482 / 560
第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
60 ダンスレッスンは続く
しおりを挟む「アキラさん、ほら、リズムゲームですよ!」
「そんなこと言っても!!」
日のよく入る暖かな広間で、お茶会の後のダンスレッスン。
音楽再生できないから、ひたすらリアさんの、刻むリズムに合わせる形なんだけど。どこの貴族令息も令嬢も、大体こんな感じで練習を重ねるらしい。音楽は楽団の人をお願いしないとならないから、大変なんだって。
「じゃあ、ゆっくり、確認ですよ、一、二、三……、右足違います」
「あう」
「順番覚えましょう!順番通りに譜面が来るんですから!」
「鬼!」
「あと一週間しかないんですから、泣き言いわない!!」
「はぃっ」
俺に指導しながら、ゆっくり目のリズムを口で刻むリアさんは、自分もしっかりステップを踏んでる。
なんというか…とても器用。
笑いながら俺の手を握って腰に手を当ててくるクリスも、ゆっくりなステップを間違えない。俺とほぼ年齢の変わらない(はず)のユージーンさんも、苦笑しながらリアさんの相手をしてる。
貴族の人ってどんな時でも踊れるようになるまで、練習させられるのか……。
「はい、ため息禁止!」
「うう……辛いよぉ……」
「泣き言は」
「はいっ、禁止です!!」
駄目だ。
ダンスは完全に体育会系のノリだ。俺が苦手とする分野だ。これはリズムゲームじゃない。絶対違う。
「アキ」
ぐすぐすしてたら、耳元でクリスの声。
「足に風を纏わせられるか?」
「風?」
「そう」
「できる……と思う」
「なら、ちょっと使って?」
こそっと言われたことに、なに…って思いながら、足に風属性の魔法をかけてみる。ほんの少しだけ風をまとった足は、本当にわずかだけ、床から浮く。
「俺に任せて」
「え」
手を強く握られて、腰を強く引かれて。
クリスのステップに足を取られることなく、クリス任せのダンスになった。
でも、足を踏む心配も、ステップを踏み間違う心配もない。多分、傍目から見れば綺麗に踊れてるはずだから。
「アキ、何も考えなくていいから、俺だけを見ていて」
「ん」
ふわりと微笑むクリスは、完璧な王子様だった。
……あー……、これは、落ちる。
こんな顔してダンスしてたら、パートナーになった女性は絶対落ちる。一緒のフロアにいるだけで多分落ちる。
剣を持って戦う姿は格好いい。猛々しくて、男らしくて。なのに、動きは滑らかで乱雑さはなくて。
でも今は。ダンスのステップを踏む今は、もうなんか、キラキラしてて格好良さが戦うときとは違うベクトルになってる。
……やばいでしょ?
惚れる。
惚れ直すよね?
