341 / 560
閑話 ②
断罪 ◆レイランド
しおりを挟む地位が欲しかった。
身分が欲しかった。
誰にも屈しず、膝をつかず。
敬われ、畏れられる。
絶対的なものが。
気がついたときには、両手を魔封じの枷で拘束され、牢の中に転がされていた。
欲してやまなかったあの美しい身体に触れた。あの瞳を見ながら犯したかったが故に目覚めを待っていたのに、こんなことなら寝ている間に犯し尽くせばよかった。目覚めて胎内が私の精液で満たされ、且つ、まだ私に犯され続けていると知れば、あの瞳は絶望に染まっただろうに。
全く、馬鹿なことをした。
笑いがこみ上げる。
突然笑いだした私に、牢番の兵士がギクリと反応する気配があったが、私には関係ない。
前の魔法師長は私を排除しようと動いていた。
私の瞳には狂気が混ざっているとか云々。
だから、殺した。
魔物との交戦中に、私が隠し通していた幻惑魔法に囚われ、魔物の前にその身を投げ出して。
あれは愉快だった。
その後、魔法師長の地位を手に入れることは造作もなく。
軍属魔法師の権利を王から引き剥がすことも難なく成し。
魔力の高い平民が軍属魔法師となれば、犯し犯し続け、魔物の前に晒すなり、好き者な貴族に下賜するなりしてきた。
私こそが法であり、全ての頂点に立つ者なのだから、これは当然のことだ。平民は貴族の隣に立つべきではない。常に控え、足を舐めるのが丁度いいのだ。
私が目覚めてすぐ、王太子と忌々しい魔力を持つ殿下が、二人揃って牢に現れた。
これはこれは――――と高笑いをしながら迎えれば、明らかに不快な表情になる。ああ、愉快だ。
だから教えてやった。
私が至高の力を得たことも、この力は世界を統べる力であり、最早私は神同然の存在なのだ。それほどまでに尊き私を、たかが人間、たかが王族が、なんの権利を持って罰するというのか。
お前の婚約者がいかに淫乱で、そのくせ、男を誘う肌は美しく滑らかで。手触りも舌触りも極上だったと。
その淫乱な男に私は惑わされただけだ。
いつも私を見る目は媚びるように誘うように揺れていた。だから、私はその誘いに乗っただけだ。私は惑わされただけ。なんの非もない。なのになぜ拘束されなければならないのか。
全てはあの美しい男が悪い。
あの男を手に入れるためならば、何をしてもいいと思わせる、あの妖艶な瞳が私を狂わせたのだ。
至高の力を、至高の存在を手に入れることに使って何が悪い。
東町で私の手足となった女はよくやってくれた。さぞ綺麗に燃えただろう。集まる魔物で誰が何人死のうと関係ない。私がほしいのは手薄になった城だけだ。その城の中で、私は本懐を果たすのだ。
ああ、犯したかった。
小さな口に私の男根をねじ込みたかった。
押さえつけ、体を折り曲げ、私の男根が尻に入る様を見せつけたかった。
近くで剣を抜く音がした。
高笑いをやめてその方を見れば、忌々しい殿下のこめかみには青筋が浮かび、その手に抜き身の剣が握られている。
殺すか?
殺してみろ!
お前の剣など、私には届かない。
絶対の存在である私を害するなど、誰にもできないことなのだから!
しかし、世の中使えない者が多くて困ったものだ。
娘の失脚以来、ゲラルトは腑抜けになった。あれほど野心に燃えていたというのに、今では屋敷に閉じこもるだけ。
宰相という地位が私にとって有益だった、それだけの関係だ。何人もの見目のいい者をあてがってやったというのに。
恩を恩で返さない愚か者だ。
我が家の者も同様だ。奴隷をもっと回せ?増やせ?……全く話にならない。努力もせずに甘い蜜だけすおうというのか。
貴族の豚どもは管理がしやすい。愚か者の集まりだ。
王太子よ。お前も大変だな。あんな、どうしようもない貴族を身の内に飼う王族の哀れなことよ。
苦虫を噛み潰したような顔で戻っていく二人の姿に、また笑いがこみ上げる。
気分がいい。
笑いづかれてその日は眠った。
夢の中で私は玉座についていた。
数日経ったか。
私は牢から連れ出された。
鎖に繋がれ、兵士に囲まれたまま、廊下を進む。
部屋に入り、私の他にも見知った顔がその場にいることにほくそ笑むと、兵士に背中を押され頭を床に押さえつけられた。
『罪状』が読み上げられる。
そのどれもが私の『功績』だ。私でなければ成せなかったことだ。
だが、何故それが『罪』になる?
私の周囲の者たちは、皆、息を呑み、身体をガタガタ震わせ、怯えているのが空気でわかる。
私は裁かれる者ではない。裁く者だ。
なのに、これはなんだ?
私に関わった者たちは、全員が爵位の剥奪、財産の没収、領地の返上を言い渡された。
関与した他の家人も含め、死ぬまで強制労働させられるらしい。
そして私は、私より力を持たない国王陛下から、処刑を言い渡された。
おかしい。
何故私が、下の者から処刑などと言われなければならない。
私が行ったことこそが、正義だというのに。
それからまた数日。
魔封じの枷が外されることはないまま。
黒い布の袋を、頭に被せられた。
音も聞こえない。
周りも見えない。
裸足の足の裏には、そのうちむき出しの地面を感じるようになった。
階段のようなものをあがる。
板張りの上に膝をつかせられる。
頭を押さえつけられ、首を晒すように身体も拘束された。
――――ああ、私は死ぬのか。
今日、今ここで、私は首を撥ねられ処刑されるのだ。
一番欲したものは手に入らなかった。
あの者こそ至高の存在だった。
私はそれを辱め、穢すことで、己の欲を満たそうとした。
私とは真逆の清い存在。
血と罪でどろどろに濡れた私の手とは、まるで違うもの。
はじめから、交わることなどできなかったのだ。
私は、己の矮小さも気づかないほどに驕り高ぶり、手を出してはならないものに手を出した。
気づけば、私は無数の手によって地に引きずり込まれようとしていた。
藻掻くこともできない。
ピクリとも体を動かせない。
頭のどこかで動かしてはならないと考える。
そして、暗闇の目の前に、老齢の男の姿が浮かび上がった。その男はよく知っている魔法師長のローブを着た男。
「――――」
私の最初の罪。
名を呼ぼうと口を開いた瞬間、首に鋭い痛みが走り、直後、己の思考を維持することができなくなった。
薄れゆく意識の中、最後に見えたのは、赤子の手に愛おしげに触れる母の姿だった。
――――元魔法師長ブルーノ・レイランド。
東町魔物襲撃等の大罪により、本日斬首刑が執行された――――
131
お気に入りに追加
5,496
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる