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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
88 婚姻式⑩
しおりを挟むラルフィン君の最後の言葉で式は終わった。
神殿長さんからも退室の声がかかって、クリスに抱き上げられたまま、長椅子の間を移動する。
そしたら何故か拍手が…。
ふ…っと笑ったクリスは、むき出しの俺の額にまた軽くキスを落として、拍手の中礼拝堂を後にした。
ああ……終わったんだ……って思った途端、クリスの腕の中で脱力してしまう。
扉を出たところで待っていた神官さんに案内される形で、控室とは違う部屋に入った。
部屋の中にはソファとテーブルがあって、テーブルの上には焼き菓子とお茶が用意されていた。
クリスはソファに座ってから俺を降ろすと、ヴェールを後ろに撫でつけて、触れるだけのキスをしてきた。
誓いのキスの時とは全く違う穏やかな触れ合いだけ。目は細められてるだけで、俺のことをずっと見てる。……俺も、見続けてる。
唇を離して微笑んだクリスは、俺の左手を軽く持ち上げ、婚姻の証の装身具に口付けた。
「愛してる」
「うん」
「やっとだ……アキ」
安堵したような、嬉しそうな、そんな声音。
そっと背中に回ってくる手が、服越しだというのに温かく感じる。
クリスは服を気にしながら俺をソファへと沈めた。
「ん…っ」
また、キス。
でも今度は触れるだけじゃない。
唇を舐められて薄く開くと、すぐに熱い舌が入り込んできた。
恐る恐る腕を伸ばして、クリスの首にしがみつく。婚礼服だから、腕が上がりにくいかなと思ったけど、そんなこともなかった。
「ん……、ふ、ぁ、んっ」
今までだってあまり遠慮はしてなかった。
婚約者って立場だけだったけど、クリスの相手は俺しかいないと思っていたし、俺の周りは俺を受け入れてくれる人が多かったから。
クリスの行くところにも普通についていったし、一緒に行くって我儘も言った。
部屋なんか最初から同じ部屋……というか、クリスの部屋を使っていたんだし。
気持ちは、ずっと変わらない。
結婚式をしていなくても、クリスの『伴侶だ』って変な自覚はしてたし。
「くりす……すき…、すき……っ、ん、んんぅ」
今まで以上に遠慮なんてしない。
だって、もう、誰にだって胸を張って言えるんだ。『クリスの伴侶です』って。
王族に認められてる一夫多妻だけど、クリスは二人目なんて迎えない。俺だけだ、って言ってくれたから。
俺だけのクリス。
唾液を飲み込めば、慣れた魔力が体の中から温めてくれる。じわじわとしみていって、俺の魔力と混ざって、同じものになる。
もっと欲しくて自分から舌を絡める。
今日の行事が全部終わったわけじゃないけど、俺にとってのメインは終わった。
だから、甘えたっていいよね?
装飾の多い服。
ソレに気をつけながら、クリスは俺に覆いかぶさってくる。
クリスの重みが好き。
閉じ込めてほしい。
クリスの腕の中から出たくない。
濡れた音を立てながら、キスはずっと続いてる。気持ちいい。
クリスが少し腰を揺らす。
……駄目だよ。我慢、できなくなるのに。
「んゃ……」
「気持ちいいだろ?」
「んんぅっ」
楽しそうな声音で言われた直後に、また深くキスをされる。
俺のことをよくわかってるクリスの舌は、上顎をくすぐるように舐めて、舌を絡めてくる。
結婚式の時から反応してた俺の体が、もっと熱くなっていく。
「……可愛い」
唇を離して微笑んだクリス。
「欲しいか?」
そう言いながら太腿の内側をするりと撫でていく。
「ひぅっ、や、だめ…っ」
「ここ…舐めてやろうか?」
足を撫でた手が、頭をもたげてるのがバレバレな俺の息子を軽く撫でた。
直接的な言葉と刺激に、また育った気がする。
「ここ、しんでん……、だから…っ」
なけなしの理性でそう言うと、クリスはまた笑って手をどけてくれた。
「神殿だろうがどこだろうが、アキが望めばすぐにでも抱くけどな?」
そんなことを耳元で、なんなら耳朶を舐めながら言って、笑ったままのクリスが俺を抱き起こした。
心臓……やばいくらいドキドキしてる。
クリスは何事もなかったかのように俺を膝の上に座らせて、用意されていた紅茶を一口のんだ。そのカップを俺にも渡してくれた。
少し冷めていたけど、十分美味しいし、クリスと同じカップで飲むっていうことに、何故か特別感があって口元がニマニマしてしまう。俺の分もちゃんと用意されているんだけどね。
「……口元はすっかり化粧が取れたな」
「まあ……そりゃ……」
あれだけキスしてれば、口紅だって取れるよね。
クリスはずっと楽しそうに笑ってて、何度も俺の頬を撫でてくる。
「でも、あと戻るだけだよね?」
「ああ。…夜会の前にメリダに直されるだろうし」
「夜会……ダンス……」
「何も心配することないよ」
ふわりと抱きしめられて、自然と笑みが浮かぶ。
「うん」
緊張はするかもしれないけど、クリスと一緒だし、クリスと踊るんだから。大丈夫。やらかしてもフォローしてくれる。
紅茶を飲み切る頃には、昂っていた俺の体もなんとか落ち着いた。
それを見計らったように、「そろそろ行こうか」と、クリスが俺を抱き上げて部屋を出る。
裏口的なところから城に戻るのかと思ったけど、クリスが向かったのは神殿正面の出入り口だった。
誰も残っていないのか、神殿の中はやたら静かだった。まあ、でも、行事は終わったわけだし、参加していた貴族の人も夜会の準備があるのだから、さっさと一時帰宅してもおかしくないから、何も気にはしなかった。
扉に手をかけたクリスが、何故か俺の額にキスをしてきた。後は帰るだけなのにね?
