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閑話 ⑤
★お気に入り4000お礼★ 魔法はキスで解けるもの《後》
しおりを挟むいつもよりもゆっくりと、廊下の隅にまで視線を流しながら。
真っ白な毛並みは比較的目立ちやすいとはいえ、マシロの体はかなり小さい。物陰に入っていればすっぽりと隠れてしまうだろう。
小さい体と小さい手足。
あの視線の高さから見た城内は、ひどく恐ろしいものになりはしないか。
「………」
執務室まではそれなりの距離がある。
なんとなく、そちらに向いていた足を、庭園の方に向けた。
扉を開けることはできなくても、誰かが見かねて手助けしていれば、出ることは可能だ。
「マシロ」
庭園に足を踏み入れ、一応名前を呼んでみる。
「アキ」
けれど反応はなく。
考えすぎだったかと城内に戻ろうとしたとき、茂みの下から白いなにかが出ていることに気づいた。
膝をついて茂みをかき分ければ、腹を上にしてだらしなく寝ているマシロを見つけた。
「………」
完全無防備。
こんな状況だというのに、警戒することもなく、寝ているなんて。
溜息しか出てこない中、小さな体を手の中に抱き上げた。
顎の下をくすぐってやれば、いつもアキが見せるようにむずかり、大きな瞳をぱちっと開いた。
「んみゃ」
「……こんなところで寝るな。探したんだ」
「うみゃ」
「で?なんでこんなことになった?アキ」
「みゃっ!」
「……わからないわけないだろう。アキからは面白いくらいに拒絶された」
「うみゃぁ」
マシロが慌てたように俺の頬に顔を寄せてきた。
「ああ。気にしていない。どう見てもあれはマシロだろ?」
「みゃあ……」
いつもアキがマシロを抱きしめながら気持ちよさそうな顔をしてるのがわかった気がする。
この毛並みはふわふわで、確かに気持ちがいい。中身がアキだとわかっているせいか、余計に心地良いし、愛おしい。
「戻ろうか」
「うみゃ」
「……どうやったら戻るんだろうな……。早くお前を抱きしめたいよ」
「みゃぁ…」
マシロが俺の頬をぺろりと舐めた。
その仕草が可愛らしく、つい、口元に笑みを浮かべてしまう。
「口付けで戻るか?」
「み」
マシロには絶対にしないことだが。
小さな口に、唇を当てた。
ひげがチクチクと少し痛いが、それも愛おしい。
触れるだけで離れて、もう一度…と思ったところで、体が固まった。
「みっ!!!!」
「っと」
強烈な尻尾の攻撃を食らう前にマシロの首根っこをつまんで俺から離した。
「……マシロ、お前の仕業か?」
「みっ」
「まったく……」
ぶらんとマシロをつまみ上げたまま、庭園から城内に戻った。
*****
小さな体から見る世界は何もかもが大きくて、冒険だ!って意気込んでいたのにあっさりと諦めてしまった。
庭園の入り口のドアを見上げてしょぼんとしていたら、通りかかった侍女の人が開けてくれた。
俺は短く鳴いてお礼を伝えて、庭園に出て、茂みの下でほっと息をついたら、疲れていたのか寝てしまった。
喉のところをくしゅくしゅ撫でられて、気持ちよくて目を覚ましたら、目の前にクリスがいたからすごくびっくりして。
「で?なんでこんなことになった?アキ」
って言われて、すごく嬉しくなった。
みゃーみゃーしか言えないのに、俺のこと『アキ』ってわかってくれる。
嬉しいからスリスリだってしちゃうよね。ペロペロだってしちゃうよね。
「口付けで戻るか?」
って、クリスが笑いながら言う。
口付け。
キスかぁ。
眠りっぱなしだったお姫様も、仮死状態だったお姫様も、王子サマのキスで悪い魔法は解けて目を覚ますのは、セオリーではあるけれど。
そんなに簡単なことかなぁ…って悩んでる間に、マシロの小さな口に、クリスの暖かくて柔らかい唇が触れた。
クリスがマシロにデロデロになってる…!って衝撃を受けた瞬間、ぐらりと視界が歪んだ。
ガクンって体が揺れたような感覚のあと、「アキラさん!」ってメリダさんの慌てた声を聞いて目を開けると、いつもの視線の高さでメリダさんの心配そうな顔が視界に入る。
あー…戻ったんだ。てか、大真面目にキスで魔法?が解けたんだ……、って、思って、にへら…と笑ってしまった。
「ごめんねメリダさん。俺大丈夫」
「よかった……。ニコニコするばかりで何もお話になりませんし、突然震えだしますし……。何が起きたのか驚いて……」
「ん、ほんとに大丈夫!ほら、いつもどおりの俺でしょ?」
少し涙の滲んだメリダさんは、「はい」と頷いて笑ってくれた。
そして少し待つと、クリスが部屋に戻ってきた。手にでろーんと伸びたマシロをつまみ上げた状態で。
「うわわっ、クリスっ」
「アキ」
マシロを救出しようと駆け寄って手を伸ばしたら、腰を抱かれてそのままキスされた。
「ん…っ」
「……ふ。やはりこっちの感触のほうがいいな」
って、唇をはむはむしながら言ってくる。
「……キスで魔法が解けたね」
「そうだな。……危うくこいつに口付けるところだったが」
クリスはそう言うと、伸びたマシロを俺の腕の中に落とした。
マシロはすぐに俺の胸元に頭をこすりつけて弱々しく鳴き始めた。
「……マシロにキスしたのは、事実だと思うけど」
「あれはアキだ」
クリスもクリスで、なんかへそを曲げている。
……もう。二人とも可愛いな……!
「ほんとにもう……」
背伸びをして、クリスの唇にキスをして。腕の中のマシロにも、鼻の頭にちゅってキスをして。
「お昼の準備お願いしよう。……それからさ、食べ終わったらたくさんキスして?」
後半は小さな声で。
そしたらクリスはあっという間に機嫌が治って破顔した。
「ああ、そうだな」
笑ったクリスがもう一度だけキスをしてくれた
「ーーーーそれで、殿下」
「…………………あ」
「私達、城の中を大捜索していたわけなんですが」
「…………………あ、あ」
「見つかったのなら見つかったと、何故捜索終了と伝えてくれなかったんですかね……?」
ーーーーと、背後に真っ黒な何かを背負ったオットーさんに、クリスが詰め寄られるまで、あと少し………。
*****
お気に入り登録4000本当にありがとうございます!
婚前エピソード、出来たときにまた掲載しますね!
閲覧、心より感謝申し上げます^^
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