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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

45 感謝された

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 クリスが前線に入る姿を見ると、酷く安心する。
 これでもう大丈夫だ、って思える。
 もちろん、怪我をしないかとか心配はあるけど、それとこれとはまた別の話。

 空中にいるワイバーンとグリフォンに、視界を遮るような魔法や徐々にでも体力を削れるような魔法を放ち続ける。
 それと同時にみんなの頭上には障壁を展開し続ける。
 ミミズは倒れた。
 百足は、あと僅か。
 羽根を落としたワイバーンは、氷と土で動けない。
 視界を奪われたグリフォンはもがき続ける。

「アキラさま、少し休んでください…っ」
「大丈夫だから…!」

 もう少し、もう少し。
 クリスがグリフォンにとどめを刺す。
 視線が一瞬俺に向いた。

「残り落とします!!」

 二匹の羽根の付け根に狙いを定め、風魔法を放つ。
 より鋭利に、より速く。
 狙い通りに風の刃は二匹の羽根を根本から切り落とした。
 それと同時に、氷魔法で、ワイバーンのブレス封じをし、グリフォンの目を潰した。
 空中に張った障壁が、一瞬二匹を受け止めてから、壊れ、粒子に変わる。
 念の為、門前に障壁を張り直そうと魔力を巡らせたとき、すぅ…っと、全身から力が抜けた。

「アキラさま!!」

 目の前が真っ暗になる。
 あ、これ魔力切れだ……って思ったときにはもう遅くて。
 ラルフィン君の声を聞きながら、俺は意識を手放した。





 ふと目を覚ますと、真っ白な空間。
 ……これ、「やっちまったぁ!」ってやつだろうか。
 このパターンだと、振り返るか、一度目を閉じるかすると、そこにはちゃぶ台があって――――って、あったわ。後ろにちゃぶ台。
 いつもどおりの煎餅と湯呑。
 それから、

「女神様」
「ほんとにお前はここに来るのが好きだな」

 ……と、女子高生な女神様が、きっちり正座で丁寧に湯呑を傾けてた。

「好きなわけじゃ……」
「好きだから来るのだろう?」
「いや…」

 どちらかというと呼ばれてる気がするんですが。
 むしろ、俺の認識では、はあの世とこの世の境目……、な、感じなんですが。

「呼んではおらぬよ。ここは賽の河原でもない」
「また思考読んだ……」
「お前がわかりやすいだけだな」

 ズズ…っとお茶を飲んで、ん、と、女神様の前の場所を指さされた。
 座れということらしい。
 まあ座ろう。

「ほら、食べて飲め」
「いただきます」

 ザラメの煎餅にした。
 なんとなく疲れてる気がしたから、甘いのが欲しくて。

「あの…女神様」
「なんだ」
「俺、もしかして死にかけてます?」
「何故」
「や……、だって、ここって、そういう場所じゃないですか」
「前回も別に死にかけてはいなかっただろうに」
「まあ……」

 じゃあなんでまたこの場所に……と思いながらお茶を飲んだら、女神様は湯呑をちゃぶ台に置いた。

「暇だったからな。話し相手になれ」
「暇………?」

 ってことはやっぱり俺のこと呼んだんじゃん……。

「瑛」
「はい」
「……魔物からよく護ってくれたな」
「っ」
「感謝する。あれらの行動は私にも掴めぬからな。私はいつも後手に回るしかない」

 女神様からの感謝の言葉だなんて。
 あまりにも恐れ多くないですか…?

「……なんで魔物は、女神様の管轄外なんですか?」

 疑問に思ってたことを聞いてみれば、女神様は少し苦笑しながらも俺に教えてくれた。

「この世界を真実創ったのが私ではないから、だな」
「?」

 どういうことだろう。
 この世界の神話とか天地創造のお話とか、知らないんだよな…俺。
 でも女神様はそれ以上を話すつもりは無いらしく、またお茶を一口飲んで、海苔煎餅をかじり始めた。

「あの…」
「なんだ」
「俺、魔法で好き勝手しすぎですか?」

 魔法がこの世界で廃れてきてるのは、何かしらの理由があるはずで。俺がやってることが正しいことなのか、全然わからない。
 俺自身の興味の向くままに色々試しているけど。

「問題ないだろ。私が魔法を禁じたわけじゃない。ただのだからな」
「弊害…?」
「昔はどんな魔法でも当然のように使われていた、ということだよ」

 答えになっているようで、なってない。
 首を傾げていたら、俺を見ていた女神様が笑い始めた。

「それにしてもあれだけの魔力を消費しすぎるとは…。相当無茶な使い方をしたのだな?」
「あー……あはは……。……多分……?」
「そして、は相変わらずお前に十分な魔力を与えないのか」

 なんのことを言われているのかわかって、顔がどんどん熱くなった。

「あ、えと、そのですね。婚姻式が終わるまで待つとか言われて……」
「何を今更」

 くくく……と笑う女神様の顔を見れない。
 もうなんか、見た目が見た目だけあるから、同い年の女子高生とそういう話をしてるとしか思えなくなるんだよ……。
 恥ずかしすぎるでしょ…これ。

「変なところで乙女だな、あれも」

 ……クリスが、乙女。
 それは……、ごめん。クリスの顔見たら俺笑うかもしれない……。

「まあいい。ほら食べろ。少しくらいは魔力の補充もできるだろう」
「え」
「なんの意味もなくお前に食べさせてるわけじゃない。懐かしい物も味わえて一石二鳥だろ?」

 見た目女子高生、でも、嗜好がばぁちゃんと一緒……。
 中々にギャップがありすぎる。

「美味しいです」
「そうだろぅ」

 …美味しいんだよね。
 だから、まぁ……いいか。

「そういえば瑛、お前は私に頼み事をしないのだな?」
「あー……、紙なら送れる…ってあれですか?」
「うむ」
「しますよ。……手紙と、絵を送りたくて。でも、まだもう少し後で」
「そうか」
「その時はやっぱり神殿で祈ったほうがいいですか?」
「どこでも構わぬよ」

 いいんだ。てっきり神殿に行かなきゃだめだと思ってた。

「じゃ、用意ができたら、部屋で祈ります」
「ああ。――――よし、食べたな。時間だ」
「あ」
「またな?」

 口元に笑みを浮かべた女神様は、唐突に姿を消した。
 …このパターン、慣れたわ…。
 そして俺も。
 消えていく湯呑やちゃぶ台を見ながら、この空間から消える。
 目を覚ましたら、どこにいるんだろう。
 クリスは、傍にいるのかな。
 魔物たちはどうしただろう。
 結局俺がしたことは…よかったのかな。女神様には感謝されたけど。
 もっと、ちゃんと、できたら。

 そんなことを考えながら、意識が消えていく。
 クリス、早く会いたいなぁ。


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