399 / 560
第6.5章 それでも俺は変わらない愛を誓う(side:クリストフ)
14
しおりを挟む「アキ」
瞳が薄っすらと開いていく。
黒い瞳は、俺を見ると安堵したように潤みだす。
「クリス…」
アキは俺の胸元に手を添えようとして、握られていることに気づいたようだ。
「あ」
「アキラさま」
「……ラルフィン君」
「はい!お久しぶりです」
「うん。……確かに久しぶり、だよね」
声が震え始める。
ラルフィンも、また涙を流し始めた。
「アキラさま」
二人ともぼろぼろ泣いて。
よかった、会いたかった、おかえり、ただいまを繰り返し。
アキは俺の腕の中にいるのに、ラルフィンと抱き合って。
……さて。
この状況、どうしたらいいんだ。
泣き虫が二人に増えた。
城に戻ってからも、アキは泣き続けそうだなと、思わず苦笑してしまう。
まあいいか。
思う存分泣いて、泣いて、それで寂しかった思いを流せれば。
あとは俺が引き受ければいい。
涙を止めるのは俺の役目だ。
二人はひとしきり泣いたあと、ようやく身体を離した。
ラルフィンは癒やしの続きで、アキの左手を両手で包み込むように握っている。
アキは泣き疲れたのか、俺の胸元を握りしめながら寝始めた。
息遣いはそれほど苦しくなさそうだ。
「殿下」
扉を少し開き、オットーが声をかけてきた。
「昼食はどうなさいますか」
「果物だけでいい。お前たちは済ませたか?」
「はい」
「それなら撤収作業に。村長に――――」
「既に作業に入っています。村長にはザイルが対応してます。報告内容も纏まってますので、間もなく出発できるかと」
「任せた」
「はい」
…オットーに頭が上がらなくなりそうだ。
「ラル、お前のエルフィードは、帰りも魔法が使えそうか?」
「大丈夫です。ディーと一緒に御者台にいますから」
「助かる」
これなら、それほど時間もかからなそうだ。
夜遅い時間には城に着く。
アキからマントを外し、毛布で包んだ。
寝やすいように広い座席の上に横たえようとしたが、アキの手が俺の服を掴んで離れない。しかも、寝ているというのに、眉までひそめ、あからさまに嫌な顔をする。
腕の中に抱き直し、膝の上で横抱きにすると、表情は緩み、口元に笑みを浮かべる。
……どうやら俺に抱かれている方がいいらしい。
これは、どうしても、口元が緩む。
「アキラさま、殿下と離れたくないんですね」
普段は鈍感なラルフィンまで、くすくす笑いながら口にしてきた。
「そのようだ」
後でアキが恥ずかしがりそうだな。
ラルフィンの癒やしが効いているのか、穏やかな寝顔のアキを眺めていると、再びオットーから声がかかった。
「失礼します。殿下、村長から、ご婚約者様に食べてもらいたいと、果実が。それと、果実水もおいておきます」
「しっかり礼を伝えておいてくれ。アキはここの果実が好きだからな」
「ええ。……あと、一応ご相談なんですが」
一旦馬車内に入り、果実などが入った籠を置いたオットーは、どこか疲れたように溜息をついた。
「うちの問題児が」
「ああ。エアハルトか」
「御者をする、と、ひかなくて」
「エアハルトが?」
「はい。……その、アキラ様が乗車しているのなら、自分が、と、煩く…」
「ふむ」
風属性で速さを上げ、土属性で障害物を消せば、揺れも少なくなりそうだ。
「ディオルグにエアハルトの馬を使ってもらえ。……いいか?ラル」
「ええ。構いません」
「ん。オットー、エアハルトを御者台に。エルフィードと共に魔法で補助をさせろ。『アキに何一つ衝撃を与えるな』と、俺が言っていると伝えろ。それだけで十二分の力を出すだろ。出発するときは二度、扉を叩いてくれ」
「わかりました」
ニヤリと笑ったオットーは、すぐに出ていった。
あれはかなり辟易してたんだな。
それから間もなくして、扉が二回叩かれた。
最初はゆっくりと走り出した馬車は、次第に速度を上げていく。
日除けをめくり外を確認したが、馬車とは思えない速度で走っている。
「凄いな」
「そうなんです。エル、凄いんです!」
「ああ」
褒められて嬉しいのだろう。
ラルフィンの屈託のない笑顔に、俺も笑みが浮かぶ。
これほどの速さで進んでいるというのに、揺れが殆ど無い。どうやら俺の言葉がかなり効いたらしい。
城に着く頃には起き上がる気力もなくしているかもしれないな。
「元冒険者だった団員さんの魔法ですね……。凄いですね。ほとんど揺れを感じません」
「困った奴だが腕は確かだからな」
「困った………。でも、殿下も信用してるから、この馬車の御者を任せられたのでしょう?」
ラルフィンから見るとそうなるのか?
信用……。まあ、裏切らない、という点においては、それなりに信用はある。アキに関しては、全く油断ならない奴だが。
「アキに関することには、絶対に手を抜かない男だとわかっているから」
「面白い人ですね」
「……時々、斬り捨てたくなるがな」
「え」
ラルフィンが驚いたように俺を見て、困ったように首を傾げた。
「僕のお仕事、増やさないでくださいね?」
斬るな、ではなく。
例え斬り捨てたとしても、癒やしてくれるらしい。
「鍛錬のときには必ずラルに居てもらわなきゃならないな。……ああ。だったら、あの二人も鍛錬に混ざるか?あいつらの腕前なら、団員たちのいい刺激にもなる」
「……ディーとエルが喜びそう……」
「だろ?」
「うう…考えさせてください」
「ああ」
まあ、断らないだろ、あいつらなら。
アキとラルフィンも待ってる間、話ができるだろうし。
久しぶりにラルフィンと他愛もない会話をしていた。
時折、アキの熱が上がるが、果実水を口移しで飲ませれば落ち着いていく。
目が覚めたときに、果実も口にさせた。
嬉しそうに食べる表情も可愛らしい。
暗くなり、馬車の中もランタンの明かりで照らす。
この速さのせいか、流石に魔物の襲撃はないようだ。
馬車が緩やかに減速を始めた。王都に入ったのか。
「アキ…もうすぐだ」
薄っすらと目を開いたアキは、こくりと頷き、また眠り始めた。
184
お気に入りに追加
5,496
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる