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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
36 風属性の応用で
しおりを挟む手の中に小さな竜巻を作る。
風の属性は…問題なく出せる。
これを圧縮して、壁のように、板のように変える。
今は大きくなくていい。
手の中で、竜巻を小さく小さく纏めていく。
――――力を凝縮させて圧縮して、壁になるように。
魔力が抜けてく感じがした。目眩を起こすほどのものではないけど。多分、要領が悪くて消費量が多いんだ。
でも、手の中には十五センチ四方くらいのうっすら靄のかかったガラスのような板が出来上がっていた。
手に集めていた魔力を切ってもそれは消えなかった。不思議物体として残ってる。
「あ、クリス、時間ー!」
うっかり時計見るの忘れてた。
実際やり合ってたのは魔法組だけで、他の面々はもう地面に座りこんでた。
クリスは二人に終了を告げると、俺の方に向かってくる。
「アキ、それは?」
「出してみた」
「…出してみた、って」
クリスが苦笑した。
腰に腕を回されながら、ラルフィン君が座り込んでるみんなのところに駆け寄るのを、視界の隅に捉えてた。
「何を考えた?」
「んー…、防御、かな。あ、クリス、これ、ちょっと剣を突き刺してみて?」
「ん?」
手の中のガラスのような板を地面に置く。
クリスは怪訝そうな表情をしながらも、剣を抜き、切っ先をそれに振り下ろした。
「っ」
硬いものにぶつかる独特な音の後、ガラスのような板にヒビが入り、割れたと思えばかけらも残さずに消えていく。
壊したことで、空気に戻ったのかな。元々風属性の魔力を込めていたものだったし。
「硬かった?」
「そうだな。かなり硬度があったと思う」
「なら、防御に使えそうだよね」
近づかれたら負けの専属後衛職の魔法師な俺が、自衛手段としてこれを周囲………、せめて、前面にだけでも素早く展開できたら、あまりクリスの負担にもならないかな。
これくらいの透明度があれば、視界は確保されてるみたいなものだから、魔物の姿も捉えやすそうだし。
「――――キ」
それより、逆な使い方できる?
ブレスを吐くような魔物の周囲に瞬間的にこれを発動させて、反射できれば…?自滅してくれそう?
あとは、隊員さんの動きを見ながら、個別に展開して――――、砕け散ったら空気に戻るから、環境的にも多分問題ない、はず。
あとは――――
「アキ!」
「ふぁぃ!?」
叫ばれて、変な声出た。
気がついたらクリスに片腕抱きされてた。
なに?なんで?この状況?
「え、なに?」
「全く……」
クリスは呆れ顔で俺の頬にキスしてきた。
周りを見たら、みんなも『やれやれ…』みたいな困り笑顔。
「また何を一人で考え込んでいた?」
「え?」
「何度呼んでも答えないし」
「え」
「魔力も減ってる。体調が悪いのか?」
「え、いや」
そりゃ、ちょっと消費したなぁって感覚はあるけど、寝込むほどのものでもないし、体調不良も感じてない。
「アキラさま、体調が悪いなら僕が」
「いやいや、ほんとに大丈夫だから!」
ラルフィン君まで慌てて駆け寄ってきちゃったよ。
「……魔法のこと、考えてただけだから」
「本当に?」
「本当に。さっきクリスに壊してもらったやつ、それなりに硬いなら、防御に使えるな、とか、鏡のようにブレスを反射できたら魔物を自滅させられるんじゃないか、とか、攻撃を受けそうなときにピンポイントで使い捨ての盾みたく展開できるかな、とか。とにかく、そんなこと」
考えていたことをつらつら話したら、クリスは溜息をついた。
「……またお前は」
「なんか、だめ?」
「いや。そんな使い方見たことがない。攻撃を防ぐものなら、大概は土属性だろうから」
「ああ…土壁…」
エアハルトさんが見せてくれたやつ。
でもあれだと視界が遮られちゃうから。
「……ね、訓練まだ続ける?」
「……いや、昼前はこれで終わりだな」
確かにみんな疲れ切ってるから、まだ地面に座りっぱなしだもんね。
「じゃあ、ちょっと実験してもいい?」
午前中はあと一時間くらい訓練予定だったんだ。
だから、少しだけその時間貰えないかな。
調べたいことは色々あるんだ。
ちゃんと知らないと、いざってときに使えない。
結局は『防御』の魔法だから、クリスの隣に立って戦うことはできないけど、クリスの背後を守ることはできるんだ。
守ってもらうばかりじゃなくて。
俺だって、守りたい。
ちゃんと、自分の体で魔法を使うことができるようになったんだから。
………まあ?
『魔法だ!魔法だ!使ってみたいな!楽しいな!』
っていう楽観的な気持ちがあることは否定しないけど……。
クリスは俺をじっと見て、それから苦笑して、
「わかった」
って、頷いてくれた。
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