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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

2 作戦会議は口裏合わせから

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 クリス服の下に、肌触りのいいズボンを穿いて、俺が向こうから着てきたカーディガンを羽織ってる。
 あまり人が入ってこない寝室に、ラルフィン君、オットーさん、ザイルさん、それから、ギルマスがいる。
 俺はベッドに腰掛けていて、ラルフィン君は俺の真ん前で手を握って癒やしてくれてる。
 メリダさんは全員分のお茶を用意してから、部屋を出て行った。





 クリスと朝のひとときを過ごして、そのうち寝てしまった俺が、次に目を覚ましたときにはラルフィン君が来ていて、枕元に座って癒やしをかけてくれていた。
 その時にはもうズボンを穿いていたから、クリスが用意してくれたんだと思う。
 起き上がった俺に、カーディガンを羽織らせてくれたのはメリダさん。なんか、すごく着心地が良くて驚いた。
 クリスによりかかりながらお茶と果物を食べてる間に、ギルマスといっしょにオットーさんとザイルさんが来た。

「お。帰ってきてたんだな。実家暮らしはどうだった?」

 ……って、ギルマスから第一声をもらった。
 なるほど実家暮らし。
 間違ってない。むしろ、そのとおりだ。

「快適でした。実家なので。友達とも会えたし、遊べたし。でも寂しかったです」

 素直に返したら、クリスに頭を撫でられて、ギルマスには笑われた。
 ん。変わらないこの軽さがいい。





 そして、今。
 若干和やかなお茶会雰囲気なんだけど、このメンツでクリスが何を話すのか、よくわからない。まあ、クリスが『話す』って決めたなら、俺は否定も拒絶もしない。

「……あの、殿下」
「なに?ラル」
「僕……、ここにいていいんですか?」

 俺の手を握りながら、苦笑気味のラルフィン君。

「構わない。ラルもアキの関係者だろ。それに、女神様を絡めるなら、ラルにも共犯になってもらった方が動きやすい」
「共犯……」

 クリスの言い方に思わずって感じで笑うラルフィン君。
 クリスの巻き込むぞ宣言に、笑って了承ってことかな。

「レヴィ」
「ああ」

 ギルマスがテーブルの上に置いた遮音の魔導具。
 すぐにそれが作動した。…魔力の流れを感じることができるから、確かに改造はされたらしい。

「今から話すことは口外無用だ」

 クリスはそう言いおいてから、俺の額にキスをする。
 ……え。
 この状況でキスの意味って何かあった?

「クリスっ」
「顔がこわばってる。アキは笑ってろ」
「ううう」

 笑うどころじゃない。
 顔熱い。

「何も心配することないから」
「心配なんてしてないし」

 よしよし…みたいに俺の頭を撫でて、クリスもテーブルのとこの椅子に落ち着いた。緊急会議って雰囲気だね。

「誤魔化しても隠しても仕方ないから単刀直入に言うが、アキは異世界人だ」
「………え?」

 ザイルさんだけがポカンとした表情を見せた。
 オットーさんは何度か頷いていて、納得した雰囲気。
 ラルフィン君は、頭の中に『?』を浮かばせてる気がする。

「アキはこことは異なる世界から、こちらに紛れ込んだ」
「この世界にはたまにあるんだよ。俺のじーさまとかな。そういう奴らは大概とんでもない力を持ってることが多くてな。国にとっても貴重な存在になるから、保護される場合が多い。まあ、それも時代によるがな」

 クリスとギルマスの説明に、うんうん納得するオットーさん。ザイルさんはまだ『え?』って顔してる。
 …と言うか、時代によっては保護されないのか。あれかな。戦力になったり、色々するのかな。

「……あの、ですが、アキラさんは、あのとき消えた、んですよね?……私達は死んだとしても肉体が消えるわけじゃありません。あの時は、何があったんですか。……殿下も、店主殿も皆……、アキラさんが、亡くなった、と」

