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第6.5章 それでも俺は変わらない愛を誓う(side:クリストフ)

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「アキ」

 瞳が薄っすらと開いていく。
 黒い瞳は、俺を見ると安堵したように潤みだす。

「クリス…」

 アキは俺の胸元に手を添えようとして、握られていることに気づいたようだ。

「あ」
「アキラさま」
「……ラルフィン君」
「はい!お久しぶりです」
「うん。……確かに久しぶり、だよね」

 声が震え始める。
 ラルフィンも、また涙を流し始めた。

「アキラさま」

 二人ともぼろぼろ泣いて。
 よかった、会いたかった、おかえり、ただいまを繰り返し。
 アキは俺の腕の中にいるのに、ラルフィンと抱き合って。

 ……さて。
 この状況、どうしたらいいんだ。
 泣き虫が二人に増えた。
 城に戻ってからも、アキは泣き続けそうだなと、思わず苦笑してしまう。
 まあいいか。
 思う存分泣いて、泣いて、それで寂しかった思いを流せれば。
 あとは俺が引き受ければいい。
 涙を止めるのは俺の役目だ。

 二人はひとしきり泣いたあと、ようやく身体を離した。
 ラルフィンは癒やしの続きで、アキの左手を両手で包み込むように握っている。
 アキは泣き疲れたのか、俺の胸元を握りしめながら寝始めた。
 息遣いはそれほど苦しくなさそうだ。

「殿下」

 扉を少し開き、オットーが声をかけてきた。

「昼食はどうなさいますか」
「果物だけでいい。お前たちは済ませたか?」
「はい」
「それなら撤収作業に。村長に――――」
「既に作業に入っています。村長にはザイルが対応してます。報告内容も纏まってますので、間もなく出発できるかと」
「任せた」
「はい」

 …オットーに頭が上がらなくなりそうだ。

「ラル、お前のエルフィードは、帰りも魔法が使えそうか?」
「大丈夫です。ディーと一緒に御者台にいますから」
「助かる」

 これなら、それほど時間もかからなそうだ。
 夜遅い時間には城に着く。

 アキからマントを外し、毛布で包んだ。
 寝やすいように広い座席の上に横たえようとしたが、アキの手が俺の服を掴んで離れない。しかも、寝ているというのに、眉までひそめ、あからさまに嫌な顔をする。
 腕の中に抱き直し、膝の上で横抱きにすると、表情は緩み、口元に笑みを浮かべる。
 ……どうやら俺に抱かれている方がいいらしい。
 これは、どうしても、口元が緩む。

「アキラさま、殿下と離れたくないんですね」

 普段は鈍感なラルフィンまで、くすくす笑いながら口にしてきた。

「そのようだ」

 後でアキが恥ずかしがりそうだな。

 ラルフィンの癒やしが効いているのか、穏やかな寝顔のアキを眺めていると、再びオットーから声がかかった。

「失礼します。殿下、村長から、ご婚約者様に食べてもらいたいと、果実が。それと、果実水もおいておきます」
「しっかり礼を伝えておいてくれ。アキはここの果実が好きだからな」
「ええ。……あと、一応ご相談なんですが」

 一旦馬車内に入り、果実などが入った籠を置いたオットーは、どこか疲れたように溜息をついた。

「うちの問題児が」
「ああ。エアハルトか」
「御者をする、と、ひかなくて」
「エアハルトが?」
「はい。……その、アキラ様が乗車しているのなら、自分が、と、煩く…」
「ふむ」

 風属性で速さを上げ、土属性で障害物を消せば、揺れも少なくなりそうだ。

「ディオルグにエアハルトの馬を使ってもらえ。……いいか?ラル」
「ええ。構いません」
「ん。オットー、エアハルトを御者台に。エルフィードと共に魔法で補助をさせろ。『アキに何一つ衝撃を与えるな』と、俺が言っていると伝えろ。それだけで十二分の力を出すだろ。出発するときは二度、扉を叩いてくれ」
「わかりました」

 ニヤリと笑ったオットーは、すぐに出ていった。
 あれはかなり辟易してたんだな。

 それから間もなくして、扉が二回叩かれた。
 最初はゆっくりと走り出した馬車は、次第に速度を上げていく。
 日除けをめくり外を確認したが、馬車とは思えない速度で走っている。

「凄いな」
「そうなんです。エル、凄いんです!」
「ああ」

 褒められて嬉しいのだろう。
 ラルフィンの屈託のない笑顔に、俺も笑みが浮かぶ。
 これほどの速さで進んでいるというのに、揺れが殆ど無い。どうやら俺の言葉がかなり効いたらしい。
 城に着く頃には起き上がる気力もなくしているかもしれないな。

「元冒険者だった団員さんの魔法ですね……。凄いですね。ほとんど揺れを感じません」
「困った奴だが腕は確かだからな」
「困った………。でも、殿下も信用してるから、この馬車の御者を任せられたのでしょう?」

 ラルフィンから見るとそうなるのか?
 信用……。まあ、裏切らない、という点においては、それなりに信用はある。アキに関しては、全く油断ならない奴だが。

「アキに関することには、絶対に手を抜かない男だとわかっているから」
「面白い人ですね」
「……時々、斬り捨てたくなるがな」
「え」

 ラルフィンが驚いたように俺を見て、困ったように首を傾げた。

「僕のお仕事、増やさないでくださいね?」

 斬るな、ではなく。
 例え斬り捨てたとしても、癒やしてくれるらしい。

「鍛錬のときには必ずラルに居てもらわなきゃならないな。……ああ。だったら、あの二人も鍛錬に混ざるか?あいつらの腕前なら、団員たちのいい刺激にもなる」
「……ディーとエルが喜びそう……」
「だろ?」
「うう…考えさせてください」
「ああ」

 まあ、断らないだろ、あいつらなら。
 アキとラルフィンも待ってる間、話ができるだろうし。

 久しぶりにラルフィンと他愛もない会話をしていた。
 時折、アキの熱が上がるが、果実水を口移しで飲ませれば落ち着いていく。
 目が覚めたときに、果実も口にさせた。
 嬉しそうに食べる表情も可愛らしい。

 暗くなり、馬車の中もランタンの明かりで照らす。
 この速さのせいか、流石に魔物の襲撃はないようだ。
 馬車が緩やかに減速を始めた。王都に入ったのか。

「アキ…もうすぐだ」

 薄っすらと目を開いたアキは、こくりと頷き、また眠り始めた。



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