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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

90 夜会①

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 軽食を摂って、改めて着替える。
 夜会用の服は婚礼衣装よりも光沢のある白銀で、上着の裾はそこまで長くはない。袖や襟とかに青色が入っている。青銀色…は、あまり使わない。これはお兄さんの色だから。

 夜会服だから、本当ならもっとカラフルな物が良かったらしいのだけど。それこそ暖色系のピンクとかオレンジとか。
 試着のときに生地をあてられて、ソリアさんたちから可愛いとか似合うとか言われたけど、俺としてはその辺の色は断固拒否したかったし、クリスもよしと言わなかったから、『基本のクリス色』に落ち着いた。
 ただし、光が当たるとキラキラする光沢仕様。フリル満載、レース満載、飾り満載。ダンスのときにはあちこちが揺れたりなびいたりするらしい。
 そのあたりはもうどうしようもない。クリスが良いって言ったから採用だし。
 俺からの要望は、色と、『ダンスのときに足に引っ掛けないもの』ということだけ。ほかは任せっきりだった。

 袖を通すのは今日が初めてだけど、直しは全く必要ないらしい。婚礼衣装に合わせているからだとか。

「ああ…いいな。綺麗だ、アキ」
「ええ。お似合いですね」
「そう?」

 クリスが目を細めて嬉しそうな表情。
 メリダさんに促されて椅子に座ると、髪を直される。
 その間にクリスも着替え始めた。
 黒…ではなくて、俺と同じ光沢のある白銀の夜会服。俺の服からフリルとレースを取り除いた同じデザインのもの。違うのは、青色を入れてる部分は、クリスの衣装では黒色を入れてるところ。
 左の耳を出すように左側だけ編み込まれていて、あとはざっくりと結ばれた髪。束ねているのは少し光る黒色の紐。
 俺の髪型も、右耳がよく見えるように右側は編み込まれたりと調整されてるらしい。
 俺とほぼ同じものを着ているクリスだけど、格好いいなぁ…ってクリスに見惚れてたらメリダさんに笑われて、顔を優しく掴まれた。

「坊っちゃんばかり見ないでくださいませね。お化粧も直さないと」
「ぁい」

 髪や化粧を直されてる間、俺はじっと座ってるだけだから、マシロは俺の膝の上で寛いでいる。
 夜会の間はメリダさんがマシロを見てくれるから心配もない。

 支度を終えてちょっと緊張してきたな…と思ったところで、侍女の人が呼びに来た。
 メリダさんとマシロに「行ってきます」と言葉をかけて、クリスの手を取って歩き始める。
 向かう先は大広間。

「……クリス、緊張する」
「ん?」

 歩きながらだけど、俺を見るクリスの目が優しい。
 重ねるだけだった手を、指を絡める『恋人繋ぎ』に変えて、ぎゅっと握ってくれた。

「何も心配することはない。会場にいる誰よりもアキが綺麗だ」
「……や、そういう心配じゃないし、そもそも緊張と心配は違うよ?」
「何か心配事、不安があるから緊張するんだろ?」
「……そういうもの?」
「違うのか?」

 うーむ。
 違う気もするし、そんな気もする。

「ダンスのことが心配だと言うなら、何も問題はない。必要なことはしっかり覚えているんだから」
「……でも、頭が真っ白になったら」
「アキの相手は誰だ?」
「……クリス」
「なら、何も問題ないな?」

 問題、ないのか。
 俺がどんなミスをしても、クリスがフォローしてくれるってこと。
 確かに心強い。全幅の信頼を寄せられる。

「うん」

 頷いた俺の頭を軽くなでて、腰を少しかがめたクリスが額にキスを落とした。
 もうなんだかそれだけで緊張がほぐれてしまう。
 嬉しくて仕方ない。
 お互い握る手に力を込めて、これ以上は無理ってほどに体を寄せ合いながら会場に向かった。





 大広間はとても綺羅びやかだった。
 電気はないはずなのに、高い天井にはシャンデリアのような照明器具。
 そして、着飾った、人、人、人。
 クリスは会場に入ってから、迷うことなく進む。
 その先には陛下とお兄さんが待っていた。
 そこで二人から改めて「おめでとう」とお祝いを伝えられて、夜会が始まった。
 陛下とお兄さんは顔出しだけで会場からいなくなった。最初のダンスを踊るまでは主役はあくまでも俺たちだから。

「素晴らしい婚姻式でした」

 クリスが婚姻式に呼んでいた貴族さんは、目を輝かせながらそう話してくれた。
 それ即ち、あのやらかした式をしっかり見られてるってことで、俺にしてみたら恥ずかしさでどうにかなりそうなものなんだけど。まあ、でも、嫌な顔はされないからいいのか……。
 クリスから誰がどうとか紹介されたけど(役職とか爵位とか色々)、陛下との謁見のときにそういえば見たかも…?とか、そんな認識しか持てない。流れるような説明で顔と名前と役職と爵位を一致させるのは、俺には無理。最初から匙投げる。
 とりあえず国のお偉いさんは覚える努力をするよ。
 でもさ、新しい宰相さんはティーナさんのお父さんってこともあって、俺に対しても裏表がないというか、嫌な感じがしないけど、他の人はにこにこしながら俺を値踏みしてる感じで、落ち着かない。
 クリスの腕は俺の腰に回っている。
 挨拶を受け始めてからずっと。
 ご令嬢さんやご令息さんを伴って堂々と紹介してくる貴族さんとかが来ると、腕に力が入る。声を荒げるようなことはしないけど、視線はどこまでも冷たい。
 その視線に負けじと…いや、気づいてないのか、ご令嬢ご令息方以上に着飾った保護者たちは、喜々と身内自慢と我が子を第二妃にと『お勧め』してくる。
 出自のよくわからない子供な俺(本日成人したけども)など、眼中にないらしい。それでも『第二妃に』と勧められるあたり、一応、俺とクリスの結婚自体は認めたというところかな。
 ……ああ、そして、俺。
 こんなこと冷静に分析してるあたり、ちょっと冷静なんだと気づく。もしくは余裕?クリスは俺のものだから…っていう、自信。
 大丈夫だろうか。俺、嫌な奴になってないだろうか。

「アキ?」
「ん?」

 挨拶の人が切り替わるとき、クリスが俺の顔を覗き込んできた。


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