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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

6 属性と魔力 ◆クリストフ

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 アキから寝息が聞こえ始めた。
 眠る表情に苦痛の色はなく、いたって健康そうだ。

「貴族にのは坊主の体調が完全に整ってからだな」
「そうだな」
「流石に、高位神官が殿下の自室に毎日足を運んでいることは知られています。今はその理由についての憶測が色々広まっている状態ですね」

 表情を固くさせたオットーが、「どうします?」と問いかけてくるような視線を送ってきた。

「勝手に言わせておけばいい。誰かに問われるようなことがあれば、俺が怪我をしたとでも言っておけ」
「わかりました。念の為、団員にも周知させます」
「ああ。任せる」

 オットーとザイルはそれに頷き、部屋を出ていった。

「それじゃ、そろそろ俺も戻るぞ」
「ああ。また頼むよ」
「任せておけ」

 椅子から立ち上がったレヴィは、アキの様子を見てから、俺に向き直った。

「……坊主の魔法に関してだが」
「なんだ」
「早急に属性の確認しておけ。秘密裏に、だ。必要なら俺のところに連れてこい」
「急がなきゃならないのか?」
「いや。これは全くの俺の杞憂だがな。坊主が本物の身体でこの世界の魔力を得たとしたら、以前とは比べ物にならない魔力量を有してる可能性がある。まあ、使い方次第だが、坊主なら、転移魔法が使えるようになるかもしれない」
「転移…」
「以前も空間属性を有していたからな。可能性がある。万が一、空間属性の魔法が制御不能になった場合、自分の意志とは関係なくどこかに転移する可能性がある。……だから、属性確認と制御方法を身につけることが優先だ」

 アキなら可能な気がする。
 …暴走して、また、俺の前から消えるというのか?

「……そんなことには、させないよ」
「ああ」
「体調が戻り次第確認する。制御方法となると俺には不向きだからな。お前のところに行くよ」
「そうしとけ」

 レヴィは軽く手を振りながら、部屋を出ていった。
 途端、アキの傍らに座っていたラルフィンが苦笑交じりの溜息をつく。

「そういう大事な話は僕のいないところでしてくれませんか?」
「すまないな」
「いいんですけど。……でも、以前、空間属性の魔法は禁忌に近いとエルに聞いたことがあります。アキラさまがそれを使うことができたら、アキラさまは…大丈夫なんですか?命を狙われたり、…投獄されたり、って、聞きましたが」
「俺がそんなことにさせると思うか?」

 ラルフィンは俺を見てから、くすりと笑う。

「思いません」
「なら、心配いらないな」
「そうですね。…殿下が僕を信頼してくださっていることはよくわかっています。僕もその御心に応えられるよう頑張りますからね」
「ああ。頼むよ」
「はい」

 微笑んだラルフィンは、アキの手を両手で包むと、癒やしの力を流し込んでいく。

「……そういえば」
「ん?」
「女神さまが、僕に癒やしの力が効くと仰ったときに、殿下の魔力も与えるのがいいとも仰られたんです。どういうことてすか?」
「女神様が?」
「はい。魔力を注げ、って」
「…………あー、なるほど」

 それはラルフィンに伝えても理解しないだろうな。
 ……そうか。躊躇わず抱いておけばよかったのか。
 妙に視線をそらしていたアキの態度にも納得する。恐らく女神にも言われたんだろう。

「どういうことですか?」
「……俺は体液すべてが魔力みたいなものだからな。すぐにアキに魔力を分け与えられるんだ」
「…?…はい」
「後でお前の恋人たちに聞いてみるといい」
「わかりました……?」

 聞いたあとされたとしても、俺の責任ではないな。

「ラル、今日はもういいよ。ただ、また明日も同じくらいの時間でお願いしたいんだ」
「はい。大丈夫です。では殿下、また来ますね。暫くは依頼も受けない予定なので、何かあればすぐに呼んでください」
「ありがとう。助かるよ。恋人たちによろしく伝えてくれ」
「はい」

 ラルフィンも部屋から出ると、アキの寝息だけが聞こえてきた。
 頬を撫でれば口元に笑みが浮かぶ。
 ……可愛いな。
 見てるだけで幸せな気分になる。

「……婚姻式まで待とうと思ってたんだがな」

 誰も、俺すらも知らない身体。
 あと一月もないのだから、この無垢な身体を開くのは、その日でいいと思っていたが。

「どうしたい…?」

 アキから求められれば、こんな決意など脆く崩れ去る。理性など保たない。
 自分がこんなことで悩むなんて…と、笑いがこみ上げる。
 こんなことで考え込む時間もいいな。



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