でも俺のそんなのんびりした考えは、クリスが扉を開けた瞬間霧散した。
「おめでとうございます!!」
神殿を一歩出たところで上がる声は、一つや二つじゃない。いくつものお祝いの声が飛び交う。
「え」
なんというか、みんないた。
クリスは笑いながら俺を地面におろしてくれた。
俺はまだ状況が飲み込めなくて呆然としたままだったけど。
だってさ。
本当に、みんなだったんだ。
メリダさんも、リアさんも、クリス隊のみんなも、濃緑色の第二騎士団の人たちも、ラルフィン君や幼馴染みズも、暁亭でよく知る冒険者の人たちも、多分この間の襲撃のときに一緒になった他の宿の冒険者の人たちも。
「おめでとう、アキラ、クリストフ」
「ギルマス」
いつものこれぞギルマス!って格好じゃない、貴族のような格好をしたギルマスが、俺達のそばに来た。
「ギルマス、なんで」
「レヴィアス・ベルエルテと申します。王子妃殿」
「え?」
「リーゼンベルグにて伯爵位を賜っております。家の方は弟が継いでいますが」
「ええ?」
「今日の婚姻式に唯一の他国からの使者だよ、アキ」
「嘘でしょ?」
「それが本当なんだよな。まあ、俺がお前らを見たくて、クリストフにねじ込ませたんだがな」
なんとなくギルマスがあの場にいた理由は理解したけど。
ギルマスがリーデンベルグの貴族?
……想像……、できない。けど、言われてみれば納得も………する、かなぁ?
「え……と、ベルエルテ、殿?さん?伯爵??」
「ギルマス、だろ?」
ギルマスは喉の奥でくくく…っと笑った。いつも通りのギルマスの顔でほっとする。
「冒険者たちもお前のことを祝いたくて集まったんだよ。王族の婚姻式に冒険者達を入れることはできないからな」
「それで…」
改めてみんなの方に視線を向けると、また「おめでとう」の嵐が巻き起こった。
クリスに手を引かれ、また一歩踏み出すと、全員が手に持っていた何かを空に向かって放り投げた。
それは薄ピンク色の花弁。
そして、所々で行使される風属性の魔法。
「あ」
優しい風に花弁が舞う。
「すごい」
まるで桜。
その光景に感動してたら、胸元に何かが飛びついてきた。
慌てて抱きとめたら、マシロが必死に俺にしがみついていた。
「マシロ」
「んみゃ」
マシロが尻尾を振った。
そしたら、ピンク色の花弁が光を纏う。
「……すごい、綺麗」
じわりと、涙が浮かんでしまう。
「ありがとう……、嬉しい。みんな……ありがとう…!」
泣き笑いで、駆け出す。
みんなが俺を取り囲んで、おめでとうおめでとうと祝福してくれる。
ラルフィン君と抱き合ったり、リアさんと抱き合ったり。
それなりにもみくちゃにされながら、俺のことを認めてくれてる人がこんなにいるんだ…って、実感してた。
幸せだよ。
すごく、幸せ。
そのうちクリスに抱き上げられて。
お開きになったけど。
「クリス」
「幸せだな」
「うん」
しばらく涙が止まらなかった。
*****
婚姻式、ようやく終わります。
引っ越しの片付けは、色々トラブルを起こしながら一旦終わる感じです。
ベッドのすのこが夜中に突然の破損してマットレスが落ちたり、食卓テーブルの止めねじが全部紛失して泣きを見たとか……ふふふ。もういろいろ。
毎日掲載まではもう少しかなと思いつつ、掲載頻度を上げていきたいと思います。
もう少し、お付き合いくださると嬉しい限りです^^
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