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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

37 実験してみた。

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 出せることがわかったんだから、使ってみたくなるもの。
 俺の懇願にクリスが折れた。

「確認したいのは、発現速度と防御性能。物理攻撃と魔法攻撃、どちらに対しても耐久力を把握したい」
「お前は言い出したら引かないからな…」
「へへ」
「昼からは休むんだぞ?」
「はーい」

 そんな感じで約束を取り付けた。

「エアハルト、エルフィード、まだ行けるか?」
「もちろんですとも!」
「行けます」

 魔法組。エアハルトさんは目を輝かせて俺を見てるけど、そんな目で見ないで。幼馴染みズの片割れさんはエルフィードさんというのか。初めて知った。

「ディック、ミルド、ブランドン、ディオルグ、行けるか」
「「「問題ありません」」」
「はい」

 こっちはディオルグさんね。覚えておこ。

「クリスは」
「アキの傍にいる。万が一があると危険だ」
「うん。ありがと」

 嬉しくて頬にキスをした。もうこれくらいは照れもなくできてしまうんだから、慣れとは恐ろしい。
 俺とクリスが前に出る。他の隊員さんたちは距離を取って見学だ。

「えっと、魔法から」
「「はい」」

 さっきは竜巻からの発動だったけど、今回は一気に。
 クリスは俺の左隣。
 右手を前に出して、俺達が隠れるくらいの大きさの『壁』を出す。
 魔力、は、うん。問題ないだろ。

「お願いします!」
「弱いものから」
「「はい」」

 二人は俺たちに向かって魔法を放つ。威力を抑えた石礫と稲妻のようなものが来る。けどそれは、俺が発現させた『壁』にぶつかると、力をなくして霧散したり落ちたりした。
 周りから上がる声が。

「凄いな」
「ヒビ…は、入ってないみたい」

 魔法も防げるんだ。よかった。

「威力上げてください!」
「はい!」
「行きます!」

 そこからは、徐々に威力の上がる魔法を、ひたすら『壁』で防いでいく。
 ヒビが入った瞬間に次の『壁』を構築する。
 でも前方だけを守っていると、頭上からも降ってくるから、ドーム状にも展開してみた。
 それも成功。視界もそれなりに確保できてる。
 ただ、魔力の消費が結構あるし、背後とかが若干薄い気がした。
 クリスからは息を呑むような気配を感じたけど、とりあえず『実験』に専念した。この間のように我を忘れて…なんてことにならないように、注意しながら。
 風属性の『壁』――――障壁でいいか。
 ドーム状にしても、障壁の中には音が聞こえていた。声も通る。内側でほんの小さな火球をぶつけてみたけど、跳ね返ったりせず、霧散した。
 そのドーム状障壁に亀裂が入ったとき、クリスの「そこまで」って声が響いた。
 それはちゃんと外にも聞こえたようで、魔法攻撃が止む。
 最後の稲妻を霧散させた瞬間、ドーム障壁は粉々になって消えた。
 そしてよく見たら、エアハルトさんもエルフィードさんも、地面に膝をついてた。
 あ、使わせすぎた…っ。

「クリス」
「多少消費しすぎただけだ。アキは?いける?」
「うん」

 後でお礼を言おう。
 次は物理攻撃だ。





 クリスと位置を取り替える。
 万が一があると大変なので、クリスは剣を抜き身で持ちながら、佇む。

「お願いします!」

 障壁の展開は少し慣れた。
 本当なら被弾する直前に展開させるのがいい。対人はほぼ考えてないけど、魔物だってわざわざ壁に向かって攻撃はしてこないだろうから。
 でも今は実験だから、最初から目の前に展開。慣れればなれるほど、魔力の消費は抑えられるみたい。

「行きます!」

 四人が軽く助走をつけて打ち込んでくる。
 ディオルグさんは大剣。隊員さんは基本片手剣だ。
 一枚目の障壁は俺達から二メートルくらい前に展開していたけど、ディオルグさんとディックさんの打ち込みであっさりと破壊された。
 物理に弱いのか。
 もう少し厚めに、二枚目を展開させた。
 でもそれも、ミルドさんとブランドンさんに破壊される。
 うーん!?

「え」

 魔法のほうが防ぎやすかったなぁ!?

 後ろに下がりながら、何枚も連続で展開させた。
 そのうち何故かクリスの左腕に抱えられて移動してた。
 もう、俺の実験がどうこう言うより、ハンデを抱えたクリスと四人の模擬戦になった。
 なんなの。
 みんな、疲れてほとんど動けなかったはずなのに、なんか嬉しそうに?楽しそうに?クリスと剣を交えてるんですけど…。
 滅茶苦茶近くで剣を打ち合ってる。
 あまり怖いとは思わなくて、出来るだけ剣の動きとか、みんなの足運びとか、よく見てみた。
 ……まあ、足元に落とし穴作れば一発で終わるんだけど、やりたいことはそうじゃない。
 俺を抱えているからか、それとも俺が実験したいのをわかっているからなのか、クリスからは打ち合わない。基本的に防戦。隊員さんとディオルグさんに手を抜いてる雰囲気はない。
 双剣はない。
 基本、一人一振り。
 強度が足りないならもっと凝縮させる。
 大きなものじゃなくて、小さなもので。
 剣の動きを見て、足の運びを見て、振り下ろされるそのタイミングで、相手の剣にピタリと合わせた小さな盾を、張る。

「!!!」

 ディオルグさんの大剣が、クリスの剣と合わさる前に弾けた。
 それからすぐに他の三人の剣も。
 一回弾いたら消えていい。その攻撃を防ぐためのものだから。

「面白いな」

 クリスが笑う。
 盾が間に合わなくて時々剣で受けるけど、その回数は減った。
 ちょっとわかってきた気がする。
 魔物の爪や牙も、よく見てタイミングさえ掴めれば、味方の邪魔にならずに防ぐことができる。
 それには俺の視野が広くなきゃいけないけど、そこはゲーマー魂でなんとかしてやると意気込んで。

「そこまで」

 みんなの呼吸が荒くなってきたあたりで、終了の声。
 それと同時に高めていた魔力もす…っと消えて、俺はクリスにしがみついた。

「使いすぎ」
「ん」

 確かにちょっと使いすぎた感じはしたけど、満足した。

「有難う御座いました!またよろしくお願いします!」

 ……って、クリスの腕の中から頭を下げた。
 その後はエルフィードさんから風属性の障壁のことを聞かれたり、珍しく真面目顔のエアハルトさんと、土属性の魔法のことを相談したり、他のみんなからも、すごいとか、面白いとか、即戦力だとか色々言われた。
 俺としても充実した時間だったんだけど。

 まあ、でもね。
 その後、部屋に戻ってお昼食べたけどね。
 食べながら船漕いだよね。
 クリスの呆れた笑い声が聞こえてきたけど、目を開けていられない。
 魔力使いすぎにて、俺、ダウン。
 流し込まれるクリスの魔力をたくさんねだって……、意識をなくすように寝てしまった。
 さすがに魔物相手に実験したいって言ったら、怒られるよねぇ……と、考えながら。




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