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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
26 十七の日。午前中は暁亭に……むかったけどね?
しおりを挟む気を取り直して朝ごはんを食べ終えた。
もう大丈夫。……な、はず。空腹はなくなった。うん。
昼前と昼からと、どちらで暁亭に行きたいか聞かれたから、昼前と答えた。
午後のお茶の時間には、昨日作ったケーキ出したいしね!
朝食を終えた頃に、クリスがメリダさんを呼んで今日の予定を伝える。
外出用の服を用意してもらって着替える。
流石に今日は外出用の上着を着せられた。
ちらりと時計を確認したら九時少し前。そんなに遅くなってなかった。
「あ、おはようございます」
メリダさんに見送られて部屋を出たら、いつもの護衛コンビがいた。
「「おはようございます」」
二人ともいつもどおり返してくれて、ほっこりする。
「これからレヴィの所に行くが、問題ないか?」
「ええ。問題ありません。執務の方は帰城後ですね」
「ああ」
オットーさんが確認して頷く。
俺はクリスに縦抱きされたまま、四人で城を出た。途中、歩くと訴えたのだけど、笑顔で却下された。…今朝の余韻とか体力とか心配してるのかもしれないけど、大丈夫なのに。
「そういえば、ザイルさんはもう体調いいですか?」
「ええ。ぐっすり眠ったら良くなりましたよ。書類仕事から逃げ出す人たちばかりなので、アキラさんが執務室でそのうちのお一方をしっかり監視していただければ、私の仕事も減りますし」
「おおう……」
クリス、苦笑。
「しっかり監視します」
「はい、よろしくおねがいします」
うん。顔色もいいみたいだし。よかった。
でもなんだ。
オットーさんとザイルさん、二人並んで歩いてるのに、いつもより距離がある…?よくよく見たら、オットーさんの目元とか、ちょっと疲れが滲んでるような……?
「アキ、あまり動くな」
「あ、うん。ごめん」
クリスにしがみつく前にもう一度二人を見たら、ザイルさんが心配そうな目をオットーさんに向けていた。
…今度はオットーさんが働きすぎなのかな。少しくらい休んでもいいと思うんだけどな。
「そういえば、ギルマスのとこになんの用?」
「魔法のことをな」
「あー……」
俺に関する用事じゃん…。
そういえばそんな、こと言われてた気もするけど、忘れてた。
てっきり仕事関連だと思ってたよ。
のんびり…って感じでもなく、すたすた歩いて、ちらっと腕時計を見たら三十分超えるくらい。
時間もそれなりになってるからか、西町の大通りでは露店の準備が終わっていて、買い物に来ている人が結構いる。
一般市民…というよりは、冒険者な人の格好。これらら依頼とかに行くのかな。
そういえば、俺も冒険者になれるんだっけ?
クリスも登録してるって言ってたよね。
俺も…してもいいのな。
「あのさ、クリス」
「ん?」
「俺も冒険者になりたい」
「んん?」
「駄目?」
「いや…、どうした、突然」
「クリスも冒険者なんだよね?」
「登録はしてあるな」
「じゃあ、俺も登録したら、冒険者の依頼、一緒に受けれるよね?」
パーティーっていうか、班とか組とか、そんな感じだったよね。西の森にきてた冒険者の皆さん。
俺もクリスと組めるかな。
「受けたいのか?」
「うーん…。クリスと一緒にできるなら、してみたいなぁっていう好奇心?」
TRPG好きとしては、冒険者とか依頼とかクエストって響きにはかなり惹きつけられる。やってみたい。興味しかない。
「まあ……、一人で行くんじゃないなら、登録くらいはいいか」
「ほんとに?」
「一人で行くなよ?」
「うん!」
やった!
できることまた一つ増えた気がする!
「オットーも登録してたな」
「ええ。必要だったので」
「じゃあじゃあ三人でパーティー組めるね!」
「パーティー…?」
オットーさんが変な顔になった。
「あ、同じ組、みたいな?えーと、班、とか。同じ依頼受けて依頼達成していく感じの」
「ああ、なるほど。それならできますね。魔物は私と殿下でどうにか出来ますし」
「うんうん」
むしろ、クリスとオットーさんだけで討伐系依頼なら達成しちゃうよ…。俺いらないよ。楽しそうだけど。
「冒険者…私もなれますか?」
ザイルさんがクリスとオットーさんを見ながら言ってきた。
貴族の三男で冒険者になった人が身近にいるから、全然問題ないと思うな。
「大丈――――」
「ザイルは駄目ですよ。貴族の務めがあるんですから」
え、と。
「オットー、私は」
「とにかく、私はザイルが冒険者登録をすることには反対です」
…俺、オットーさんなら普通に「いいんじゃない」って言うと思ってた。
だから、こんなに頑なというか、決めつけた言い方するのが不思議でならない。
ザイルさんはそれ以上何も言えなくなってるし、クリスはオットーさんの方を見て何も言わずにまた視線を前に戻した。
あんなに息ぴったりな二人だったのに。
なんか、変。
すごく、もやっとする。
「最終的に決めるのはザイルだろ。団にいるからと言って、冒険者登録できないわけじゃない。まあ、あくまでも、優先はこちらの任務になるがな」
「はい」
とんでもなく気不味い雰囲気の中、クリスがそうまとめた。それに対して返事をしたのはザイルさんだけ。
オットーさんは無言。
ちらりと見た表情はとんでもなく『無』。
ほんと、どうしちゃったの……って、はらはらしてる間に、クリスが暁亭の扉を開けていた。
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