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第6章 家族からも溺愛されていました。
26 ただいま
しおりを挟む同じ行動をしてみよう…と思いつつ、身体がちゃんと動くのか確認したよね。確認するまでもなく動くけど。
持ち物……なんてほとんどなかったけど、腕時計はちゃんとあるし、イヤリングも羽根飾りも無くなってない。よかった。
いつまでも寝っ転がってる場合じゃないと、目眩が起きないようにゆっくり起き上がり、改めて周囲を見渡した。
……ん、同じ、だ。
何か法則性でもあるのかと疑いそうになるくらいに、同じ。
違うのは、少しの肌寒さかな。カーディガン着てても少し寒い。
少し離れたところには、街道らしき道があった。
俺が寝転んでたとこと街道を挟んだ反対側は森になってる。
……いや、ほんと。
同じだよね。
まさか場所まで同じとか言わないよね?
「……なんでこんな場所……?いっそ、即クリスの部屋でもいいのに……」
ちょっと意地悪じゃないですか、女神様。
街道まで進んでみたけれど、予想通り、右を見ても左を見ても、平原と森。村の影すら見えない。
えー……ほんとにどうしよう。
念話……なんて使えないし。転移もできないし。徒歩?とにかく歩くしかないわけ?
「んー……?」
微妙に熱っぽいし。
なんだこれ。
「……詰んだ」
ここで待とう。
街道ぽいんだから、行商人とか、きっと通るはず。見回りの駐屯さんたちが通るかもしれないし。
なんか笑えてきた。
結局、わからずに転移してきたときも、わかってて転移してきた今も、やってること同じで。
街道沿いに腰を下ろして、空を見上げた。
ちょっと重なった二つの太陽。
……間違いなく、異世界。
だったら、魔法、使えるかな。
目を閉じて身体の中に意識を巡らせてみた。
……なんか、小さな熱源があるような気がするけど、よくわからない。
しかも、探ろうとすればするほど、熱が上がっていくような気がして。
とりあえずやめよう。
本格的にどうしよう……って溜息ついたら、鳥のさえずりの他に地面を駆ける何かの音がした気がした。
おそらく、馬の。
感知が働かない。
まさか、本物の俺には魔力がない?
あー……、それは、あり得るかも?
それでも、こちらに来てる人に気づいてもらいたい。
万が一、人じゃなかったら、とか、悪い人たちだったら、とか、色々考えたけど、もうそれは後回しだ。
立ち上がって音のする方を見た。
……まだ、何も見えない。
でも、近づいてきてる、と、思うんだけど。
声でも上げたら気づいてもらえるかなとお腹に力をいれたとき、森の方から重量感のある足音が聞こえてきた。
枝とかを踏み潰してるような足音。
……いやいや、まさかね?
そんなところまで同じじゃなくていいよ……って、内心冷や汗をかきながら森の方を見たら、ギラリと光る目と視線があった。
……あ。
これ、死んだかも。
俺の目の前にのそりと出てきたのは、ギラついた目で四足移動していた、熊。あれですね。冬眠明けのグリズリーさんですね…!!
「嘘でしょ……」
咆哮を上げて、俺の前に仁王立ちになる巨体。
冬眠明け。
腹ペコですよねぇ!?
「だから……っ、なんで、スライムじゃないならいいとか、そういうことじゃないんですけど…!?」
逃げなきゃ。
なんとか、逃げなきゃ。
でも、背中見せたら、一瞬で終わる。
……やば。
怖すぎて足、動かない……。
いや、咆哮の威圧を受けたのか!?
「く……くるな……っ」
頼れるものは魔法しかないのに、突き出した手のひらからは、『ぽすん』って感じで煙が出ただけ。
あ、魔力はあるんだな、とか、変なとこに感動したけど、振り上げられたグリズリーさんの鋭い爪がついた前足を見て、そんなこと考えてる場合じゃねーよ!って自分にツッコんでた。
「ぅわ……っ!!」
起きたてでまだ鈍いのか、前足は緩慢に振り下ろされた。
だから、少し動いた足で後ろにたたらを踏んだ状態で避けることはできたけど、そのまま尻餅をついた。
「……女神様、俺のこと嫌い!?」
駄目だ。
詰む。
全力疾走もできない。
そもそも、そんな体力、まだ戻ってないよ!?
グリズリーさんの目は、確実に俺を餌認定してる。うあ…、よだれ、酷い。
『次ははずさん、いい加減食われろ』みたいな目で俺を見てくるグリズリーさんは、さっきよりも機敏さを増した腕を振り上げた。
「………なんで」
ようやく帰ってきたのに、なんでこんな目に合わなきゃならないの。
クリスに会えると思ったのに、なんで俺の命、風前の灯になってんの。
「ひどい……っ、助けてよ……助けに来てよ……クリスのばかああぁぁ!!!」
叫んだ瞬間、グリズリーさんは絶叫を上げた。何が起きたのか怖怖見たら、グリズリーさんの目に矢が刺さってた。
「え」
呆然としてたら、また一本の矢が飛んできて、もう片方の目が潰れる。
グリズリーさんは無我夢中で両前足を振り回し始めた。
今なら逃げれそうなのに、足が動いてくれない。
どうしようどうしよう……って思っていたら、突然、身体が浮いた。
「え」
「オットー、ザイル、とどめを刺せ。ミルドとエアハルトは森の確認を」
「「はいっ」」
小脇に抱えられてて、周囲の状況はよくわからなかった、けど。
でも、この腕も声も匂いも、間違うはずがなくて。
「………クリス?」
「誰がばかだ。変なことを叫ぶな」
「クリス」
お馬……ヴェルの足が止まった。
クリスに抱えられて、向き合うように座らされる。
「くりす」
「……おかえり、アキ」
「くりす……っ」
ぼろぼろ涙が出て、クリスの顔がよく見えない。
「た、だい、ま…っ」
「アキ」
声。
クリスの声。
力強く抱きしめられて、俺もクリスの背中に腕を回した。
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