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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
38 時は進んで二十七の日。定位置で書類仕事のお手伝い
しおりを挟む時々ギルマスのところに通いながら、魔法をもっと使えるように練習を重ねた。
感知も転移も。
転移の練習はギルマスのところでだけ。
たまに、勝手に発動して執務室にいるクリスの膝の上に跳んでて、呆れられたりしたけど、なんかもうこれはどうしようもない気がした。
……だってさ、ちょっとクリスに会いたいなぁとか、傍に居たいなぁとか考えただけで、次の瞬間にはクリスの膝の上なんだよ。膝の上って所に俺がどれだけクリスのことを大好きって思ってるのかがあらわれているようで、恥ずかしくなったりするけど。
でも概ね平和に。
誰か人がいるときには発動させない理性は働いているようだから、廊下で突然とか、そんなことは起きてない。
隊員さんたちには俺が転移魔法を使えることは早々にバレているけど、誰も何も言わない。
もしかしたら色々言いたいことがあるのかもしれないけど、受け入れてくれている。ありがとう。
風属性で作った障壁は、エルフィードさんがいつの間にか使うようになってた。エアハルトさんは絶賛風属性の特訓中。元々使えていたけど、自在に使えるには至ってないらしい。
適性がまったくない属性の魔法は使えないけど、ちょこっとしか使えない属性でも訓練次第でどうにか使えるようになる。それはすごいことだよね。相当な努力が必要になるけど。
オットーさんの代わりにクリスの補佐に入ってるブランドンさんは、毎日顔を引きつらせながらも、なんとか頑張ってる感じ。
俺、書類の整理とかは全くできないけど、クリスの監視だけはできるから。
淡々と笑顔で熟してたオットーさんの能力がすごすぎるんだな。
リアさんを迎えに行ってるオットーさんとザイルさんは、帰城予定が二十九日頃。三日ほどでエーデル領に到着する予定らしい。今はもうこっちに向かってるってことかな。かなり近くまで来てるはず。
早く会いたいな。
二十七の日。
確実に自分の誕生日が近づいているのはわかるけれど、俺の生活にあまり変化はない。今日は朝からクリスの膝の上で書類と格闘中だ。
国の第二王子の伴侶になるに当たって、王子…妃?教育的なものはなくていいのだろうか。
王太子妃教育はあったんだよな。ティーナさんが大変だって言ってた気がする。
でも、俺、この国の貴族のことも、役職的なものも、何も知らない。言ってしまえば法律も知らないんだけど。……いいのか?
宰相は、ティーナさんのお父さんだと知ってる。でも、いるはずの外務大臣とか?そういう役職の人を全く知らない。
さりげに聞いたときには、クリスは気にするなと言っていたけど。少しずつわかっていけばいいのかな。
「御前試合?」
聞いたことがあるようなないような。
手に取った書類はその試合に出るらしき人たちの名簿だった。
「…そうか。もうそんな時期か」
クリスは俺の手の中の書類を覗き込んでくる。
髪が頬に触れてくすぐったいんですけど。
「剣術の試合だ。毎年、春の二の月の一の日に開催している」
「団長は一歩も動かずに優勝でしたっけ?」
「ああ。以降の出場は出来なくなったが」
「へえ……」
やっぱり強いんだ…オットーさん。
「殿下は三年連続優勝して出禁でしたっけ?」
「陛下も兄上も、俺があの試合に出ることは無意味だと言ったんだ」
「殿下が出場したら誰も勝てませんからね」
ブランドンさん、普段の任務中は結構自由な感じだけど、流石貴族で最年長…って言ったところだよね。
話し方や身のこなしも、ザイルさんよりも洗練されてる感じだ。
それから、貴族の嫡男って立場で、幼いクリスを知ってる貴重な人。いいなぁ。なんでこの世界、写真がないんだろう。
「クリスは強いもんね」
誰も勝てない……って、やっぱりすごいね。俺の好きな人は強くて優しい。自慢の恋人だ。いいな、すごいな、って胸元に頭をこすりつけてたら、クリスからも笑い声が聞こえてきた。
「あー…それじゃ、クリス隊のみんなって、その試合で優勝経験あるの?」
「全員ではないな。ブランドンは一度優勝してたか」
「ええ。殿下が参加される前に」
「やっぱり強いんだ…」
「ザイルは準優勝だったな」
「あとは…ユージーンが決勝を棄権でしたっけ?」
「ああ」
「何で棄権?」
「王都で迷子の親を探してて遅れたんだ」
「え」
「まあ、あいつらしい」
「そっかぁ」
なんか、とにかく強い人を集めてた気がしてたけど、そういうとこも見てるんだ。でも、そうだよな。クリス隊の人たちみんないい人たちばかりだし。腕だけで採用するなら、その試合で優勝した人を入れていけばいいだけのことになっちゃうし。
「クリスの人徳だね」
「俺の?」
「うん。クリスが優しくて強いから、そういう人が集まってくるんだろうな、って」
「――――だ、そうだが。ブランドン、どう思う?」
「少なくても私はアキラさんの言うような『優しい人』ではありませんけどね。まあ、そんなものじゃないですか?それに、アキラさん自身もそれに含まれてますからね?」
「俺?」
いきなりの振られ方に、ブランドンさんをまじまじと見てしまった。
「ここ数日での私達団員の共通認識ですよ。アキラさんは優しいし、十分強い」
「俺、剣も持ち上げられないけど?」
「アキラさんの武器は剣じゃないですからね」
「あー……、なる」
武器。武器かぁ。
確かに魔法は俺にとっての武器だな。
「アキラさんは怒らせるなというのも、共通認識ですけどね……」
「え?」
ボソリと言われたことは、ちゃんとは俺の耳に入って来なかった。
クリスは俺の後ろで笑うだけだし、ブランドンさんも、笑顔で「気にされずに」と言ってくる。
気になる。何言われてたんだ、俺。
「クリス?」
「やっぱりアキが一番可愛いな」
話の繋がりが全くわからない上機嫌なクリスの言葉を聞いて、俺の頭の中はハテナで埋め尽くされたけど。
仕事が進むなら……いい、のか……?
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