413 / 560
if番外編:聖夜は異世界(日本)で
⑧
しおりを挟むゆっくりベッドに降ろされた。
あれほど眠かったのに、ベッドの冷たさを感じると少し目が覚めるのはなんでだろう。
クリスは静かにキスをくれた。
啄むように触れて、それから唇を舐められる。
少し唇を開いたら、すぐに舌が入り込んだ。
お酒の匂いに頭の中がくらりとする。
セーターの下に手が入り込んだ。極端に冷たいわけじゃないのに、触れられてゾクリと震える。
「……お風呂、入ってない」
「問題ない」
促されるままにセーターの袖から腕を抜いたら、すぽんと頭から脱がされた。
「驚くものばかりだったよ」
「うん」
首筋のとこに、息がかかる。くすぐったくて、気持ちがいい。
「平和な場所だということも理解できた。……けどな、やはり剣がないのは落ち着かない」
「そうだよね」
「ゲームは面白かった」
「クリス強かった」
「テレビは無理でも、ボードゲーム、と言うんだったか。あれは国で広めてもいいな」
「サイコロ作らなきゃね」
首筋に、チクリと痛みのようなものが走る。舐めて吸われて、痕がついたのはわかったけど、別にいっか……って気になってて、されるがままになってた。
ジーンズのベルトが引き抜かれる。
ボタンも外されて、ファスナーも下げられて、普段着てるズボンよりも硬い生地だけど、するすると脱がされた。
「ん……っ」
乳首をかすめた指が、身体の線を辿りながら、例の下着にたどり着く。
「クリス……お風呂……っ」
ここまで脱がされて今更かもしれないけど、今日結構歩いたんだよ。汗だく、ってわけじゃないけど、それなりに汗はかいたはず。
お城ならすぐお風呂に連れて行ってもらえたのに。
だから、このまま抱かれることには抵抗感しかない。喘がされて前後不覚になってしまえば、そんなこと気にならなくなるんだろうけど、ここはお城じゃない。父さんも母さんも、そう遠くはない部屋にいて、しかも、客間に長野がいる。
正直、抱かれたい。
帰宅前のあれやこれやでふわふわと昂ってた気持ちが、全部消えたわけじゃない。
キスをされて触れられれば、左手の薬指の指輪を見ていれば、すぐに身体が熱くなっていく。
けど、現実的に考えて、無理だ、って思ってしまう。
家族や友人に知られてしまうのが恥ずかしすぎる。……いや、結婚した、って堂々と宣言してるから、清い関係だなんて思われてないと、思うけど。
でも、それとこれとはまた話は別。
そうやって俺が悶々と考えてる間に、クリスは枕元に放置してあったポーチの中から、見慣れたものを取り出した。
「え」
クリスが小型のナイフで指先をほんの少し傷つけ、取り出したそれに、紅い雫を垂らす。
たったそれだけで、慣れ親しんだ魔法が俺たちの体を包み込んだ。
「え、なんで」
「備えあれば憂いなし、だったか?」
ニヤリと笑ったクリスは、もう一つの道具を取り出して、そこにも紅い雫を垂らした。
――――洗浄魔導具と、遮音魔導具。
持ってきてたなんて、知らなかった。
「これで、気になることはなくなっただろ?」
クリスはそう言いながら、俺にキスをして、紐を解いた。
「や、電気、けして…っ」
「このままでいい」
「やだ……っ」
魔力がなくなってないことは、昨日の段階で確認してた。だから、あの魔導具を持ち込んでたこと自体は、まあ、いい。抱かれたくなってた俺にとっては、必要なものだから。
けど、明かりは別!
そりゃ、クリスをしっかり目に焼き付けることができるのは嬉しいけど、ここではやだ。
部屋には鍵もかけられないのに。
万が一誰かが部屋に入ってきたとき、暗かったらそれなりに隠せるけど、ここまで明るいと何も隠せないんだよ。
「クリス………でんき………」
眉が寄ってると思う。
役者のように涙も浮かべられたら完璧なんだろうけど、そこまでは無理。
けど、クリスは俺のその表情だけで、落ちてくれる。
「仕方ないな」
リモコンで部屋の明かりを落としてくれた。
真っ暗じゃないけど、落ち着く暗さまで。
やっと、俺の体から力が抜けた。
「クリス」
この暗さなら、甘えられる。
身体も綺麗になった。
音も漏れない。
……家で我慢できなくなってごめんなさいって、心の中で謝りつつ、セーターを脱ぎ捨てたクリスの首に腕を回した。
お互いの舌を舐めて、熱も唾液も絡め合う。
ジーンズを下着ごと脱いだクリスが、俺に腰を押し付けるようにしながら抱きしめてくれる。
ぬちぬちするのが、気持ちいい。
上も下も、とろとろに溶かされてく。
クリスマスは、むこうの世界にはない。なのに、こんな風に、クリスとクリスマスを過ごせるなんて思ってなかった。
「クリス」
ほんの少しだけ唇を離して、頬を両手で包み込んだ。
「ん?」
目を細めて俺を見てくれるクリス。
「忘れてた。――――Merry Christmas。聖夜を祝う言葉だよ」
そしたらクリスも、俺の頬を撫でて、
「メリークリスマス」
って、微笑みながら言ってくれた。
99
お気に入りに追加
5,508
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!
鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。
この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。
界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。
そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
平民男子と騎士団長の行く末
きわ
BL
平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。
ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。
好きだという気持ちを隠したまま。
過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。
第十一回BL大賞参加作品です。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる