376 / 560
第6章 家族からも溺愛されていました。
17 お正月です
しおりを挟む時々熱を出しながら、俺の日常生活は概ね平和だった。
学校も短い冬休みに入って、長野たちがうちに来てボードゲームをしたりセッションしたり、遊び三昧…とは言わずとも、近いことをしていたと思う。
俺、宿題とかないからなぁ。付き合わせてごめんよ。
正月にはお見舞いのお礼も兼ねて親戚めぐりをした。
伯父さんは俺のことを凄く喜んでくれていて、「瑛の葬式が同時にならなくてよかった」って豪快に言うもんだから、母さんが笑顔で「縁起でもない」と窘めてた。こめかみをひくつかせながら。
母さんの様子に笑顔を凍らせた伯父さんは、焦ったように俺にお年玉くれたケド…。
お仏壇に飾られていたばぁちゃんの遺影は、こんな写真あったかな?って思うくらい、鮮やかで綺麗な写真だった。
写真屋さんが色んな加工してくれるんだって。
手を合わせながら、転生にしても転移にしても、元々の魂は向こうのものだから、女神様の元に還るのかな……って思った。それか、こっちで生きて死んだのだから、魂もこっちのまま……とか?
あ、でも、じぃちゃんが待ってるって言ってたから、こっち、なのかな?……なんだかんだ、ばぁちゃんとじいちゃん、仲のいい夫婦だったってことか。
俺に関しては状況が違うから……、なんでこんなことになったのか、女神様に聞いてみたい。
魂だけでむこうに行って……向こうでの身体はじゃあ、なんだったんだ、とか。
わからないことが多すぎて。
……それに、今の身体が『本物』だから、むこうでクリスに愛された俺は、俺であって俺じゃなくて。……だから、クリスとキスをしたのも、クリスに抱かれたのも、この身体じゃなく、て。
……ああああっ
俺、仏壇の前で何考えてるんだよ……っ
ごめんね……ばぁちゃん、じぃちゃん。
仏壇の前で手を合わせたまま内心悶えていたら、伯父さんが「瑛は熱心に手を合わせていい子だな」って言いながら頭を撫でてきた。
……ごめんね、伯父さん。俺の頭の中、煩悩まみれだったよ……。全然熱心でもいい子でもなかったよ……。
親戚巡りをしてお年玉をたんまりもらって、嬉しくなりつつも、何も欲しいものが思い浮かばなくて、まるっと財布の中に入りっぱなしになった諭吉さんと漱石さん。
母の日も父の日も遠いなぁ。
バレンタイン……。予定なし。
料理の本でも買おうかな。
うーん…と唸りながら、日課にしてる筋トレをする。
腹筋、腕立て伏せ、背筋、スクワット、各十回ずつ。それを三セットとかするのがベストなんだけど、正直、まだそこまでは出来ない。
無理は禁物。
とにかく継続すべし。
「……なかなか割れない……」
筋トレ終わってシャツをめくってお腹を見てた。
平べったい。
余計な脂肪はなさそうだけど、筋肉もなさそう。
「……瑛、マッチョにでもなりたいの?」
「え!?」
誰もいないはずだったのに、扉を少し開けて母さんが覗き込んでて、慌ててお腹を隠した。
「母さん、ノック……!」
「したわよ?」
返事がなかったから、開けてみた、と。
考え事しすぎてて聞こえなかったのか……。
「瑛がマッチョになるのは無理じゃない…?」
「う……」
「もともと細いし…。あまり運動好きじゃないし」
「や、でも、筋トレ続けてるしっ」
「それはやりなさい。ただでさえ、なかった筋肉がごっそり落ちたんだから。体力もつけないと、学校にも通えないわよ?」
「うん…」
「でも、お腹割れる夢は見ないほうがいいわよ?」
「うう」
別にマッチョになりたいわけじゃないんだよ。
ただ、ちょっとね?ちょっとだけでも、お腹が割れてたら、格好いいじゃん……って思っただけで。誰かに見せたいわけじゃないけど。
「……健全な精神は健全な肉体に宿るって言うし……」
「うん………そう、ね?」
……この反応。
クリスも似たような反応してたな……。くそ……っ。
「とりあえず、リハビリの先生から言われてるメニュー以上のことをして、身体を壊さないでね?」
「わかってるしっ!てか、用事あって来たんじゃないの?」
「あ、そうそう。お夕飯用意できたから、降りてきなさいね」
楽しそうに笑ってドアを閉めた母さん。
……ただ一言、夕飯できたよ、って言ってくれればいいのに………。
「筋肉つきにくいことなんてわかってるけどさー……」
筋トレ自体は先生の指示だし、それくらいやるなら、夢くらい見たっていいじゃん……。
「絶対腹割れになってやる……っ」
新年早々、野望を胸に抱いたのだった。
………けど。
「瑛、諦めろ。父さんも母さんもそんなに筋肉質じゃないし、そもそも食べる量が増えてないうちはつくものもつかない。まずは元の体重くらいには戻さないと」
「割れなくてもそれなりにはつくと思うけどね。お母さん、やっぱり割れるのは無理だと思うわ」
……食卓について早々に、両親から無理発言いただきました。
……ちくしょうっ
122
お気に入りに追加
5,496
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
騎士に溺愛されました
あいえだ
BL
ある日死んだはずの俺。でも、魔導士ジョージの力によって呼ばれた異世界は選ばれし魔法騎士たちがモンスターと戦う世界だった。新人騎士として新しい生活を始めた俺、セアラには次々と魔法騎士の溺愛が待っていた。セアラが生まれた理由、セアラを愛する魔法騎士たち、モンスターとの戦い、そしてモンスターを統べる敵のボスの存在。
総受けです。なんでも許せる方向け。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる