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第6章 家族からも溺愛されていました。

11 クリスマス・イブ①

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「お世話になりました」

 クリスマスイブの二十四日、俺はなんとか退院することができた。
 迎えに来てくれた父さんと母さんと一緒に、リハビリ病棟と、まえにお世話になってた外科病棟にも顔を出して挨拶をする。
 なんせ、八ヶ月もお世話になった病院だから、挨拶回りくらいしっかりしなきゃ駄目だよね。

「退院おめでとう」
「ありがとうございます」

 外科病棟もリハビリ病棟も、看護師さんたちは皆笑顔で送り出してくれた。
 もう、ほんと、感謝です。




 父さんが運転する車に乗り込んで、八ヶ月ぶりの外を眺める。
 うん。イブだからね。イルミネーションとか、なんか、キラキラしてるよね。
 ぼーっと窓の外を眺めながら、思うのはやっぱり向こうのことだ。
 クリスマスなんてイベント、当然ながらないよね。
 リアさんが、楽しいとこ取りでクリスマスみたいなイベント作らないかな。楽しそうだけどな。

「ケーキは準備してあるけど、なにか食べたいものはない?」

 母さんが助手席から聞いてくれる。

「んー…」

 食べたいもの……なんだろ。

「あー…、オムライス?」
「じゃあ、チキンも用意してあるから、少なめにオムライス用意しようかな」
「うん。ありがと」

 ちょっとずつなら、食べられる、はず。
 結局、食べる量はそんなに増えていない。
 リハビリではそれなりに頑張っていたから、体力はまぁまぁ。歩いてるときに突然転んだりとか倒れたりとかはなくなった。
 けど、体重が思ったほど増えない。
 骨が浮いてた肋骨とかは、そこまでではなくなったけど、手も足も細い。
 リハビリと筋トレ頑張って、筋肉ムキムキ計画は、中々に頓挫してる。まあ、この短期間で筋肉つきまくったら、それはそれで大変かもだけど。
 退院してからも筋トレは続ける。
 通院もある。
 念の為、来月に一度検査とかリハビリとか。
 その後も、暫くは通院が必要なのだとか。
 よくわからないので、父さんと母さんに丸投げしてるけど。

「瑛、明日買い物に行こうか」
「買い物?」
「ああ。瑛のものを。ほら、ゲームとか」
「服とかも買いに行きましょうか」
「ありがと」

 ゲーム…何がいいかな。
 某有名ゲームは新シリーズ出てたから…、あ、DLの方が楽かな。
 オフラインゲーム…何が出てるかな。

「あ、本屋にも行きたい」
「参考書!?」
「えー……、ごめん。全然。えっと…、趣味?」
「そう……。まあ、いいわ。好きなの買ってあげるから」

 あからさまに溜息をついた母さんに、父さんと俺は笑いだしてた。
 ごめんね。俺、まだ全然勉強するつもり無いんだよね。どうせ、学校行くの来年度からどし。……留年ってのは、ちょっと気が重いけど、仕方ないことだから、諦める。

 なんとなく自然に、クリスマスな曲を口ずさみながら、窓の外を見ていたら、はらりと白いものが落ちてくる。

「あ、雪だ」

 空は青空なのに。
 はらりはらりと、雪が舞ってる。

「ホワイトクリスマスになるかしら」
「んー…、積もるような降り方じゃないと思うんだけどなぁ」

 晴れてるし。
 雪雲ないのに。

「……天気雨は狐の嫁入りだっけ?」
「そうだな」
「じゃ、晴れのときの雪って、なんか呼び名あるかな?」
「聞いたことないわね」
「ないな」
「だよねぇ」

 特別な呼び名がなくても、何かいいことがおきそう。
 見てるだけで、何故か楽しくなるような。

 自然と、口元には笑みが浮かんだ。
 ずっと窓の外を眺めて。
 陽の光を浴びて、キラキラ輝いて見える雪は、まるで、神官の祈りの光のようで。
 祝福、されているような。
 そんな気分になった。





 久方ぶりの家について、ちょっと疲れた俺は、母さんに部屋に押し込まれて休むように言われた。
 入院の荷物の片付けは、母さんたちがしてくれるらしい。いちお、ノートの束だけは自分で運んだけど。
 ノートの束を机の上において、俺はありがたくベッドに横になった。
 ひんやりしたシーツ。
 全然、嗅ぎなれない匂い。
 自分のベッドなのに、他人の物のよう。
 ぐるりと部屋を見回して、ああ、俺の部屋だ、なんて、納得したりした。
 ……変なの。
 納得はするけど、馴染めない。
 暫く経てば、この違和感もなくなるんだろうか。
 考えても仕方ないので、目を閉じた。
 そうして肩の力が抜けて、自分の部屋なのに、緊張してたことに気づいて、笑ってしまう。
 少し休んだら、居間に行こう。
 母さんにお茶を淹れてもらおう。
 そうだ。
 明日は、買い物の他に、ばぁちゃんの墓参りに連れて行ってもらおう。

 すぅ……っと眠りに入る前、誰かに頭を撫でられた気がした。
 よく知ってる優しい、しわしわな手。
 本当にその手は優しくて。
 俺の口元には、笑みが浮かんだ。





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