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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
22 衣装合わせ……大変
しおりを挟む部屋に戻って寝室で待つこと数分。
メリダさんに案内される形で、女性が数人入ってきた。
「お久しぶりでございます殿下」
「ああ。久しいな」
ソリアさんとクリスがいくつか言葉をかわしたあと、あれよあれよと準備がされていく。
運び込まれる荷物の多さよ…。
「殿下、アキラ様」
唖然としながらそれらを見ていたら、ソリアさんが薄手の服を持ちながら声をかけてきた。
「アキラ様にこちらにお着替えしていただきたいのですが」
「試着用の服だな」
「はい」
……試着用の服とは。
……で、ここで着替えろと。
クリスとメリダさんだけならともかく、ソリアさん筆頭に見知らぬ女性たちがいる中で?
「……クリス」
「わかってる。おいで」
苦笑したクリスは、ソリアさんから受け取った服を片手に持ちながら、俺も抱き上げてきた。
男が何を嫌がるのかと思われるかもしれないけど、嫌なもんは嫌なんだから仕方ないと思う。
クリスは風呂場の方に向かった。
脱衣所に降ろされて、宥めるようなキスをされる。
「……ごめんなさい」
「謝ることはないだろ。可愛いだけだ」
「ん」
キスをされながら、服を脱がされる。
全部クリスがしてくれた。
でもあんまりキスされてると、俺の身体がやばくなる。
クリスもわかってるから、途中でキスは頭とか額とかに移った。
脱いだ服は台の上に。
代わりに着るのは、白くてサラサラした、薄手の下着のような服。
長袖長ズボンの白い服は、比較的ピタリとした作りなのに、身体の形までは浮き出ない絶妙さ。それから、肌も、下着の色も透けない。
…ちょっとほっとした。
「クリスやお兄さんが服を作るときもこういうの着るの?」
「……いや。俺たちは着ないな」
「そう…なんだ?」
うん。
さっぱりわからん。こっちの衣服事情。
最初に服を作ったときは……、ん、クリス服だった。よし。その時のことを思えば、こっちの格好の方が恥ずかしくないぞ…!
クリスは最後にカーディガンを俺にかけて、また抱き上げて脱衣所を出た。
寝室の中はテーブルやソファが隅に追いやられて、広い場所が出来上がってた。
その中央に、やたら綺羅びやかな衣装が、マネキンらしきものに着せられていた。
白に近い銀色の生地で、上着の縁なんかに碧色が使われてる。裾の方は床につくの?ってくらい長い。
ズボンはスッキリと細身で裾の方には花柄らしい刺繍が本当に僅かな色味の青色で施されていた。
頭側には、細かな宝石と思われる石で縁取りされた布……多分、ヴェール、だよね。花嫁さんが頭につけるやつ。それがかけられてた。
…これを、俺がつけるのか…?って思ったら、腰が引けた。
どう考えても、衣装に着られる俺……っていう未来しか見えない。
「いかがでしょうか、殿下」
「ふむ…」
考え込まなくていい。
こんなに華やかの、絶対俺には似合わないよ。もうちょっとシンプルでいいよ……。
「問題ない。腰の飾りには黒翡翠を使ってくれ」
「かしこまりました」
問題ないって言っちゃったよ…クリス…っ。
「では先にアキラ様の採寸をさせていただきますね」
「あ、はい…」
クリスの腕の中にいたまんまだった俺は、裸足で上がれるように敷かれた絨毯のようなラグの上に、降ろされた。
「失礼いたします」
……最初のときもそうだった。
ソリアさんはクリスが『触るな』って機嫌が悪くなったあと、俺の体にほとんど触れずにサイズを測ってたんだけど。
今は、もう最初から触ってこない。
メジャーのような紐を当てられるときだけ、「失礼します」と声をかけられる。
ソリアさんが測定した結果を、助手の女性なのかな?一緒に来た人が書き留めていった。
……まあ、測るたびにソリアさんの表情が険しくなっていくから、もう色々ごめんなさい、ってかんじだったけど。
「殿下、アキラ様はご婚姻式までにもう少し厚みを増す予定などはありませんか…」
「無茶を言うな」
「そうでございますよね…」
厚み…。
ようは細すぎる、もっと肉つけろってことですよね……。
「うう……すみません……」
これでも少しは戻ってきたんだよ。
点滴の栄養剤だけで五ヶ月生かされた身体は、肉は落ちきってたし、筋肉つけてる途中なんだよ。
「大丈夫です。問題ありません!――――殿下、これから着付けしていきますので、多少触れることはお許しください」
「ああ」
きりり…と職人の顔のソリアさん。
クリスは苦笑顔。
そこからは怒涛の時間。
最初にズボンを渡され、穿いては見たもののウエスト部分が、ストンと落ちる。丈は問題なさそう。つまり身長はそれほど変わってないということ。……これは少し悲しんでおこう。
ソリアさんはテキパキと手を動かして、計測した数値を何度も確認しながら、サイズの調整をしていく。
裾の方に入ってる刺繍もまさかやり直しになるんだろうか…。
ドキドキしてる間にカーディガンは脱がされ、上着を着せられた。
スーツぽくはなくて、詰め襟のもの。
首周り、うん、すかすか。肩幅も何故か小さくなってるらしく、肩が落ちる。
比較的身体のラインに沿うような作りになっているようだけど、どこもかしこも生地が余る余る。
それでも、あっちこっちをつめてつめてつめると、それなりの形にはなった。
当日は上着の中はドレスシャツなのだそう。
最後に頭にヴェールを被せられる。
視界は靄がかかったように不鮮明になるけれど、歩けない程でもないし、クリスの表情はよく見えた。
「……ああ……、いいな」
「お綺麗ですよ、アキラさん」
クリスの、嬉しそうな顔。
俺に近づいてきて、顎をとられる。
「今すぐ式を挙げようか」
「クリス…っ」
なぜだ。
凄くドキドキする。
ヴェール越しが駄目なのかな。
いつもと違う雰囲気だから。
「アキ……」
クリスの手が俺の腰を抱きそうになったとき、
「殿下、駄目です!」
…って、ソリアさんの鋭い声が…。
「今アキラ様のご衣装には、至るところに針を打っている状態です。動かされてはお怪我をさせてしまう恐れがあります」
「……わかった」
針、針。
確かに。
あちこちとめてたよね。うん。
大人しく数歩下がったクリスは、メリダさんに呆れられていた。
ソリアさんは微調整にあちこちいじり、慎重に上着を脱がせてくれた。
助手らしき女性の手元はひっきりなしに動いてる。
そして元の試着用の薄手の服になった俺は、ようやく終わったと息をついたのだけど。
「殿下、こちらは夜会用のご衣装候補ですが――――」
と、更に数着の衣装をソリアさんたちは用意し始め……。
色が、形が、手触りが、動きが、等々……。
着せ替え人形のごとく脱いだり着たりを繰り返した俺は、終わる頃には自力で立っていられないくらいに疲れ切った。
用意された椅子にぐったりと体を預けて、だらしなく足を投げ出して座る。
もー…駄目です。
ほんとに、だめです。
衣装合わせ………、大変すぎる。
世の中のご令嬢の方々、尊敬します…。
「ではアキラ様、少し休憩されましたら次はこちらをお召ください」
にこやかにほほえむソリアさんに、俺はさらに身体から力が抜けていった…。
嘘でしょ。
まだ終わらないの…?
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