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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

1 改めて、異世界転移しました。

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 目が覚めた。
 クリスと、色んな話をした。
 メリダさんにもちゃんと「ただいま」って言えた。
 久しぶりのメリダさんの紅茶を飲んだり、タリカで貰ったらしい果物を食べたり、のんびりと朝の時間を過ごしてた。

「ラルフィン君がいたのは覚えてるけど……、ここに戻ってきた記憶が曖昧」

 安定のクリスの膝の上。
 半年のブランクなんて感じないくらいの距離感。嬉しい。

「あら。坊っちゃんを捕まえて離さなかったのは覚えてないのですか」
「え」
「少し離れただけで俺を追いかけてきたな」
「え」
「坊っちゃんの上着を抱きしめてニコニコしてましたね」
「えー…………」
「無意識に俺を求めて甘えてくれていたわけか。それは嬉しいな」

 寝てた俺、何してたんだ。
 やばい。顔熱い。

「ん?また熱が上がったか?」
「違うしっ」

 クリスがにやにやしてる。
 からかうのやめてほしいよ、ほんと!

「メリダ」

 クリスの膝の上で真っ赤になりながらお茶を飲んでいたら、俺の髪をいじったままで、クリスがメリダさんに視線を合わせた。

「すまないけど、オットーを呼んできてほしい。この時間ならまだ兵舎の方だ」
「ええ、承りました。ご朝食はどうなさいますか?」
「まだ後でいい。……アキはもう少し寝そうだし」
「え?…俺、眠くないけど」

 結構しっかり目が覚めてる気がしてるんだけど。
 女神様も、目が覚めたら改造終わってるみたいなこと言ってたし…?
 あ、女神様。

「クリス、あのね」
「アキ」

 口を開きかけたら、キスで塞がれた。
 ……あ、気持ちいい。
 いい、けど、女神様に言われたことまで思い出して、なんだか非常に恥ずかしくなってくる。

「では、行ってまいりますね、坊っちゃん」
「頼んだよ」

 メリダさんはにこりと笑って、礼をしてから部屋を出ていった。

「アキ、もう少し食べられる?」
「うん」

 果物が口の中に入れられる。
 咀嚼してる途中でクリスにキスされて、半分くらい持ってかれた。
 キスはそのまま深くなって、果汁と唾液が溢れそうになって慌てて少しずつ飲み込んでいく。

「ん……」

 甘い。
 すごく、甘い。

「……も、っと」
「ん」

 ……タリカで再会したときもたくさんした。
 けど、やっぱりしてほしくて。
 クリスが足りないよ。
 もっと。
 もっとほしい。

「…アキ、何か話したいことがあるんじゃないのか?」
「はなし…?」

 なんだっけ。
 横向き座りから、対面でしがみついてキスしてたんだけど。
 えっと。
 とりあえず、キスして。

「ん…」

 クリスが笑った気がした。
 ふふ、って。
 でも、頭の中がふわふわしてて、気にしてる余裕はない。
 ただただキスが欲しい。
 クリスの熱が欲しい。

「クリス…」

 涙が出てきた。

「クリスが、いる」
「ああ」
「夢じゃない?」
「夢じゃない」

 クリスが俺の手を握って、自分の頬にあてた。
 また、じわっと涙が出てくる。

「…あったかいね」
「そうだな。俺に触れてるアキの手も……本物だな」
「俺ね、いっぱい夢見たよ」

 クリスが俺を抱き上げて立ち上がった。
 どこに行くわけでもなく、すぐにベッドに降ろされる。

「会いたくて、会いたくて、夢を見て、泣いた」
「……ああ」
「もう離れたりしないんだよね?」
「しないよ。もう、離さない」

 覆い被さるクリスの重みを全身で受け止めた。
 背中に手を回して、離れたくないと訴える。
 クリスの唇が涙を拭ってくれる。
 嬉しい。

「アキ、愛してるよ」
「俺も……好き……っ」

 クリスが俺のことを待っていてくれたのは、よくわかる。
 今俺が着てるのクリス服だし。半年も経ってるのに、俺の服はそのまま残されてるってことで。
 嬉しいとしか思えないよね。
 俺の居場所は無くなってなかった、って。
 クリスの目も、熱も、言葉も変わらない。
 前よりももっと強く『好き』って思う。
 こんなに好きで、いいのかな。ちょっと、怖い。

 メリダさんが戻ってくるまで、ずっとキスしてた。
 身体中熱くなったのは、仕方ない。
 ドアにノックの音がしたとき、クリスは俺の口元くらいまで毛布をかけて、入室を促した。

 メリダさんが入ってきて、後ろにはオットーさん。
 起き上がろうとしたらクリスにベッドに戻された。
 オットーさんは寝室の扉のところから、入ってこようとしない。

「オットー、入れ」
「……失礼します」

 クリスに促されてようやく入ってきたオットーさんは、俺と目が合うと表情が変わった。

「おはようございます。アキラさん。お目覚めになったんですね」
「はい。おはようございます!」

 起き上がろうとしてまたクリスに戻される攻防戦を無言で繰り返して、諦めたのは俺の方。
 くしゃりと頭を撫でられると、気分がいい。

「オットー、昼前にレヴィに登城するよう伝えてくれ。暁亭から戻り次第、ザイルとここに。他の団員たちの中から扉前の護衛を組んでくれ」
「ええ。わかりました。他には?」
「アキのことが広がらないようにしろ。陛下には今日俺から伝える」
「…エアハルトを閉じ込めておいてもいいでしょうか」
「任せる」
「ありがとうございます。では失礼しますね」

 ……なぜ閉じ込めるのか。
 相変わらず容赦なかった。

「メリダ、すまないが、待機を」
「はい。かしこまりました。後でお呼びください」

 オットーさんもメリダさんもいなくなって、また、二人きり。
 所謂人払い、ってやつ?

「さてと」

 クリスはベッドに腰掛けて、毛布を少し剥いだ。

「女神様のことで何か俺に言うことがあるんじゃないのか?」
「あ」

 頬を撫でられて優しい目を向けられて、ようやく思い出した。
 ……さっきも促された気がしたけど、キスが気持ちよくて吹っ飛んでた……。

「え、と」

 できるだけ順を追って話した。

 前の身体は魔力でできていたこと。
 改めて転移してきたときに、こっちの世界に馴染む身体に変えてくれてたこと。
 熱はそのせいなこと。
 まだ少しだるさが続くだろうから、ラルフィン君に癒やしてもらえと言われたこと。
 ……あえて、キスよりも……の下りは省いた。恥ずかしすぎる。

 クリスは黙って聞いてくれて、頷いてくれた。

「あ、女神様ね、クリスも女神様の声を聞く努力しろって怒ってた」
「そうか」

 流石にそこは苦笑で返された。

「俺、改めて、ほんとに異世界転移したんだね。凄いね。クリスに会いたくて仕方なくて、女神様に無理やり納得させた感半端ないけど」
「それでも女神様がアキのために動いてくださったんだ。感謝しかないよ」
「うん」

 ばぁちゃん効果もかなり影響はあったと思うけど、あの感じは女神様に嫌われてるわけじゃないと思うから。

「今の俺、頭でっかちの、知識はあるけど経験全くなしの状態だから、クリス、また教えてね…?」
「当然だ」

 嬉しそうに笑うクリスと、また、キスをした。



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