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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
86 婚姻式⑧
しおりを挟む自分の左手の薬指に嵌まる指輪を見ていたら、どうしても口元がニマニマしてしまう。
お揃いの装身具…って、なんか、いい。
耳飾りだって羽根飾りだって、お揃いには違いないけど、クリスが俺のためだけに用意してくれたものだから、余計に嬉しいんだと思う。
「それでは誓いの口付けを」
穏やかな式進行。
クリスは静かにヴェールを持ち上げて、後ろに流した。
久しぶりに視界がクリア。
改めて見たクリスは、…とにかく格好いい。それしか言葉が出てこない。なんなの。どうしてこんなにクリスは格好いいの。
黒が似合う…って思ってしまって、余計に恥ずかしくなる。自分の色を纏うクリスがいいとか似合うとか、遠回しに自分がクリスにお似合いなんだ…なんて、くだらないどうしようもないことを考えてしまってるようなもので。
そりゃ、当然、他の人を隣に立たせる気は全く無いけど。クリスの隣は俺だけの場所だから。
「アキ」
ぐらぐら色々考えていたら、クリスの指が顎の下に触れた。
……いつも通り。
みんなが見てる前で。
……それは当然のこと。
結婚式なんだから。
軽く。
多分、羽根のように軽く触れて終わるやつ。
でもクリスの瞳は、俺を甘やかすときみたく、細められていて。
心臓の音が煩い…と思っていたところで、唇にぬくもりが触れた。
やっと終わった…ってほっとしたら、唇が離れない。それどころか、舌が無理やり唇を割って入ってくる。
これ、どうしたら。
わからずビクビクしてた俺の舌を、クリスの舌が絡め取った。
ピタリと唇は重なっているのに、くちゅって濡れた音が漏れてる気がして余計に恥ずかしくなってくる。
……だってこれ、誓いのキスじゃない。
二人きりのときの、むしろベッドに入るときのような、凄く気持ちよくなってしまうそれ。
体も頭もそれを叩き込まれているから、そんなことをされたら、間違いなく足腰が立たなくなる。それだけで済めばまだいい方……。
離したくても離してくれない。
俺の腕の力なんて微々たるもの。
舌を吸われるごとに、抵抗なんて文字が消えていく。
こうしているのが当たり前なこと。
クリスのキスは気持ちが良くて。
とろりと体に流れ込む甘い魔力は、もっと俺の体をグズグズにしていく。
なけなしの理性を総動員した結果、クリスの首に腕を回すことはしなかったけど、もう、それだって、ほんとぎりぎり。
足が震える。
腰が熱い。
思いっきりすがりつきたい。
けど、なんとかクリスの胸元に手を添えるだけでやり過ごし。
その場にへたり込みそうな俺の体は、クリスが片腕でしっかり支えてくれて。
随分長いこと貪られてた気がするけれど、多分そこまでじゃないと思いたい。
やっと唇が離れたときには、俺とクリスの間に細い唾液の糸が繋がっていたし、なんせ俺の下半身は兆し始めてて。
それを隠すようにギュッとクリスが抱きしめてくれて、すぐに抱き上げられた。
恥ずかしすぎてクリスの胸元に顔を埋める。化粧が、胸元の飾りが、なんて、気にしてる余裕はなかった。
「殿下にこれほど想いを寄せる相手ができたことは大変喜ばしいことですが、アキラ様へのご負担もお考えください」
苦笑交じりの神殿長さんの言葉。
そうだよ。もっと言って!俺の代わりに!!
「愛しすぎて節度など忘れました」
ううう。
クリスの声いいけど、内容は酷い。…や、酷くはない、のか?ひたすら愛されてることはよくわかるけど。神殿長さんの言葉って、ちょっとは自重しろよ!ってことで合ってると思うんだ…。
俺も恥ずかしいからやめてほしい。ああいうのは部屋でしてよ…。
「全く…殿下はどのような時でも変わりませんね。女神様も貴方方が相愛であり続けることを望んでおられます」
動揺しないというか、少し苦言はあったけど、神殿長さんの声は柔らかくて優しい。
やっぱりいい人だなって感じる。
「では、お二人の婚姻に祝福を」
神殿長さんは祭壇の向こう側に戻っていった。
入れ替わるようにラルフィン君が俺たちの前に戻ってきた。
「クリストフ殿下、アキラさま。ご婚姻おめでとうございます」
「ありがとう」
にこりと微笑んだラルフィン君は、両手で器のような形を作って、目を閉じた。
たったそれだけの動作で、白く輝く光が舞い始める。
『お二人の婚姻に祝福を』
ラルフィン君がその手を少し高く掲げると、光は手の中から溢れるように流れだした。
『クリストフ、瑛』
ああ、また、だ。
ラルフィン君の様子が変わった。
いつもほっとする笑顔だったラルフィン君が閉じてた瞳を開けると、いつも夢の中で見るちゃぶ台で緑茶を飲みながら煎餅を齧るときの女神様のような表情と雰囲気になった。
成人の祝福のときのように。
『お前たちに女神の祝福を』
口元だけの笑み。
慈しむような瞳。
ラルフィン君が器にしていた手を解くと、流れ落ちていた光は何か形を取っていった。
ざわめく礼拝堂内。
光だったものは鳥のように形を変え、ラルフィン君の肩に乗る。
『礼だ』
その言葉とともに、光の鳥は肩を飛び立った。
聞いたことのある少し高い声で一度鳴いて、礼拝堂の中をぐるりとまわる。
舞っていた光は羽根のような形に変わり降り注ぐ。
「クリス」
「ああ。恐らく」
小声でクリスに確認をしたら、クリスはあっさり肯定した。
光の鳥は、聖鳥だ。
『クリストフ、瑛』
半ば呆然としながらその鳥を見ていたのだけど、呼ばれて二人で女神様を見た。
『幸せになれ。二人ならばどのような道でも開くだろう。私の力の及ばぬ物の処理は、お前たちに任せる』
………あ。魔物退治全面的に任された気がする。
と言うか、女神様、ラルフィン君に何言わせてるの…。
俺の視線の意味を察したのか、ラルフィン君はくすりと笑い目を閉じた。
それが合図だったかのように、俺たちの頭上を飛んでいた光の聖鳥は、ぱっと霧散し光の粒へと戻っていく。
『心からの祝福を』
瞳を開けて微笑みながらそう発したラルフィン君は、いつものラルフィン君に戻っていた。
*****
女神様、出たり入ったり(笑)
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