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第6章 家族からも溺愛されていました。
15 ノートの中身を見られた、けど
しおりを挟む父さんは、俺の退院の日と翌日のクリスマスに、お休みを貰ってくれてた。
母さんは年明けまでお休みらしい。
二十五日のクリスマス当日は、朝から大忙しだった。
ばぁちゃんの仏壇は、伯父さん――――母さんのお兄さん――――の家で管理されてる。
クリスマスの忙しい日にお邪魔するわけにも行かず、とりあえずはお墓参りをすることに。
伯父さんもすごく俺のことを心配してくれていたようだから、そのうち顔を見せに行かなければならないらしい。
……ってことは、正月は親戚巡りになりそうだな。父さんの方の親戚巡りだってあるだろうし。
お年玉増額イベントかな?不謹慎だけど。
お墓の前で、丁寧に手を合わせた。
そしたらなんとなく、「これでお別れだ」ってばぁちゃんに言われたことを思い出した。
……聞きたいこと、たくさんあったな。
『夢の中』で、ばぁちゃんと関わった回数が多すぎて。
ぼんやりとしてて、思い出せないことも多いけど。
でも、なんか、とても大事なことを言われてた気がするんだ。
ねぇ、ばぁちゃん。
俺ね、もう決めたんだ。
母さんと父さんにはまだ言ってないけど、……言えるかもわからないけど、俺はクリスのところに行くから。
約束したんだよ。絶対に、帰るから、って。
……ああ、本当に、俺は、家族よりもクリスを選んだんだ。
後悔とか、してないけど。
ただ、母さんと父さんが辛い思いをしなければいいと思って。
どうしたらいいんだろう、どうやって伝えればいいんだろう、って。
お墓参りを終えて買い物に移ってからも、ずっと考えてた。
「瑛、難しい顔してるけど、疲れた?車椅子持ってこようか?」
「え。や、車椅子まではいらないし…っ」
「無理するといいことないぞ?」
車椅子、何か恥ずかしいし。歩けるし!
スピードはゆっくりだったけれど、クリスマスで浮き立つ街の中を、三人で歩きながら目当てのものを探す。
こんな風にゆっくり両親と買い物をするなんて、怪我をする前はなかった。
他のことは考えないようにした。
二人はとにかく俺を甘やかしたいようで、あれもこれも買おうとするから、それを止めるのに忙しかった。
文字盤の少し大きなアナログの腕時計。
最近発売になった新作ゲーム。
ノートの束。
花の香と柑橘系の香りの紅茶。
「瑛、紅茶好きだった?」
「好きになったんだ」
紅茶の香りをアレヤコレヤ選んでたとき、母さんがとても不思議そうな顔をしてた。
むこうじゃ、紅茶ばかりだったし。美味しかったし。
「じゃあ、帰ったら、昨日のケーキの残り、紅茶と一緒におやつに出すわね」
「うん」
紅茶の淹れ方も覚えたいな。
向こうはティーバッグじゃないから。
まあ、おいおい。
両手に沢山の荷物を持って、帰宅した。
ほぼ俺の荷物。
いらないって言ったのに、俺が痩せてサイズが合わなくなったからと、服も何着か買ってくれた。
元のサイズに戻ったら、着れなくなるのになぁ。勿体ない。
ある程度片付けてから、みんなでケーキを食べた。
もちろん、紅茶付き。
クリスマスな夕飯は昨日食べたので、今日はそこまで豪華にはしないけど、ケーキも食べたので、いつもよりは遅めの夕飯にすると言われた。
うん、俺もそれでいい。
ケーキを食べてゆっくりして、部屋に引っ込んだ。
動き回って疲れが溜まったようで、ちょっと休もう……って思ってベッドに横になったら、すぐに眠ってしまった。
妙な身体の重だるさに目が覚めた。
「………れ?」
「ああ、起きたか?」
枕元に父さんがいた。
なんだか、凄く心配してるっぽい顔。
きょろ…っと周りを見たら、俺の部屋だけど、カーテンがひかれていて、どうやら夜らしく。
しかも、額には冷却シートが貼られてて、枕には氷枕が。
「あ……れ?」
「出てこないから部屋に来たら、倒れるように寝てたから。すまないな。気づいてやれなくて」
「え……と」
「熱が高いから起きるなよ。このまま熱が下がらなかったら、明日は病院だ」
「……病院は、いいよ。ほんと、疲れただけだと思うし」
やっちゃったなぁ。
俺、やっぱり浮かれてたのか。
「夕食は?」
「んー……、とりあえずスポドリだけでいいかな……」
「わかった。持ってくるから寝てろ」
「うん」
熱かぁ。
入院中もたまに出してたよな。
やっぱ無理しすぎたか。
ベッドヘッドのとこに、買ってもらったばかりの腕時計と、大切な小さめの袋がちゃんと置かれてた。
流石に寝間着にはなってなくて、着替えるかと、のそのそ起き上がった。
………冷却シートは便利。体起こしても落ちてこない………。
風呂は明日でいいや。
水分取ってしっかり寝て、明日には元気になってないと、余計心配をかけてしまう。
ベッドの足元に置きっぱなしの寝間着を手に取ったとき、母さんが部屋に来た。
「着替え?一人でできる?」
「……俺、そこまで重病人じゃないよ」
「五ヶ月も意識がなかった子の言葉とは思えないわね」
ベッドに座り直した俺に、母さんがグラスを渡してくれた。中身は、よく冷えたスポーツドリンク。
立ち上がったときに少しめまいがしたから、無理は禁物。
「えと……、母さん、机の上のノートとシャーペン取って」
「これ?今日くらい勉強しなくていいのよ?」
……と、母さん、ノートを手にとって何気にパラパラ捲り始めた。
「え、ちょ、中、見ないでっ」
「……瑛、これ」
勉強なんかじゃないことがバレたことより、全く読めないだろうものを俺が書いてることがバレたことのほうが恥ずかしすぎる。
俺にとってはこれは大事な勉強だけど、母さんにしてみたら、「これだから男子高校生は…」と笑われる案件だ。
「母さんっ」
「瑛、これ、おばあちゃんに教えてもらったの?」
「え?」
予想外の母さんの反応に、立ち上がりかけた姿勢のまま、俺は固まってしまった。
「おばあちゃんも、これとおんなじようなもの書いていたから。瑛、よくおばあちゃんのところに行ってたし、よくなついていたから、その時に教えてもらったの?」
「………え?」
母さんの言葉を理解できなくて、俺は暫く固まったままだった。
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