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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
14 執務室で安定の
しおりを挟む途中、ミルドさんに、部屋で待っているはずのメリダさんに、執務室に行くことを伝えに行ってもらった。
縦抱きされてた俺はおろしてもらって、今はクリスとしっかり手を繋いでる。
「義姉上の生誕日に夜会が開かれたんだ」
「うん」
「あの頃はまだ寂しそうに笑うだけだった。彼女にはまだお前のことを告げることができなかったから、せめてもと思い贈り物をした。アキが教えてくれただろ?生まれた日を祝って贈り物をすると」
「うん。…何を贈ったの?」
「冬月だったからな。雪の結晶のブローチを。お前なら何を贈るだろうか…考えるのは楽しかったよ」
うん。
きっと俺もおんなじの選んだと思う。
「その後から笑顔が増えた。兄上も喜んでいたよ」
「よかった。…次のお祝いも考えておかなくちゃ、だね」
「だな」
指を絡めるように握って。
腕を触れ合わせて。
周りからの視線は変わらない。
でも慣れてしまった。
「こっちは春の月が新年の始まりだよね」
「ああ。春の月の一の日に、新年を祝う祭りがある」
「どの国でも?」
「そうだな。アウラリーネ様を祀る国ではどこでもやるだろうな。『女神の祝祭日』とも呼んでいる。その日だけは必ず晴れるんだ。時折雪は舞うが、陽の光を浴びて輝き、浄化の光のように舞う」
「…なんか、神秘的だね」
「お前にも見せたかった」
「じゃ、来年の楽しみだね」
「俺もそう思ったよ」
右のこめかみに、音を立てるキス。
嬉しい。
「アキのところは?」
「俺のとこは……、一月、えっと、冬の二の月から新年が始まるんだ」
「真冬にか」
「うん。それでね、十二月…冬の一の月の最後の日は、お祝いなんだ」
「前日に?」
「うん。特別な料理を食べて、夜中まで起きたりして、日付が変わるのと同時に、神社……えっと、神殿みたいなところにお参りに行ったりするんだ」
「神殿があるのか」
「にたようなところ、だけどね」
神様の数だけ色んな『神殿』があるからなぁ。説明は難しい。
「健康を祈ったり、何かお願い事を祈ったり、とにかく色々だけど」
「アキは何を願った?」
「んー、まだ体がちゃんと動かなかったし、退院したばっかりだったから、行ってない。けど、願うとしたら一個だけだよ」
握ってた手にもっと力を入れる。
「早くクリスのところに帰りたい、って。それだけ」
「アキ」
クリスの目尻が下がった。嬉しそうな顔。
「叶ったな」
「叶ったね」
ふふ…と笑い合って。
地球産のいろんな神様の中の誰かが叶えてくれたのでなくて、多分女神様だけど。
のんびり歩いて、のんびり話して。
いつの間にかミルドさんが合流してて。
結構歩いてるけど息も上がらない身体が嬉しくて。
見慣れた、でも懐かしいドアは、オットーさんが開けてくれた。ミルドさんは外でこのまま護衛に立つらしい。
執務室内は想像してたより整っていた。
中にいたザイルさんはげっそりした顔をしていたけど。
そのザイルさんは、手元から顔を上げて俺たちの方を見ると、ばさばさと書類を落としていた。
「でんか」
「少し休め、ザイル」
「もうしわけ――――」
途中でパタリとソファに沈んだザイルさん。
……この人がここまで憔悴しきってるの、見るの初めてだ……。
あわわ…ってしてたら、オットーさん、自分の上着を脱いでザイルさんにかけてた。もんのすごく優しい目で。
……ん?
「クリス」
「アキ、おいで」
思ったことを伝えようとしたら、クリスに手を引かれた。
さっくり抱き上げられて、椅子に座ったクリスの膝の上に降ろされる。
……デジャ・ブ。
「クリスっ」
「アキの仕事だろ?俺の補佐だったよな?」
「う」
でもあのときは横向きだった!今は完全対面なんですけどっ。こんなの、クリスだって仕事できるわけ無いじゃんっ。
「アキラさんがいて殿下がやる気になるなら、どんな状態でも大丈夫ですよ」
……って、にこにこのオットーさんが、テーブルに置かれていた束を執務机に移した。
「可能なものはザイルが処理しました。今回は王太子殿下に回すわけにも行かなかったのでご容赦ください」
「いや、助かったよ」
「で、こちらは絶対に殿下に見てもらわなければならないものです。よくご確認くださいね?」
ちらっと見た書類の束は結構な高さ。
クリスは苦笑しっぱなし。
「クリス」
「ん?」
「がんば」
はむ…っと、クリスの唇を食んだ。
そしたら、目を丸くするクリスの顔。
ダメ押しでちゅ、ってキスしたら、これでもかってくらい破顔した。
「可愛いことをする」
「元気とやる気出た?」
「…ああ」
ニヤリと笑ったクリス。
耳元に、口が近づく。
「やる気が出すぎて勃ちそうだ」
「あぅっ」
そ、そ、そんなつもりで、した、わけじゃ、ないし…!
「アキは時々俺が想像もしてないことをするからな」
急に恥ずかしくなって、クリスの胸元に顔を埋めた。
……ほんとっ。
俺、何してんだろね!
俺からは見えないけど、オットーさんだっているのにね!
「………忘れてください」
「忘れるわけがない」
「ううう」
くすくす笑ったままのクリスは、書類を一枚手に取ると、口元を笑みの形にしたままそれを読み始めた。
笑んでいるのに真剣な眼差しのクリス。…その顔もいい…、やっぱり格好いい…、仕事してるクリスも好き…って思ってから、耐えきれなくなってまた顔を埋めた。
…俺、クリスのこと好きすぎる。今に始まったことじゃないけど。
はぁ。
もぅ。
格好良すぎる。
…ってにまにましてたら、いきなり顎を取られて上向きにされ、そのままキスされた。ちゃんと、しっかりした、深いやつ。
「…っ」
口の中を一舐めした舌がするっと抜けていった。
「一枚終わった。ご褒美な?」
「~~~っ」
俺の理性ってやつが手元を離れていきそうな『ご褒美』は、結局、メリダさんが昼食の大量のサンドイッチを運んできてくれるまで続いた。
その頃には一眠りしたザイルさんも目覚めてて、みんなでサンドイッチを食べたけど。
頭がボーッとして味なんてわかりませんでした……。
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