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閑話 ②

転生令嬢は希望をもたらす ◆セシリア

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 王城で過した三日間、とても有意義だったわ。
 王太子妃のフロレンティーナ様とも親しくなることができて、書状のやり取りもできるようになった。
 フロレンティーナ様は、アキラさんが話されたエーデル領の街の作りにとても興味をお持ちになったらしく、私に色々と尋ねてくださった。
 公爵家のご令嬢と思えない気さくな方。
 アキラさんと親しくなられたのも頷けるわ。

 王城から持ち帰ったお米は、とても重宝してる。
 日本人はやっぱりお米を食べないと!……と思いつつ、今頑張っているのは日本酒の再現なんだけどね。ふふ。まだ未成年の私がこんなことしてもいいのか、さっぱりだけど。
 お米を使った料理についても、記憶の中の物を再現したり、こちらの料理に合わせて新しいものを考えたり、それはそれは日々楽しく過ごしていたわ。
 もちろん、レシピはしっかりと書き留めて、少し溜まったら王城のカール料理長に送るの。

 帰宅して早々に、殿下が提案してくださった、湯浴み用の服を、材質からデザインから色々考え、試作品を作ったりと、あれもこれもととにかく忙しい。
 どうせなら、内風呂も露天風呂も用意したい。
 行く行くはサウナや岩盤風呂も。
 魔法が使えたら便利なのに……と思いつつ、まだまだ小さいミナに頬ずりをして、もっと大きくなったら私のこと手伝ってねって、刷り込んでおく。悪い姉だわ。ふふ。





 多分、他の十四歳の令息令嬢と比較しても、忙しい日々を過ごしていた私のもとに、フロレンティーナ様からのお手紙が届いたのは、秋の二の月に入ってからだった。
 今回はどんな内容かしら――――と封を開け、手紙に目を通した私の手から、パラパラと紙が落ちていく。

「セシリア?」
「?」

 お父様も、ミナも、驚いて私を見る。
 嘘。
 そんな。

 震える手でもう一度手紙を拾い上げ、読み直した。
 ……何度読み返しても、そこには、アキラさんが亡くなったと、書いて、あって。

「~~~~っ!!」

 どうして。
 あんなに元気そうだったのに。
 怪我のせいで食は細くなってるって言っていたけど、私の料理をあんなにたくさん食べて笑顔だったのに。
 殿下の愛情を一身に受けて、あれほど幸せそうだったのに。
 何故、どうして。
 手紙には詳しいことは何も書かれていなかった。
 きっと、フロレンティーナ様も動揺してるんだわ。
 王城で会った方々を思い出す。
 皆さん、アキラさんのことを慕ってた。
 貴族の間には悪い噂しか流れてこなかったけど、そんな噂、本人を見ていたら嘘だとわかるものばかり。
 殿下の直属の兵団の方々だって、そう。
 羨ましくなるほど仲が良くて。

 あれだけ腕の立つ方々がいて、何故亡くなったの?
 魔物や、事件や、そういったこと関係なく?
 一体何が起きていたというの。
 王都から遠く離れたこの地に住んでる私には、何も知ることができなくて。
 私はまだ小娘で。
 今すぐにでも、行きたい。




 フロレンティーナ様は酷く悲しんでいらっしゃる。
 すぐに行けずとも。
 丁寧に、手紙を書く。
 フロレンティーナ様に。
 気の良いカール料理長に。
 祖母のように優しいメリダさんに。
 それから――――殿下に。
 詳細が知りたい。
 何が起きたのか知りたい。






 雪がつもり始めた冬月。
 街中の整備についての意見交換がしたいと、フロレンティーナ様から書状が届けられた。
 それを届けてくれたのは、私とミナをエーデル領まで護衛してくださった冒険者の方々。
 ……このお三方が恋人同士であることは、私はちゃんと見破ってますよ、もちろん。
 大急ぎでお父様に許可をいただき、今回はミナはお留守番に。乳母がしっかりした方だから、問題はないはず。
 思いつく限りの荷物を用意して、馬車に乗り込んだ。
 道中、アキラさんのことを持ち出すと、ラルフィンさんは泣きそうな顔をする。
 でもこらえきれずに泣き出してしまうラルフィンさんを、御者をしていないディオルグさんが優しく抱きしめて慰める。
 ……こんな状況でなければ、食いつく場面なのに。





 冬道だから、一週間ほどかかって王城に到着した。
 私を出迎えてくれた人たちは、変わりないように見えたけど。でも、やっぱり、表情が暗くて。
 まだ、皆が悲しみの中にいることを思い知らされた。

 滞在中、王都に宿を取るでなく、王城の客間が用意されていた。
 フロレンティーナ様とのお話は明日以降に。
 到着したこの日。
 最初に招かれたのはクリストフ殿下の私室だった。
 部屋にはなぜか冒険者宿のレヴィ様がいて。
 私を案内したメリダさんは、お茶の準備を終えると退室する。
 私がアキラさんのことを尋ねようと口を開きかけたとき、クリストフ殿下は私の前に一冊のノートを出してきた。

「ノート?」

 懐かしい。
 ロゴも、よく知ってるものだ。
 これがどうしたのだろう……と顔を上げたら、殿下もレヴィ様も、無言のまま天井を仰ぎ見ている。

「セシリア嬢はこれがなにかわかるのか」
「え?ええ。これはノートですよね?こちらでノートがあるとは思っても見ませんでしたが」
「『ノート』というのは」
「?えーと……、紙を束ねて書きやすく、まとめやすく、持ちやすくしたものですかね」
の物か」
「え?……え、ええ……、こちらにないのであれば、そう、なります?」
「表紙にはなんと書かれているんだ?」
「これは、このノートを出している会社……商人のロゴ、えーと……、目印、みたいなものですね。商人の名前が記されているようなものです」

 いまいち意図がわからない。
 けど、殿下は私の説明を聞いて肩を震わせている。

「アキ………っ」

 名前を呟いた口元には、微かに笑みが浮かぶ。
 目元からは、堪えきれない涙が落ちていく。

「……殿下?」
「アキが、生きている」
「っ」

 震えるような、喜びの声。
 懐かしいノートを捲れば、そこには殿下への想いの詰まった言葉が、所狭しと綴られていた。
 こちらの言葉で。
 むこうの、言葉で。

 それから私は、二人から一連のことを聞かされて。
 このノートが、希望につながることを知り。
 だったら私は。
 アキラさんが戻ってくるまでに、色んなものを作ろうと決意して。
 私が転生者で本当に良かったと、心の底から思った。








 ノートの最後のページには、たった一言だけが日本語で書かれてた。
 涙の滲む字で。


『クリスに、会いたい』


 と。





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