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閑話 ④
その頃の隊員さんたち
しおりを挟む◆オットー&ザイル
「王族専用の保養地っていうことは理解してるつもりですけど、この広い敷地に私達だけというのは問題がありませんか」
「むしろ、殿下は俺たちも入れたくなかったと思うが」
「あー……まぁ……」
「それにだ。あれだけ毎日入念に見回りをしてきたんだ。多少気を抜いていても問題ないと思わないか?」
「全然全く思いません。オットーはなんでそんなに気が抜けるのか…。私には不思議でならないんですけど」
邸内には問題なかった。
外側も邸内も、灯りも問題ない。
月の明るい夜だった。
間もなく殿下方も到着するだろう。
オットーと二人、肩を並べて庭に回った。
途端、視界に入ってくるのは幻想的な光の湖。私は声をなくしてただ見入ってしまった。
「これは凄い。殿下がここにこだわるわけだ」
「……ええ」
殿下がアキラさんを連れて到着されたら、私とオットーは邸内警備に当たる。だから、この光景を見れるのは今しかない。
「本当……きれい」
ふわふわと湖面を踊るように見える光。
こんな場所があったなんて…と立ち尽くしていたら、徐ろにオットーが口付けてきた。
「ちょ」
「ザイル、殿下がな」
「ん、な、にっ」
「邸内の夜間巡回はいらないと言っていたんだ」
殿下がそう言っても、しないわけにいかないじゃないか。なんのための護衛だと思っているんだ。
「しかも」
オットーは私の顎の下をくすぐりながら、口元を笑みに歪ませ、懐から鍵を取り出した。
「部屋の鍵を預かっている」
「な」
「殿下が使う部屋からは少し離れたところだが、何かあればすぐに駆けつけられる部屋だ」
笑ったオットーの手が、私の尻に触れてきた。
◆ミルド&ブランドン&エアハルト
「……アキラ様の婚礼衣装……私も見たかった……」
王族の保養地として、こんな場所があるとは知らなかった。
森に囲まれた湖近くの別荘。まあ、休養を取るには丁度いいのかもしれない。
今日はアキラ様と殿下が婚姻される日。
……これで正式に殿下の伴侶となってしまわれるアキラ様。
成人もなされて、さぞ美しく神々しく艶やかで可憐であっただろうに。
そのお姿を一目も見れないだなんて……!!
「まあ諦めろよ」
「そうですよ。アキラさんがお幸せであるなら、それで十分なんですから」
「大体、なんだってそんなに殿下や団長方に嫌われてるんだ?……ああ、いや、嫌われてるのとは違うな。警戒されてる、っていうほうが正しいのか」
「……それは、……自業自得なので」
明かりの灯る別荘が少しだけ見える森の中の一角。
小ぶりの天幕を張り、焚き火を用意し、周辺の天気見回りを任せられている。
もう少し夜闇が深くなったら交代しながらの夜警だ。
「自業自得ねぇ……」
まだ何かを聞きたそうなブランドン殿。
「そもそもアキラさんに懸想してるってことだけで警戒対象でしょう」
どういう経緯かよくわからないが、私とはまた違ったアキラ様への親愛の情を向けるミルド殿。
「……よくこの兵団に入れたな」
「粘りましたから」
「粘り勝ちか。……元々貴族だったんだよな?」
「ええ。リーデンベルグで。三男でしたから、さっさと冒険者になる道を選びましたが。……それもこれも、すべてはアキラ様に出会うための、女神様のお導きだったんですね。もし万が一にでも他の貴族のもとに婿として入っていたら、これほどの運命的な出会いははたせませんでした」
「あー……、ブランドンさん、すみません、私さきに仮眠を取りますので」
「え゛」
「本当にアキラ様は女神様に匹敵するお方なのです。あの神秘的な黒髪と濡れて黒い宝石のように艶めく瞳……。ああ、せめて専属護衛としてお側に置いていただければ……!」
「おやすみなさい、ブランドンさん」
「いや、まて、ミルドっ。俺が先に」
「あの慈愛の微笑み……。元気な少年のような溌剌とした笑顔も素敵ですが、やはり私は」
「ミルド……逃げやがった……っ」
「だからせめて遠目からでもあのお方のお姿を目に焼き付けたかった……!」
「あー………、エアハルト?落ち着け?わかったから。お前がアキラさんに惚れ込んでるのはわかったから」
「惚れ込んでいるなどと、軽い気持ちではありません…!!親愛、敬愛、どれも足りない。私のこの心を表す言葉は、相応しい言葉はなにもないのです」
「いや、お前の思考が怖――――」
「至高……!!!!そう、至高の存在なんです。唯一のかけがえのない、全てが完璧な存在であるアキラ様……!!!」
「あー……」
「アキラ様をお守りするためならば、私のささやかな魔力でも、全て差し出すというのに……!」
「………あ、駄目だこいつ」
私はアキラ様への想いを語り続けた。
溢れるこの想い。いつかアキラ様にも伝えたい……!!
