は手の中に魔術の光を瞬時に作った。
けれどそれは、放つ前にクリスに止められた。
「クリス…っ」
「いいんだ、アキ。大丈夫」
クリスの、『大丈夫』は、いつも俺を落ち着かせた。
俺が安心できる魔法の言葉。
「でも、クーーーー」
でも魔族だ。
倒さないと駄目なんだ。
そう言おうと思ったのに、俺は言葉を紡ぐことができなかった。
なんの音もなく、闇夜に漆黒の羽根が広がった。
それは、俺の視線から二人の魔族を隠すように、俺とクリスだけを包み込むように、眼の前に広がった。
「ク、リス」
「城で待ってるよ。アキ」
いつものように「おやすみ」と伝えるときのように、冷たい唇が額に触れた。
そして、唇が離れたとき。
「……っ」
辛そうな笑みだけを残して、クリスは姿を消した。
「な、んで」
いつの間にか雲間からまた姿を現した月が、闇夜を白く染めていた。
「なんで……クリス……っ」
村でも一緒に過ごしてきた。
王都までも一緒に行って。
魔王討伐の旅もずっと一緒で。
ずっと、ずっと、一緒で。
「なんでなんだよ……!!」
俺の叫び声は月光の下、闇夜に飲み込まれた。
翌日、日が昇る前に俺は目的地である魔王城にむかった。
クリスは『城で待つ』って言った。
……もうそれって、『魔王城』しかない。
一晩、考え続けた。
いつもあったぬくもりがなくて、寒くて寒くて眠れなかった。
身体強化の魔法をかけてひたすら駆けた。
重たい聖剣はマジックバックに入れているから何も気にならない。
魔王城に近づくほどに、不思議と魔物に襲われることはなく、半日ほど駆けることができた。
魔王城は当然魔王領の中心地。
駆け抜けてきた魔王領は、人間の土地と何ら変わらなかった。
眼の前の立派な門構えの魔王城も、おどろおどろしい雰囲気はなにもない。
打ち破ればいいのか飛び越えればいいのか。どちらも俺にはできる。
どうしようかと重厚な扉に触れたとき、それは自然と開いた。
「……」
招かれてる。
そう、感じた。
一歩中に踏み出すと、すぐに扉が閉じた。
まるで、俺を逃さんとしているような、そんな感じで。
俺は後ろを一度確認して、前を向いた。
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このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
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