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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

56 第○○回御前試合⑤

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「どうした?」
「ん?…や、なんでもない」

 まあ、気のせいだ。…ってことにしておこ。
 マシロにはなんのかわりもないし。可愛い子猫のままだし。

「そろそろ戻る?」
「そうだな。メリダ、仕事を増やしてすまないが、その子猫を」
「マシロ!」
「………マシロを見ててくれ。弱ってるようだから、悪さもしないだろ」
「ええ。わかりましたよ、坊っちゃん」

 メリダさんはクスクス笑いながら、テーブルの上を片付け始めた。

「マシロ、ちょっと行って来るから、いい子で待ってて」

 って言いながらベッドの上にマシロを下ろそうとしたら、前足で服の袖を掴んで離さない。

「マシロ?」

 答えるように小さく鳴いたマシロは、よたよたとよろけながら、必死に袖を這い上がってきた。

「あらあら」
「マシロ…なに、どうしたの」

 マシロは俺の肩まで登ってくると、そこで力尽きたみたいにぐてっと伸びた。
 ……可愛い。あんまり見えないけど。
 クリスが溜息を付きながらマシロに手を伸ばして引っ張り上げようとしたのだけど、マシロは短い爪をしっかりと立てて、俺から離れない。

「……はぁ」

 あはは。
 ……もう笑うしかない。
 クリスが滅茶苦茶機嫌悪い。
 でもこれ、俺悪くないよね?ないよね?

「俺、このままでいいよ」

 これ以上拗らせるとまずいと感じて、最大限甘えたを発揮してみる。
 クリスの首に腕を回してきゅっと抱きついたら、雰囲気が少し柔らかくなった。
 正直、このまま会場に入るのは非常に恥ずかしいけども、俺とマシロの安全(色んな意味で)のためには、仕方ない。

「……わかった。メリダ、籠の手配だけ頼む」
「ええ。ご用意しておきます」

 クリスは俺を首にしがみつかせたまま、半横抱きみたいな姿勢で立ち上がった。マシロは一生懸命俺の肩にしがみついているみたいで、頬とか首に毛やひげが当たって擽ったい。
 予選はもう終わってるはず。
 イレギュラーなことがあったけど、まあそれなりにさっさと片付いたからね。

「陛下と兄上が一旦退席している頃だ。二人が戻り次第、本戦が始まる」
「ん。それまではクリスは見回り?」
「そうだな。オットーの報告を聞いて、会場内の確認をする」
「じゃ、俺も頑張るね」

 部屋を出るときにどちらからともなく顔が近づいて、しっかりと唇が重なった。






「身分に関わらず、皆、己の力を遺憾なく発揮してほしい」

 陛下のそんな言葉で午後の本戦が開始になった。
 王族席の中央には陛下が座っていて、右隣にお兄さん、左隣にクリスがいる。俺はそのクリスの左隣。
 何か視線を感じるのは、相変わらず俺の左肩でぐてっと伸びてるらしいマシロがいるからか。

 陛下とお兄さんが戻ったとき、俺の肩に乗ってるマシロを見て目を丸くしてた。
 午前の騒ぎのときに、あの男がけしかけようとしていた魔物(仮)だと知って更に驚いたみたいだ。
 けど、クリスから「ただの子猫」と説明を受けて、ホッとした様子。ついでに、苦笑気味のクリスが、お城(というより、クリスの部屋)で飼うことを申し出て、許可ももらえた。

「……それにしても、なんでアキラの肩にいるんだい?」
「あー……なんででしょう……」

 お兄さんが陛下もクリスも越えて、俺に聞いてきた。
 正直、俺にもわからない。
 マシロ、しがみついて離れないんだよね。

「置いて行かれそうになって、拗ねているんだろ。……この短時間で相当アキに懐いたみたいだから」

 ……って言うクリスの口調が、若干拗ねてるように聞こえる。

「……ああ、なるほど。子猫にアキラを取られたクリストフが拗ねてるんだね。だからそんなに機嫌が悪いのか」

 お兄さんは何も包もしない真っ直ぐな言葉でクリスに言った。
 お兄さんは笑ってるけど、言われたクリスは口を結んで無言で俺の腰を抱き寄せる。
 というか、みんな見てるから、恥ずかしくなるようなこと、やめてほしいんですけど!

「アキラ、後で触らせて」
「はい」

 可愛がってくれるのは嬉しい。
 肩の上のマシロの頭を撫でたら、小さな舌で指を舐められた。
 うん。くすぐったいな。

「……お前たち、試合をちゃんと見ていなさい」

 クリスとお兄さんに挟まれた陛下に、苦笑しながら窘められた。
 はい。すみません。真面目に仕事します…!

「今年はどうだ、クリストフ」
「そうですね…。三番が優勝でしょうか」

 本戦は十六人に絞られている。
 組み合わせはもう決まっていて、審判の人が名前を呼んだら試合場に入る形。
 一対一の勝ち抜き戦。
 演習場は大まかに四つに区切られて、一番から八番の人までの一回戦目が終わって、今は九番から十六番までの人の一回戦目が途中な感じ。

 始まってまだ一回戦目だというのに、陛下の問いかけにクリスは真剣な顔で答えた。
 三番の人って貴族さんだっけ…、って確認のために本戦出場者リストに目を通したけど、そこには名前しか書かれてなかった。つまり、平民の人ということ。
 確かに一回戦目は勝ったみたい。

「私には十五番が強いように見えるけど」

 ……クリスもお兄さんも、マシロのことを気にしてる割にちゃんと試合みてるんだね…。
 十五番の人は貴族さんだった。
 確かに遠目で見ても剣すじは綺麗だし、動きに無駄も……ないのかな?うん。よくわからない。

「まあ、十五番も強いが……そうだな。三番がこのまま出し惜しみするなら、勝ち目はないかもしれない」

 出し惜しみ?
 手を抜いてるってことなのかな。
 クリスの言葉に俺が首を傾げると、肩に乗っていたマシロも首を捻る気配がした。
 ……うーん……、可愛い……!



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