◆ケイン&ディック&リオ
「多分そろそろ生まれるんだ」
「「え!!」」
「だから、仮眠は二人でとってくれ。俺は交代と同時に一旦ここから離れるから」
「ええ。わかりました。……というか、今からいかなくていいんですか?」
「……ちゃんと仕事はしろ、と、嫁が言うんだ」
「あー……、ケインさん、お嫁さんのほうが強いんだね」
「うぐ」
「こら、リオ」
焚き火の前で、座るディックの足の間に収まって、背後から抱きしめられるような感じで座ってる俺。
ディックと恋人同士なのはみんな知ってるし、いいんだもん。
「まあ……嫁には頭が上がらないから」
「全く……。リオ、人の家庭のことを勝手に決めつけるな」
「えー?だって、お嫁さんの方が強いと、ずっとその家は幸せなんだよって、婆様が言ってたよ?」
「あー…なるほど」
「それに、ケインさん、王都から離れることも多いから、どっしり構えて待っててくれるお嫁さんのほうがいいじゃん」
「………ああ。すごいな、リオは。意外と色々考えているんだ」
「『意外と』は余計でーすーっ」
酷いなぁ。
俺だって色々考えるのに。
「うんうん。リオはいつも考えなしの無鉄砲に突っ込んでいくけど、考えるときは考えてるって知ってるから」
「ディック、それ俺のことけなしてるよね!?」
「いやいや」
「安心しろリオ」
「ケインさ~ん」
「お前が猪突猛進なのは兵団の全員がしってることだから」
「………」
酷い。
あまりにも酷いから、ディックの顎に頭突した。軽く、軽く。
ふんっ。
◆ネイトリン&ヘイデン&ユージーン
腕試しのつもりで出場した御前試合。
とんとんと進んでしまった決勝の前に少しだけ息抜きしようと会場の外に足を向けた。
……まさかそのときに迷子を見つけてしまって親を探している間に、決勝が始まっていて棄権扱いで不戦敗してるなんて思いもせず。
且つ、剣を扱う者なら誰もが憧れているであろう第二王子殿下から、入団の声をかけられるなんて。
……誰が想像しただろうか。
「それにしても殿下は本当に変わったな」
ネイトリンさんが焚き火に薪を足しながら、ちらりと明かりの灯る屋敷の方に視線を流した。
「そんなに変わられたんですか?」
「そうだなぁ。あれは別人だよ」
「別人…?」
ヘイデンさんまで笑いながらそう言った。
「ユージーンはわからないだろうな。お前が入ってすぐ、アキラさんが来たから」
「そうだな」
お二人が頷きあう。
それにしても別人だなんて。
「そういえば、ユージーン」
「はい?」
「エーデル伯爵のご令嬢に婚約でも申し込むのか?」
「え゛」
「ああ。ダンスの相手役とかもしてたな。随分と楽しそうだったが」
「え、いや、あの」
「ん?あー…だが、セシリア殿はエーデル伯爵家の跡取りか」
「領地経営に協力してくれる相手を探してると聞いたな」
……伯爵家の次期当主。
婿取り。
領地経営……。
「まあ………あれだ」
ヘイデンさんが慰めるように私の背中を叩いた。
「諦めろ」
「……っ、いいんですよ……っ、そんなんじゃありませんから……っ」
年下にも関わらずあのしっかりとした考え方と物怖じしない態度。殿下やアキラさんばかりでなく、王太子妃とも懇意にしているご令嬢。
私が特別になりえないことなどわかりきっている。
……はぁ。
短い恋だった……。
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