 よくわからないまま俺が帰ってきて喜んでくれたザイルさんだけど、最もな疑問だと思う。
 俺だって『死ぬんだ』って思ったんだから。

「あのときは本当にアキは死んだと思ったんだ」
「俺も思ったな。…なぜ消えたのか考えもしなかった」
「私は消えた瞬間を見たせいか、死んだという実感はありませんでしたけど。遺体を見なければ、現実的ではなかったので」

 物理的に消える=死、っていうのは、結びつきにくいのかもしれない。目の前に死体があれば、『死』を意識できるけど、そうじゃないから、ってことだよね。
 ま、そうだよね。死んでも肉体は普通残るんだから。

「あれに関しては、『魔力の拡散』だったらしい」
「……ああ。つまりあれか。前の身体は魔力製ってことか」

 ギルマス、流石。

「そのようだ。アキの、元の世界での事情があって、こちらの世界に魂だけで来たがために器が必要になり、女神様が用意したらしい。いずれは元の世界に魂を戻さなければならなかったようだ」
「……ああ、だから女神さまは、アキラ様を還そうとしてたんですね」

 ラルフィン君が、納得…って感じで頷いて、また、癒やしを流してくれる。気持ちいいな。あったかくて。

「そういうことらしい。……元の世界に魂が戻り、肉体的にも回復したため、アキはこちらに帰ってくることができた」
「……女神が身勝手だということは理解しましたが、どうされますか?アキラさんは陛下にも……おそらく、貴族の間にも、『亡くなった』と認識されています。団員たちは驚いてはいましたが、皆受け入れて問題ありませんが」

 ……オットーさんは相変わらず女神様に厳しい……。

「だから、そこは『実家に帰っていて体調良くなったから帰ってきたよ』でいいんだよ」
「女神様が一時的にしたために、魔力を極端に消費したアキはその場から消えた。俺たちはそれを認識することができず、勝手に『死んだ』と騒いだ」
「あとは女神様から神託を受けた『高位神官』が、坊主の生存を確認」
「女神様の奇跡の御力で、回復したアキはまたこの国に帰ってきた」

 ……ギルマスが最初に言った実家が云々は、布石ってことか。
 それから、クリスがラルフィン君に言った、『共犯』の意味も。

「……なるほどです。つまり、僕は女神さまからの言葉を受けて、アキラさまの生存を知ったけど、それを伝える前に既に殿下はタリカに発たれていて、追加の御言葉を頂いた僕が、馬車で追いかけた、ってことですね。まあ、嘘はないと思います。女神さまはアキラさまのお名前は出さなかったですけど、確かに『馬車で迎えに行け』と言われたので」
「ああ。ラルには申し訳ないが、そう口裏を合わせてもらいたい」
「ええ。わかりました」
「オットーもザイルもいいか?アキが、異世界人であることは今後も伏せていくが」
「「異存ありません」」

 口裏合わせ。
 俺が、クリスの傍にいてもおかしくないための。

「……ちなみに、殿下」

 少し低い、オットーさんの声。顔は笑ってる?けど。

「いつからアキラさんが『異世界人』だとわかっていたんですか?」
「……西の森でレヴィに引き合わせた時からだな」
「へえ。随分と前からご存知だったんですね?」

 ………え、なに。オットーさんの笑顔が怖いんですけど……!?
 こう、どす黒いオーラが見える気がするんですけど、気のせいだよね…!?

「……オットー」
「いえ。別に。いいんですよ?ええ。アキラさんが異世界人でもどこの方でも、私がどうこう言うことではないので。ええ」
「……いや、誰にも彼にも言うことじゃないから」
「私がそんなに信用ならないですか。そうですか…」
「いや、だから」
「殿下」

 すっと背筋を伸ばしたオットーさんの、黒い笑顔。

「今後は隠し事はなしの方向でお願いしますね?」
「………わかったよ」

 ……ぅわ。
 言葉は柔らかいのに、オットーさん怖すぎるんですけど。
 なんでオットーさん怒ってるの…?

「クリストフ…お前、オットーの尻に敷かれてるのか」
「……そうじゃない」

 項垂れたクリス。
 ……そうとしか見えないよ……?



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