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第6章 家族からも溺愛されていました。
14 クリスマス・イブ④
しおりを挟む足の上に座ったままの俺を、クリスの腕も力一杯抱きしめ返してくれた。
「痩せたままだな」
「……目が覚めたときよりは、少し、増えたんだよ」
「体温は変わらない」
「うん…クリスも、だ」
たくさん、願った。
会いたい、早く会いたい、って。
「アキ」
俺を呼ぶ声。
ずっと、聞きたかった。
「お前は今、どこにいる?」
「……日本だよ。元の、場所」
「そこに危険はないのか…?」
「魔物とかはいないし、……大丈夫」
クリスは小さく「そうか」って呟くと、俺の身体を離して顔をまじまじと見てきた。
「クリス…?」
「お前を狙うようなやつはいないのか?」
「狙う…って、俺、ただの民間人だから、命狙われたりしないよ?」
大真面目に答えたら、クリスが笑った。
楽しそうに、俺の唇を撫でながら。
「そうじゃないんだが」
「ん?」
クリスはまだ笑ったまま、触れるだけのキスをしてきた。
「こういう意味で、狙われてないか聞いたんだ」
「あ」
意図されたことに気づいて、顔が熱くなる。
「ない……ないってば……っ。前にも言ったでしょ?あっちじゃ俺、モテたことないの!女の子と付き合ったこともないし、同じ男子からはそういう目で見られないしっ」
「こんなに可愛いのに」
「それは、クリスだけっ」
…あ、長野にも言われたけど、あれはノーカンだ。
「……俺には、クリスだけがいればいい」
「俺もだ。……アキが居れば、他はいらない」
「ん」
額に、温かいキス。
いつの間にか涙が止まっていた目元に。
耳に、頬に、唇に。
軽いリップ音。
舌先を、お互い軽く舐めて、離れる。
「……夢みたい、だ」
「まあ、夢みたいなものだが」
「そうだけど。ずっと、お願いしてたから。クリスに会いたい、って」
「俺もだよ。毎日女神に祈ってた。アキに会いたい、アキを返してほしいと」
「……死んだ、って、思ってなかったの?」
クリスは苦笑しながら、俺の頬に手を当てる。
「最初は。お前は俺の腕の中で事切れたから――――」
「……ごめんね」
「いや。……俺が守れなかったせいだ。すまなかった。アキに、辛い思いをさせた」
そんなことないよ。
首を横に振ったら、クリスは目を細めた。
「……なんで、『返して』って……」
「お前が生きてる確証を得たんだ」
「え」
「だから――――信じて、祈り、願った」
「確証、って」
「お前が帰ってきたら教えてやる。……だから、アキ、早く帰ってこい。俺の、傍に」
「うん…っ、待ってて。絶対、帰るから…っ」
泣きたくないのに、やっぱり涙が出る。
クリスが唇で拭ってくれるのに、全然止まらない。
「クリス……っ」
「……本当に、泣き虫だな」
だって、仕方ないんだ。
ずっと、ずっと、会いたくて。
会えない辛さで胸が苦しくなるくらい。
今すぐ、クリスの腕の中に帰りたい。
一人で眠るのは寂しい。
クリスの体温がほしい。
微笑みながら、クリスは確かめるように何度も俺の頬を撫でる。
指先は涙で濡れてしまうけど。
「どうしたら泣き止む?」
声色からは、呆れた感じはなかった。
クリスの声は、どこまでも優しい。
「キス……たくさん、して」
「いいよ」
顔中、あちこちにキスをされて。
地面なんだかなんなんだかわからない空間の中で押し倒されて。
「ん……んぅ」
のしかかってくるクリスの重みが、現実のようで。
何度も、角度を変えながら唇を触れ合わせる。
舌を絡めて、流し込まれる甘いものを飲み込んで。
しっかり抱き合ってる間に、また、涙は止まった。
「アキが帰ってきたら、アキの話を聞かせて。アキに何が起きたのか、知りたいんだ」
「俺も……、クリスの話が聞きたい」
「……ああ。話さなきゃならないことが、沢山ある」
「うん」
クリスの重みを受け止めながら、心が落ち着いていく。
いつまでもこうしていたい。
けど、もうすぐ、時間が来る。
「……オットーさんやザイルさんに、迷惑かけてない?」
「………かけてないよ」
「メリダさんには?」
「………多分」
歯切れの悪くなったクリスに、思わずふふ…って笑ってしまった。
「駄目だよ……困らせたら」
「……今は、そうでもないはずだ」
その言い方にも笑ってしまった。
「俺が帰ったら、みんなに聞いてまわるからね?」
「余計なことを言わないように念を押しておこう」
二人で笑い合う。
甘いキスを繰り返して、ぬくもりを忘れないように。
背中に回してた腕を解いて、クリスの頬に触れた。
……やっぱり、好きだ。
「クリス……好き。あいしてる」
「ああ…。俺も、愛してるよ、アキ」
手を取られて、指を絡めるように握る。
離れたくない。
ここが現実世界じゃないことはわかってるけど、それでも、離れたくない。
「アキ……」
絡めていた指を離された。
右手を握られ、手首の内側に、クリスが唇を寄せる。
そこに吸い付かれて、左胸と同じように痕が残った。
「俺にもつけて」
「ん」
クリスの左手首の内側に、下手くそな痕を付けた。
クリスは満足そうにそれを見て、俺がつけた痕の上に、自分も口づける。
その仕草に、心臓がバクバクしてくる。
「毎朝口付ける。アキと繋がるように」
目を細めたクリス。
……ああ、そうか。
「俺も……俺も、毎日、する」
二人の繋がりを、一つ、増やしたんだ。
「クリス…っ」
最後に、キスを強請った。
もう時間だから。
わかる、から。
「やだ……くりす……っ」
「アキ……」
行かないで。
いなくならないで。
「春の二の月までに戻ってこい…全部用意して待っているから」
「うん………うん……っ」
いつ帰れるか、なんてわからないけど、約束の日までに絶対に帰る。
帰らなきゃだめだから。
「くりす……っ」
「愛してる」
唇を触れ合わせたまま、身体が溶けていく。
キラキラと、光の粒子のように。
俺も、クリスも。
見つめ合って、抱き合って、そのまま、そのまま。
目が覚めたら、朝になっていた。
夢のような本当の出来事を、漠然と思い出しながら起き上がる。
身体中、あちこちにクリスのぬくもりが残ってる気がした。
唇に触れて、それからふと視界に入ったのは、右手首内側の、小さな痕。
「~~~っ」
嬉しくて涙が出た。
ちゃんと、残ってたから。
新しい繋がり。俺とクリスを結ぶもの。
「クリス……」
手首の痕に唇をつける。
消えないように、軽く吸い付いて。
「……女神様……、神様……、ありがとう……っ」
どんな神様かはわからないけど。
でも、本当に、ありがとう。
どんなものより嬉しいクリスマスプレゼントだった。
クリスマスの奇跡のような。
「………頑張るよ、クリス」
クリスが待ってくれている。
俺が生きてること、わかってた。
だから、諦めない。
絶対に帰るから。
だから、待っていて、クリス――――。
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