上 下
475 / 560
第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

53 第○○回御前試合②

しおりを挟む



 御前試合に出ることができるのは、エルスターの国民なら誰でも。条件としては成人してること。なので、男性ばかりでなく女性も出場できるし、貴族ばかりでなく平民の方も出場できる。なんなら、騎士団に所属してる人も、王族の人も。
 ただ、例外があって、クリスは成人前に出て三年連続優勝して出禁、オットーさんは一歩も動かず=強すぎて出禁、結果、クリス隊に所属した場合は、出場権がなくなることになったらしい。
 騎士団には騎士団のルールみたいなものがあって、この御前試合に出れるのは基本一人。希望者同士で模擬戦をして、勝ち残った人が出場できるんだって。そうじゃないと、希望者多数で警備が手薄になってしまうからだとか。

 出場者は、数日前から決まってる。事前申込制。ただ当日の飛び込み参加もあるそうだ。

「参加希望者は?」
「まあ、例年と変わりないくらいかと」

 演習場の、お城と反対側の普段あまり使われていない出入り口が、臨時の受付になっているんだとか。
 受付に立つのは騎士団の人。濃緑色の制服を着てる。
 そして、その受付には……結構な列ができていた。

「すごいね……」
「アキも出てみる?」
「………俺の周りに落とし穴掘って、その上の水攻めでいいなら………」

 大真面目に言ったら、二人に笑われた。
 わかってるもん。
 武器なんて持てないしっ。

「クリスがふった話だからね!」
「わかってる」

 くく…って、まだ笑うクリス。
 そのまんまぐいっと腰を抱かれて、額にキスをされた。

「そもそも、お前に剣が向けられたら俺が黙っていられないからな。元々無理な話だった」
「ほんとにさぁ。俺、刃物なんて包丁くらいしか使ったことないんだから…」

 それだって母さんがハラハラしてたのに。不器用すぎて…。

 御前試合の規定の中に『魔法使用は禁止する』って文言はない。
 けど、暗黙の了解みたいに、みんな武器で戦う。
 それは、『魔法が使える』魔水晶持ちの人は、軍属になることが一応の決まりごとだから。魔法使えるのになぜ申請出してないんだーってことになっちゃうからね。
 そのシステム自体に問題あるんだよ…とは思うものの、現状ではまだ何も変えられてないから、何も言わない。

 受付に使われてる出入り口とは別の扉から、俺たちは演習場の中に入った。
 受付を終えた人が、ロープで区切られた観客席側にいる。貴族側はまだだれもいないし、早い時間だから閑散とした演習場。結構広いな。

「アキ、何か気になるものは?」
「んと」

 クリスが聞きたいことがわかって、クリスの手を握りながら目を閉じる。
 ……相変わらずクリスの魔力は安定してるなぁ……って思ってから、いやいやそうじゃないと自分にツッコミを入れた。
 感知の範囲を少し広げる。
 演習場周囲まで網羅できるように。
 少し離れたところにエアハルトさんの魔力があった。
 それから、僅かな、魔力のゆらぎ。

「あ、れ?」
「アキ?」

 そのゆらぎはすぐわからなくなった。
 消えてしまった。

「どうした?」
「ん……、特別何かあったわけじゃないんだけど、なんか、ゆらっとした魔力を感じた気がしたんだけど、すぐ、消えちゃって。もうわかんなくなった」
「……消えた?」
「うん」

 魔法師がいるとか、魔法が使われたとか、そんなんじゃないんだよね。

「あー……、あれっぽい。えーと、『残留思念』?」
「………あれか」

 クリスがちょっと渋い顔をした。
 エーデル領に行ったときからこんな顔するよね。

「どのあたり?」
「多分……、並んでる人の辺りか……、中に入ってる人……。参加者さんだと思う。でももう何も感じないし、本当に弱いものだったし」
「ん。わかったよ。オットー、念の為、団員に注意しておくよう伝えてくれ」
「ええ。わかりました」

 なにもないと思うけどね。

「他には?」
「特になかった。えっと…、時々感知したほうがいいのかな」
「ああ。頼めるか?」
「いいよ。クリス傍にいるんでしょ?」
「もちろん」

 なら、怖いものなし。
 握ってた手に力を入れたら、いつものように片腕に抱き上げられた。





 予選は大体九時頃から開始になった。
 人数が多いので、広い演習場をいくつにも区切って、組を作る。
 一組が五人くらい。その中で勝ち残った人が、本戦に出るんだそうだ。
 組み合わせは、貴族も平民も関係ないくじ引き制を提案して採用された。出場者が引くんじゃなくて、各組の審判が引いてく形。名前を呼ばれたら、その組に移動する。
 平民の方々の中にも、ずば抜けて強い人はいるんだよね。オットーさんのように。強くならなきゃならない事情がある…っていうのをよく理解できたから、とても複雑な心境ではあるんだけど。
 日本じゃ必死に強くならなきゃ…なんて考えたこともなかったし、こっちでもなんだかんだ守られてるから。……なんかちょっとね。申し訳ないような、そんな、複雑な気持ちになる。
 でもオットーさんは俺に対して厭味みたいなことを言わない。優しい。それから、俺のことをちゃんと認めてくれる。
 だから、余計、俺は俺ができることを頑張ろう…って、気合を入れることができるんだ。

 予選が始まったら、クリス隊の面々は、外回りの警備。
 オットーさんとザイルさんは、クリスの近くで演習場内の警備と監視についてる。
 予選だけど、観客も増えた。
 演習場内を見渡したときに、わっと歓声があがり、どうしたのかと思ったら、王族の席に陛下とお兄さんが出てきていた。
 陛下はみんなに向かって手を振ったあと、用意されていた椅子に腰掛け、会場内を見渡している。
 ……午後からは俺もクリスとあそこに行くのか……。なんか恥ずかしいな……。

 予選試合は進んでいく。
 組によっては一時間程度で本戦出場者が決まったところもあった。

「今年はどうですか」
「難しいな」
「……そうですね」

 クリスとオットーさんは、お互いに視線を合わせることなくそんな会話をしていた。
 なんのことだろう。
 首を傾げたら、不意に魔力のゆらぎを感じた。

「アキ?」

 比較的、陛下のいる王族席に近い組。
 ゆらぎはまたすぐに消えた――――けど。

「クリス」
「ああ」

 俺の視線の先に気づいたのか、クリスは俺を抱き上げるとその場に向かった。
 オットーさんとザイルさんも動く。

 ゆらぎのもとにいたのは、一人の男性出場者だった。
 騎士の人たちは何も気づいていない。
 細身の少し短い片手剣を構えている。
 その男性は、ちらちらと何度も王族席の方を見ながら、じりじりとそちらに近づいていた。

「オットー」
「はっ」

 オットーさんが組と組の合間を縫うように駆け出した。
 目的はあの男性だ。あの人の目は、もう陛下しか見ていない。

「ザイル、陛下のところに」
「御意!」

 俺たちの動きに気づいた出場者の人たちの視線を感じる。
 その直後。
 陛下に向かって投げられた武器をオットーさんが剣で弾き落とす音が、演習場内に響いた。



しおりを挟む
感想 541

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...