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閑話 ②
オットーさんとザイルさん②
しおりを挟む◆side:オットー
「……………」
「……………」
ベッドの上で頭から毛布にくるまって膝を抱えて座り込むザイルと。
何をどう言えばいいのかわからないまま天井を見上げる俺と。
………どーすっかな、これ。
「………オットー、ごめん」
「ん?」
「………俺、やらかした」
「………いや、そりゃ、俺も」
「………」
また沈黙。
俺も、どう話せばいいかわからず。
ただただ朝日が眩しいなぁ……なんて、現実逃避をしつつ。
背中が綺麗だったな…とか、ぼんやり思いだし。
「あー……」
びくりと震える肩が、少し可愛いと思いつつ。
「その……なんだ」
「………なに」
「お互い酒飲んでたし。遠征続きで溜まってたし」
「たま………っ」
「あ、いや、だからな!?」
はぁ……とため息をついて。
毛布越しに頭を撫でると、体の動きがピタリと止まった。
「……責任、取ろうか?」
「責任?」
「そう。俺の嫁になるか、って話し」
「よ……っ」
驚いたように振り向いたザイルの顔は、面白いくらいに真っ赤だった。
「せ、責任とかっ、よ、嫁とか、いらないし…っ」
「けど、酔ってたとは言え、無理やり突っ込んだのは俺の方だし」
「つ………!い、や、だから、無理やりとか、そんなんじゃなくて、いや、だからっ」
大混乱中のザイルが面白い。
両肩を押してベッドに縫い付けた。
「はぁ!?」
「勃った」
「なんで!?」
「ザイルが面白くて」
「意味わかんねぇよ!!」
真っ赤になって悪態つくのも面白い。
口付けたいと思ったのは、もしかしたら昨日の酒が残ってるせいかもしれない。
口元に笑みが浮かぶ。
顔を近づけて唇が触れそうになったとき、思い切り顔を押しのけられた。
「いい加減に……っ」
「素面だと流されないか」
「全然全く流されませんよ!!…ちょっ、腰、押し付けないで……っ」
耳まで真っ赤。
暴れるから毛布がはだける。
ちらりと見えた胸元に、昨夜俺がつけたと思しき鬱血のあと。
「~~~~!!!だんちょ…!!!」
渾身の力で引き離されて。
「風呂入ってこい!!!」
って、ベッドから蹴落とされた。
◆side:ザイル
頭が痛い。
二日酔いでもなんでもなく。
いっそ、何一つ記憶として残ってなけりゃいいのに。
そう都合良くはいかないもので。
泣きながらオットーに縋って、身体を暴かれていたとか。自分がどんな声を出していたかとか。
……うう。忘れたい。覚えていなくてよかったのに。
うっかりな夜を過ごしたというのに、オットーの態度はあまり変わらない。
俺は俺で、酒の勢いを借りて思ってたことぶちまけて、少しは気分が晴れて。
身体のだるさとあらぬ所の少しの痛みで、覚えてる夜が事実なことを認識して、恥ずかしさやら居たたまれなさやらで死にそうで。けどすっきりしてる、変な感じ。
「ザイル、風呂空いた」
「ん」
腰にタオルを巻いただけのオットーが、風呂場から出てくる。
……ほんと、いい身体してんだよ。
筋肉の付き方とか、羨ましい限り。
でもあまり見ないように横をすり抜けようとしたら、オットーの手が俺の腕を掴んできた。
「なに?」
「洗ってやろうか」
「は?」
「ほら」
「え、ちょ」
グイグイ引っ張られて、風呂場に押し込められた。
何が起きてるわけ?
「オ」
文句を言おうと振り向けば、ニヤリと笑ったオットーに口付けられた。
何故!!
「ちょっ、っ」
体格差というか、同じように鍛えているはずなのに、明らかに力の差がある。俺だってひ弱なわけではなく、かなり鍛えている。なのに、いくら引き剥がそうとしてもびくともしない。
楽しそうに口を離したオットーは、俺を浴室の壁に押しつけ、秘部にいきなり指を入れてきた。
「ちょっと、ま……っ」
体をよじると、内股にドロッとしたものが流れ落ちて、羞恥で顔が熱くなった。
「あー……すまん。ザイル」
謝るくらいならその指を抜け……っ、て怒鳴ろうとしたら、指が秘部を開き、熱く滾ったものが押し当てられた。
「え、オットー、ま……って…っ」
「謝ったからな」
「いーーー!!!」
謝っただけで許されんなら、兵士も警邏も何もいらねえんだよ!!
浴室の壁に縋り付きながら、無理やり挿入された割には痛みはないな……なんて、どこか、冷静な部分で考えながら。
やっぱり殴らなきゃだめだと決意した。
別に。
好き、も、愛してる、も、何もない。
抱き合ったときにかわされるそんな睦言が、本心を伴わないなんてことはざらにあるし。そんな甘さを求めてるわけじゃない。
大体、殿下も兵団も大変な時期に、そんなことにうつつを抜かしてる時間はない。
ただ、嫌ではなかった。
私も不本意ながら気持ちよさは感じていたし。
浴室で何度か私の中に射精して終わったオットーを、振り向きざまに殴り倒したけど。
気だるさの残る体をなんとか動かして身支度を終えて、オットーと階下に降りたら、恋人同士熱い夜だったなとかなんとかからかわれて、いたたまれなくなって急ぎ足で外に出たりしたけれど。
慰めるように頭を撫でられるのは嫌じゃない。
労るように腰に手を回してくるのは、盛大に力の限り甲を抓って撃退したが。
オットーはどこか楽しそうで。
………まぁ、いいか、と、絆されてしまう、私も私。
「はぁ……。折角の休息日なのに。兵舎に戻ったら寝てしまいたい」
「添い寝してやろうか」
「お前が意外と節操なしだとわかったからいりません」
「伴侶をないがしろにするものじゃない」
「伴侶になった覚えはありません」
「体の相性はいいだろ」
「認めません!」
あー言えば、こー言う。
ま、それでも何だか面白くなって、二人顔を見合わせて笑った。
……アキラさんが亡くなってから。
本当に、久しぶりに、笑った。
兵舎に戻って宣言通り部屋のベッドに倒れ込むように横になって。
気づいたら隣にオットーがいて。
蹴り落としたのは、また別の話だ。
*****
友人以上恋人未満な二人。
結局ここに落ち着くのがしっくりくる。
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