一通り広間をくるくる回って、クリスの中の曲が終わったとき、終わりの挨拶をされて、あたふたと俺も挨拶を返した。
……踊ってた(クリスにくっついてただけ)のに、クリスにずっと見惚れてた。
疲れじゃないドキドキが凄い。
「何も問題ないだろ?」
「問題しかないですからね?殿下」
……ハリセンで後頭部にツッコミを入れそうな勢いで、リアさんは呆れ気味に言った。
「それは最終手段ですからね?基本のダンスくらいしっかり覚えておかないと、今後恥ずかしい思いをするのはアキラさんなんですよ?」
「わかったから」
めっちゃ怒られてるけど、クリスは楽しそうに笑うだけ。
「足運びは確かに重要だけど、流れを覚えるのも大事だろ?」
「それはそうですが、今のアキラさんは殿下に見惚れるばかりで何も得ていませんから!」
……見惚れてたのバレてるし。
ああ……顔が熱い……。
でも、クリスが俺に微笑みかけてくれたら、俺もにへら…っと笑ってしまう。笑ってるクリス、好きだし……。
そうやって怒られたそばから二人でにこにこしてたら、リアさんから盛大な溜息が。
「ああ……もう。ちょっとお茶にしましょう。ユージーン様もご一緒に」
「ありがとうございます」
メリダさんは相変わらず絶妙なタイミングでお茶を用意してくれた。
隅に設置されてるテーブルに突っ伏したら、クッションの上で大人しくしてたマシロが、俺の頭をまたたしたしと叩いてきた。
……これは慰められているというより、遊べと言われてる気がするぞ。
「ん~~、マシロ、まだ駄目だからね。俺、もうちょっと頑張んないと」
「マシロ、アキは疲れてるから」
クリスが俺の頭を撫でてくれた。
ぼーっと見てたら、マシロは俺の顔の前に来て、鼻の頭を舐め始めた。
……ん。擽ったい。
「マシロ」
そんなマシロにクリスが手を伸ばしたら、華麗な猫パンチ炸裂。爪が引っかかるほどではないけど、目の前でクリスとマシロの攻防戦が繰り広げられていて、思わず笑ってしまった。
「……本当に殿下を牽制してる……っ」
紅茶の入ったカップを手に持ったまま、リアさんがプルプルと震えだした。ツボにはまったらしい。
「マシロ、駄目だよ」
身体を起こしてマシロに手を伸ばしたら、俺の手にはすんなりとすり寄ってきたマシロ。満足げな鳴き声まであげている。
「クリスのことペチペチしたら駄目。わかる?」
赤い瞳を見ながら言ったら、マシロはちらりとクリスを見て、……プイっとそっぽを向いた……。
「……マシロ、ちゃんと言葉を理解してると思うんだけど」
「アキの言葉には従順だな。理解してるんだろう」
「だったらなんでクリスにはこんな態度かなぁ……」
「気に入らないんだろ」
「何が?」
クリスが苦笑して、俺の額に唇を触れさせた。マシロに触れてた俺の手を握って、今度は頬に唇で触れてくる。
そしたらマシロが、ふさふさの尻尾をブンブン振って、俺の手を握るクリスの手を叩き始めた。
「……ペシペシ駄目って言われたからって、尻尾アタック……」
……と、またリアさんは笑い始めるし。
「マシロ、賢いですよね」
って、ユージーンさんは感心するし。
「じゃれてますね」
メリダさんは微笑ましそうに眺めているし。
「俺がアキに触れるのが気に入らないんだ。俺が触れるとアキは俺しか見ないからな」
………クリスはクリスで、そんな恥ずかしくなることをさらりと言ってくるし。
そしてマシロも、クリスの言ってることが正しい……みたいに、頷いてる、ように、見える。
「……俺って、そんなにクリスのことしか見てない……?」
「自覚がないというのは実におもし……厄介ですね」
リアさん、思い切り『面白い』って言ったね!?
「厄介じゃないだろ。アキは俺だけを見ていればいいんだ」
クリスは楽しそうにまた俺にキスをしてくる。暴れるマシロを片手で抑えながら。
……そもそも、クリスのことを見ないとか、無理でしょ?いなかったら探してるし。近くにいたらクリスにすり寄ってるし。
……うん。無理。意識的に見ないようにするとかも、意味分かんないし。よし。開き直る。好きな人は、大切な人は、ずっと見ていたい。
そして改めて思う。
ダンスの間は思う存分クリスのことを見ていられるんだ、って。あの王子様クリスを堪能できるんだ、って。
「よし」
紅茶を飲んで、立ち上がる。
「ダンス頑張る!」
決意とともに言ったら、なんかみんな、微笑ましそうな顔になった。
「……アキラさん……、脈絡なさすぎ」
吹き出しそうな笑い方をするリアさん。
「やる気が出たなら、ガシガシ行きましょうね」
ニコリと笑ったその笑顔に、俺の顔は引きつった。
「す……スパルタはイヤです……」
「ふふふ」
リアさんの不穏な笑みに、俺のやる気がしぼんでいったのは……言うまでもない……。
124
お気に入りに追加
5,496
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる