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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

29 感知で見える世界

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「感知は前と同じようにできるか?」
「出来ます」

 むしろ、前よりもわかりやすくなったかもしれない。

「前にも言ったかもしれんが、対象の魔力を自分の魔力で感じ取っている、それが感知能力だと言われている」
「はい」
「魔力は一人一人違うもんなんだ。色、形、感じる者にとっては匂いも。温かい、冷たい、とかな」
「へぇ……」

 匂い、って。
 そんな体臭みたいな。
 ……魔物の匂いは……、感じたくないなぁ……。

「目を閉じろ、坊主」
「あ、はい」
「まず、その状態でお前の旦那の魔力を視ろ。慣れ親しんだ魔力だろ?」
「はい…」

 目を閉じた暗闇の世界。
 当然、真っ暗。
 クリスがいるのは俺の真後ろだけど。
 クリスの魔力。
 いつも俺に注がれる魔力。
 優しくて、力強くて、温かくて、大きくて、甘い甘い魔力。
 俺の中の魔力と絡んで馴染んで俺の物になる唯一の魔力。
 クリスの魔力はクリスそのもの。
 俺をまるごと包んでくれるクリスそのもの。

 真っ暗な中に、ぽぅって光が見えた。
 無色透明のようにも光。
 その光からは確かにクリスの存在を感じた。同じもの。俺に注がれるクリスの魔力と同じもの。
 今俺はその光にすっぽりと包まれてる。
 心地がいいくらいに温かくて。
 うん、わかる。
 これはクリス。クリスの魔力。

 一旦だとわかってしまえば、意識しなくても『クリスだ』ってわかる。
 見えなくても怖くない。だって、クリスがいるから。

「へへ」

 表情まではわからないけど、クリスだってことがわかるだけで安心できるし、いつもと同じになる。
 目を閉じていたって、それは変わらない世界で。
 胸元に頭を擦り寄せれば、俺を囲う腕には優しい力が入る。
 魔力の光はもっと俺を包み込んでいく。

「アキ」

 目を閉じたままの俺の唇に、温かいものが触れた。
 触れ合ったところから俺に魔力が流れ込んできて、舌が絡むとその魔力が多くなる。
 与えられるものに夢中になった。
 頭の中はクリスのことと魔力のことで一杯になってる。
 それなりになくなっていた俺自身の魔力。
 クリスと触れ合えば、なくなっていた魔力が少しずつ満たされていく。
 飲み込んだものは、とても甘い。じわ…って俺の身体の中を巡っていく。
 もっと、ほしい。
 俺だけの、クリスの魔力。
 もっと、濃くて熱いのがほしい。

 ――――もっと

「はい、そこまで」

 耳に入り込んだ別の声に、意識が一気に現実に引き戻されて目を開けた。
 眩しさに一瞬くらりとしたけれど、すぐに視界も元通り。

「……ギルマス?」

 ぐるりと振り返ったら、完全苦笑いのギルマスがいる。
 ……振り返ったら……?

「あれ?」

 いつの間にかクリスに向かい合うように座ってた。
 手はクリスのお腹の下あたりを触ってて、なんか、こう…、クリスを、襲っているような……?

「えっ」

 しかも、俺、僅かに兆してる。

「うそっ」

 恐る恐るクリスを見たら、クリスもギルマスと同じような顔してた。

「と、とめてよ……!?」
「いや、アキがあまりにも可愛くて」
「クリスのばかぁ……」

 胸元にしがみついてとにかく身体の熱が収まるまで深呼吸してた。
 ほんと、ひどいっ。
 そして、とことん俺がクリスのこと好きすぎる……。やばい……。





「それで?旦那の魔力はわかったか?」
「……わかりました」

 身体の熱が落ち着いて、改めてギルマスの方を向いて座り直した。
 体育座り。反省の姿勢デス。

「じゃあ、次な。クリストフ、お前少し離れろ」
「なぜ」
「坊主の訓練」
「……」

 渋々…って感じでクリスが立ち上がって俺から離れた。

「坊主、また目を閉じて旦那の魔力を視ろ。クリストフは足音立てずにゆっくり移動。坊主は旦那の魔力を視続けろ」
「はい」
「わかった」

 ようは、俺の近くにいるクリスを感じるんじゃなくて、動くクリスを感じてそっちを見続ければいいってことだよな。
 目を閉じる。暗闇になれた。
 クリスの魔力も、すぐに視ることができた。
 その『魔力クリス』がゆっくりと移動する。
 その方向に合わせて俺も顔の向き、身体の向きを変えていく。
 どう表現したらいいんだろう。
 暗闇に少しずつ光が増えていく。
 それは色も形もクリスとは違うもので、ゆらゆら揺れている。
 小さかったり、大きかったり。
 クリスじゃない魔力で一番大きなものは、俺のすぐ近くにある。赤くて強い輝きの物。
 ……不思議な世界。
 見えるはずのない視えてる世界。
 世界が広がっていく。
 クリスの向こう側にも、小さな魔力がたくさんある。

「そのまま旦那のところに行ってみろ」
「はい」

 目を閉じたまま。
 立ち上がって、特にふらつくこともなく。
 クリスは立ち止まって俺を待ってる。
 それほど遠くはなく。でも、すぐ近くでもない。
 一歩踏み出す。
 暗闇なのに、怖くない。
 どちらに歩いていけばいいのか、よくわかる。
 足元。
 僅かな地面の凹凸は、自分の魔力を少しずつ足元に流せば感じることができた。……超音波みたい。
 目で見る色彩豊かな世界とは違う世界。
 でも、でも俺は動くことができる。目で見えなくても。魔力を使えば視える世界で。

 クリス。
 俺、本当にいつでもクリスのこと感じることができるようになったよ。
 よ。

 ――――どこに、いても。

 思ったのは、クリスの傍に行きたいこと。クリスと離れたくないこと。
 歩くよりも速く。
 走るよりも速く。

 傍に、行きたい。

「あ」

 それは一瞬の出来事だった。
 一気に魔力が抜けた感覚がしたと思った途端、おかしな浮遊感に襲われた。
 思わず目を見開くと、にいる驚いた顔のクリスの姿が視界に入った。

 真下。
 真下ね。
 うん、真下。
 何度確認したってかわらないよね、真下にいるんだよクリスが。

「うわあああ!?」
「アキっ」

 認識した途端、俺の身体は



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