上 下
515 / 560
第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

92 夜会③ ◆クリストフ

しおりを挟む



 婚礼衣装に身を包んだアキは言葉も出ないほど綺麗だった。
 あれ以上はないと思っていたが、夜会服を纏うアキはまた別の美しさがあり目を引く。
 いずれにしても、その体を包むのは俺の色だ。他の色は必要ない。俺の色を纏って嬉しそうに微笑むアキが、何よりも美しく愛らしい。

「女の子ぽくない?」

 アキの可愛らしさに合わせ、ふんだんにあしらったレース等の飾りを気にしているんだろうけど。
 するりと頬を撫でれば、不安げな瞳で俺を見上げてくる。

「何も問題ない。今すぐ攫いたいくらいに綺麗だ」
「攫うってどこに。……綺麗とか、それはクリスの贔屓目だからね……」

 言葉で軽く否定しつつも、アキの頬には朱が差す。不安をにじませていた目元は僅かに潤み、黒い瞳が妖艶に光る。
 …その表情は駄目だよ、アキ。
 それは、ベッドの中で俺だけが見ることができる表情だから。
 最後にメリダが化粧を直し、夜会服も軽く整えた頃、夜会へと呼ばれた。

「いってきます!」
「はい。楽しんできてくださいな」

 アキの言葉を受け微笑んだメリダに視線を流せば、小さく頷きが戻ってきた。
 楽しみでならない。
 アキはどんな反応をしてくれるだろうか。

 広間に向かう間に「緊張する」と話すアキの手を、指を絡めるように繋ぐ。
 何も心配することはないんだ。
 アキのためなら、実力以上のものを発揮できるから。
 少し安堵したような表情を見せたアキの額に、軽く口付ける。
 濡れたように光る唇を貪りたい。
 耳を強調するような髪型だから、右の首筋にどうしても目が行く。ちらちら見える項に口付けたい。
 アキの体が俺にピタリと寄り添う。
 服越しに伝わる体温がいい。
 それだけで欲情しそうだが。
 ……今日この日まで耐えてきたのは自分自身だが、触れ合うだけじゃなく抱けばよかったのか。
 婚姻式を終え、正式に伴侶として認められた。もう何も遠慮しなくていいのだと思うと、こんな夜会など無視してベッドに縛り付けたくなる。
 泣いても離さない。
 寝かすこともできない。
 意識を飛ばしたのなら、すぐに引き戻す。
 細い腰を掴んで、奥の奥まで突き上げて――――

「クリス?」
「……ん?」
「……や、なんか、ちょっと」

 少し戸惑ったようなアキの表情。
 思わず苦笑してしまった。

「大丈夫だよ」

 こんな浅ましい思考はアキに知られたくない。





 貴族との挨拶はそこそこに、今まで練習を頑張ってきたアキとのダンスを終えて、さっさと夜会を抜けたいと考えていたのだが。
 要職に就いている者たちを蔑ろにはできず、アキの腰を捉えながら、不快な視線を向けてくる者たちをアキに紹介し続けた。

「素晴らしい婚姻式だったと聞いております。参列者を限られていたとか。是非私も参列したかったものです」
「それは申し訳ありませんでした。アキが病み上がりでしたからね。あまり時間をかけたくなかったので。デルエ伯爵もお仕事が大変お忙しいと聞いておりましたから、アキの体調次第で中止になる予定だった式にお呼びするわけにいかないと判断いたしました」
「なるほど。女神様からも特別な配慮を頂いたのでしたな。今はお顔色も良いようで。……ですが、そのような体調では、今後の殿下の公務にも差し支えがあるでしょう。どうでしょう。これは私の姪に当たりますが、心優しい娘で、妃殿下と歳も変わらず、良きお話相手にもなるかと」

 自信満々に傍らの少女を臆面もなく紹介してくる。
 どうでしょう、とは、俺の第二妃にということだろう。
 貴族らしく整ったカーテシーをする少女をちらりとみつつ、アキの腰を抱く手に力を込める。
 ふと俺を見たアキには憂う雰囲気はなく、それどころか俺に微笑みかけ、体を僅かに俺に預けてきた。
 その仕草に俺の中にも余裕ができる。
 アキが軽く流していることに、俺が一々腹を立てていても仕方ない。

「デルエ伯爵」
「はい、殿下。姪は――――」
「アキの話し相手など必要ありません。私が嫉妬で狂いそうになりますから。彼女に相応しい方がこの夜会で見つかると良いですね」

 伯爵の笑顔がひきつる。
 令嬢の肩もびくりと震えた。

「そ、それはそれは。差し出がましいことを。で、では、私どもはこれで」

 逃げるように俺たちの前から去っていく。
 この会話が聞こえていないはずもないのに、その後も子や親戚筋を勧めてくる貴族たち。
 苛々が募り始めたときアキの顔を覗き込むと、口元には薄っすらと笑みを浮かべ、自信に満ちた表情かおをしていた。

「いい顔だ」
「そう?」

 次の貴族が俺たちの前に進み出て、口を開いた。
 俺はそれを聞くことなく、アキの瞳を見続けた。

「殿下?」

 もういいだろう。必要なことは終わった。
 アキにとって益になる者たちとは、すでに言葉をかわし終えている。

「アキ」

 頬を撫でれば、察したのか、アキは微笑み俺に身を委ねてくる。
 薄く開く唇に誘われるまま、口付けていた。
 舌を入れるのは駄目だ。蕩けた顔を見られてしまう。
 アキの瞳は嬉しそうに俺を見つめたままだ。
 長く唇の柔らかさを楽しみ、名残惜しく舐めてから離れた。
 上気した頬。
 薄っすらと濡れた瞳に、俺の劣情が頭をもたげる。
 もう耐えられない。
 アキの左手をとり、薬指に嵌まる指輪に口づけた。

「私と踊っていただけますか?」
「はい」

 嬉しそうに弾む声。
 アキの手を取り、広間の中央に歩み出る。
 貴族たちが呆然としているが関係ない。
 アキの腰をしっかりと抱き、楽団に合図を送れば、すぐにゆったりとした曲が流れ始めた。


しおりを挟む
感想 541

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

処理中です...