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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

89 小休憩

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 神殿から城のクリスの部屋に戻る。
 涙でぐちゃぐちゃになった顔。メリダさんが温タオルを作ってくれたので、それを押し当ててクリスの膝枕で寝転んでいた。

「ベッドで休めばいい」
「……起きれなくなっちゃうし、ここがいい……」

 胸にマシロがいて。
 クリスが頭を撫でてくれて。
 凄く幸せで、疲れていて、でも嬉しくて。

 ごてごてしてる上着は脱いだ。
 今は軽いシャツだけ。
 上着についていた勲章とかは、メリダさんがしっかり片付けてくれたから、無くす心配はない。
 クリスも上着は脱いでいて、俺と同じようなシャツだけ。

 タオルをどけてクリスを見上げたら、「どうした?」って顔で微笑まれた。
 その微笑みに笑って返して、自分の左手を顔の前に上げて、クリスと俺の色があしらわれた指輪を眺める。
 ……自然と口元がニマニマしてしまうんだから、不思議。

「……すごく、幸せ。ね、クリスも?幸せだと思ってる?」
「当然だろ。アキとの絆が一つ増えたんだ。これが幸せでなくて、何が幸せになる?」
「ふふ」

 ごろんって体の向きを変えてクリスの腰に抱きついたら、マシロがびっくりしたように俺から降りて(落ちて)、前足で俺の腕を叩いてきた。

「ごめん、マシロ」
「んみゃ」

 でも、クリスから離れられない。
 俺が元の姿勢に戻る気がないのがわかったのか、マシロは俺の腕とクリスのお腹あたりに、頭を突っ込んで潜り込もうとしてくる。
 ……可愛い。

「……そういえば、マシロ」

 ぺろりと頬を舐められた。

「……結婚式の時、ちょこっと破ったよね?」
「ん?」

 マシロの動きが止まったのを見て、体を起こしてタオルをメリダさんに渡す。
 クリスの隣に座ろうとしたら、あっさりと膝の上に抱え上げられたから、定位置に落ち着いた。
 なんとなく体をちっさくしたマシロを両手で抱き上げたら、ちらりと俺を見てクリスを見て、ぷるぷる震えだした。
 ……なにこれ。かわいそうだけど可愛い……。
 耳は伏せてるし、尻尾は後ろ足の間に挟んじゃってるし……。

「いつ?」
「女神様が祝福してくれたときとか。もの凄い勢いで尻尾を振り回してて、多分マシロも興奮しちゃったんだと思う。すぐちゃんと隠してたから、リアさんも気づいてないと思うけど」

 リアさんだけじゃなくて、近くにいた他の誰も気づいてないはず。
 マシロは相変わらずプルプルしてる。

「マシロ、怒ってるわけじゃないから。大丈夫。マシロも俺たちのこと、お祝いしてくれたんだよね?」

 小さく頷いてる……ように見えるマシロ。
 足の間に挟まってた尻尾は、だらんと下に降りたけど、クリスのため息の音に、ぴしっと固まってた。

「まあ、いい。今回だけだぞ、マシロ」

 クリスがマシロの頭を撫でた。指で。クリスの手、大きいから。

「アキの傍にいたいだろ?」

 頷くマシロ。
 まだ子供なマシロに、けっこう大変なことを言ってるのはわかるから、もう少ししたら、普通に過ごせるようにさせてあげたいけどね。
 でも今はまだ、無理かな。

「軽食を準備しましたから。お召し替えの前に少しお召し上がりくださいな」

 メリダさんの声に、俺たちの意識がテーブルの方に向いた。なんという早業。

「マシロにもミルクを用意しましたから。何を悪戯したんですか?せっかくのお祝いの日なんですから、お許しになられたらどうですか?」
「あー……はい。そんなに怒ってないし」

 顎の下のあたりを撫でて、マシロの耳が復活してきたのを見てから、テーブルの上におろした。
 でも俺たちに怒られたと思っているらしいマシロは、俺の手から離れない。

「もういいよ。そんなに怒ってないから。ほら、ミルク飲もう?」

 テーブルの上に、サンドイッチと紅茶。それから、マシロ用のお皿に入ったミルク。
 マシロはミルクと俺を交互に見てから、また項垂れてしまった。
 怒ってない、っていうのは伝わってると思うんだけどなぁ。
 いそいそとクリスの膝の上から降りて、隣に腰掛ける。マシロのお皿を手元に引き寄せて、最初にやったようにミルクを指につけた。

「ほら、マシロ」

 大きな赤い瞳で俺を見て、小さな舌で俺の指をなめ始めた。
 マシロ、俺の使い魔になっちゃったし、魔物だし、言葉も理解できてるけど、でも、まだ子供なんだよね。小さな子供。俺の片手に乗ってしまうくらいの。
 だから、失敗しちゃうこともあるよね。むしろ、失敗しないほうがびっくりだ。

「心配しなくていいからね。俺たちがマシロの傍からいなくなるなんてことないから」

 指をなめ終わってまた俺を見上げてきたマシロの頭を撫でる。
 それでようやく安心したのか、マシロは気持ちよさそうに目を閉じて耳を震わせていた。

「だから、甘やかすなと…」

 クリスの苦笑の声はするけど、甘やかすときは甘やかすの。というか、甘やかしたい!

「……は」

 マシロが俺を見上げるように、俺もクリスを見上げた。

「ん?」
 
 なるほど。

 納得した俺は、サンドイッチをつまみ上げ、クリスに向けた。

「はい。あーん」
「………」

 ぴしりと固まったクリス。
 あれ。違ったのかな。
 マシロに食べさせたんなら俺にもーってことだと思ったんだけど。
 間違えたかと首を傾げたら、クリスは笑って俺の手から食べた。
 あ、よかった。間違ってないようだ。
 いつも食べさせてもらってるからね。たまにはちゃんと俺もしなきゃね。
 大きくはない一切れの最後の一口を口に入れたとき、クリスに指まで甘噛みされた。

「ぅわっ」
「美味いな」
「指、指っ」

 指まで食べなくていいと思うんだが!

 飲み込んだクリスは俺の手首を軽くつかんで、手のひらにキスをしてきた。
 それから、手首に唇が滑っていく。

「ん……っ」

 無駄にドキドキする。
 クリスの視線も熱く感じるし。
 手から唇を離したクリスの視線が俺を捉える。
 好き。
 どうしよう。
 好きとしか、考えられない。

 顎の下に指が添えられて、望むものが来る。
 目を閉じるのは勿体なくて、クリスの綺麗な瞳を見ていた。
 近づいてきて唇が触れ合う瞬間、『ぺし』って音がした。
 馴染みある音に視線を移したら、いつの間にか俺の腕によじ登っていたマシロが、クリスの手に安定の尻尾アタックを仕掛けていた。
 うん。元気になった。

「………邪魔するな、マシロ」

 クリスの低い声。
 でもマシロは怯むことなく、アタック続けてる。

「アキは俺のだ」
「みゃ」
「アキが俺を優先させるのも当然だろ」
「んみゃっ」
「マシロは二番目だ。俺の次」
「みっ」
「俺は伴侶だ。お前とは違う」
「うみゅぅっ」
「わかればいい」

 ………クリスとマシロの、突如始まった言い争い?を、俺とメリダさんはただただ見ていた。
 意思疎通してる。クリスとマシロが普通に話してる。
 内容は置いといて、なんか微笑ましい光景に、俺とメリダさんは目を見合わせて笑っていた。



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