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第6章 家族からも溺愛されていました。

17 お正月です

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 時々熱を出しながら、俺の日常生活は概ね平和だった。
 学校も短い冬休みに入って、長野たちがうちに来てボードゲームをしたりセッションしたり、遊び三昧…とは言わずとも、近いことをしていたと思う。
 俺、宿題とかないからなぁ。付き合わせてごめんよ。

 正月にはお見舞いのお礼も兼ねて親戚めぐりをした。
 伯父さんは俺のことを凄く喜んでくれていて、「瑛の葬式が同時にならなくてよかった」って豪快に言うもんだから、母さんが笑顔で「縁起でもない」と窘めてた。こめかみをひくつかせながら。
 母さんの様子に笑顔を凍らせた伯父さんは、焦ったように俺にお年玉くれたケド…。

 お仏壇に飾られていたばぁちゃんの遺影は、こんな写真あったかな?って思うくらい、鮮やかで綺麗な写真だった。
 写真屋さんが色んな加工してくれるんだって。
 手を合わせながら、転生にしても転移にしても、元々の魂は向こうのものだから、女神様の元に還るのかな……って思った。それか、こっちで生きて死んだのだから、魂もこっちのまま……とか?
 あ、でも、じぃちゃんが待ってるって言ってたから、こっち、なのかな?……なんだかんだ、ばぁちゃんとじいちゃん、仲のいい夫婦だったってことか。
 俺に関しては状況が違うから……、なんでこんなことになったのか、女神様に聞いてみたい。
 魂だけでむこうに行って……向こうでの身体はじゃあ、なんだったんだ、とか。
 わからないことが多すぎて。
 ……それに、今の身体が『本物』だから、むこうでクリスに愛された俺は、俺であって俺じゃなくて。……だから、クリスとキスをしたのも、クリスに抱かれたのも、この身体じゃなく、て。
 ……ああああっ
 俺、仏壇の前で何考えてるんだよ……っ
 ごめんね……ばぁちゃん、じぃちゃん。
 仏壇の前で手を合わせたまま内心悶えていたら、伯父さんが「瑛は熱心に手を合わせていい子だな」って言いながら頭を撫でてきた。
 ……ごめんね、伯父さん。俺の頭の中、煩悩まみれだったよ……。全然熱心でもいい子でもなかったよ……。






 親戚巡りをしてお年玉をたんまりもらって、嬉しくなりつつも、何も欲しいものが思い浮かばなくて、まるっと財布の中に入りっぱなしになった諭吉さんと漱石さん。
 母の日も父の日も遠いなぁ。
 バレンタイン……。予定なし。
 料理の本でも買おうかな。

 うーん…と唸りながら、日課にしてる筋トレをする。
 腹筋、腕立て伏せ、背筋、スクワット、各十回ずつ。それを三セットとかするのがベストなんだけど、正直、まだそこまでは出来ない。
 無理は禁物。
 とにかく継続すべし。

「……なかなか割れない……」

 筋トレ終わってシャツをめくってお腹を見てた。
 平べったい。
 余計な脂肪はなさそうだけど、筋肉もなさそう。

「……瑛、マッチョにでもなりたいの?」
「え!?」

 誰もいないはずだったのに、扉を少し開けて母さんが覗き込んでて、慌ててお腹を隠した。

「母さん、ノック……!」
「したわよ?」

 返事がなかったから、開けてみた、と。
 考え事しすぎてて聞こえなかったのか……。

「瑛がマッチョになるのは無理じゃない…?」
「う……」
「もともと細いし…。あまり運動好きじゃないし」
「や、でも、筋トレ続けてるしっ」
「それはやりなさい。ただでさえ、なかった筋肉がごっそり落ちたんだから。体力もつけないと、学校にも通えないわよ?」
「うん…」
「でも、お腹割れる夢は見ないほうがいいわよ?」
「うう」

 別にマッチョになりたいわけじゃないんだよ。
 ただ、ちょっとね?ちょっとだけでも、お腹が割れてたら、格好いいじゃん……って思っただけで。誰かに見せたいわけじゃないけど。

「……健全な精神は健全な肉体に宿るって言うし……」
「うん………そう、ね?」

 ……この反応。
 クリスも似たような反応してたな……。くそ……っ。

「とりあえず、リハビリの先生から言われてるメニュー以上のことをして、身体を壊さないでね?」
「わかってるしっ!てか、用事あって来たんじゃないの?」
「あ、そうそう。お夕飯用意できたから、降りてきなさいね」

 楽しそうに笑ってドアを閉めた母さん。
 ……ただ一言、夕飯できたよ、って言ってくれればいいのに………。

「筋肉つきにくいことなんてわかってるけどさー……」

 筋トレ自体は先生の指示だし、それくらいやるなら、夢くらい見たっていいじゃん……。

「絶対腹割れになってやる……っ」

 新年早々、野望を胸に抱いたのだった。

 ………けど。

「瑛、諦めろ。父さんも母さんもそんなに筋肉質じゃないし、そもそも食べる量が増えてないうちはつくものもつかない。まずは元の体重くらいには戻さないと」
「割れなくてもそれなりにはつくと思うけどね。お母さん、やっぱり割れるのは無理だと思うわ」

 ……食卓について早々に、両親から無理発言いただきました。

 ……ちくしょうっ



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