326 / 560
第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
87 プレゼントの打ち合わせ
しおりを挟む「それにしても珍しいですね」
「何がです??」
「アキラさんが殿下と離れることですよ」
厨房に向かって歩いてるとき、ザイルさんからそんなことを言われた。
今までは別行動それなりにあったと思うんだけど……、……ん?いや、あまり、ない?
でも、そんなふうに言われるくらい、最近はずっと一緒だったわけで。
「……だって、クリスの誕生日のプレゼント……贈り物のこと話したいのに、クリス本人が聞いてたら意味ないでしょ?」
驚かせたいし、喜んでもらいたいし。
「なるほど」
ザイルさんは凄く納得してくれた。
「確かに、それは秘密にしなければ、ですね」
「ですよね!」
メリダさんもザイルさんも、意気込む俺を見て苦笑い。
「……二人とも、『すぐバレるのに』とか、思ってるんだ……」
メリダさんはニコニコ笑うだけ。
ザイルさんは、嘘っぽく「ははは」って笑う。
そりゃ、俺の隠し事なんて、クリスはあっという間にわかっちゃうかもしれないけどさぁ。
「まあ、バレないように私も協力しますから」
「是非お願いします」
「アキラさんは坊っちゃんになにか聞かれたら、ニコニコしててください。私がどうにかしますから」
「はい……頼りにしてます」
その『ニコニコ』だけでもバレそうですけどね……。
「でも、どうして厨房に?」
メリダさんには、先に料理長さんに話をつけてもらってる。相談したいことがあるから、時間を作って欲しい、って。
あまり遅くなると夕食の準備に入る時間になってしまうし、長居はできないし、いきなり行って空振りになるのも時間の無駄になるし。
「んー、クリスになにかあげたいんですけど、俺、城の中はともかく、買い物とかに行けないし、そもそもお金もたされてないし(自分で出したこともない。触ったことがないので当然だが)、だから、何か贈りたくても買うものじゃないほうがいいかな、て」
「厨房……ということは、何か作るんですか?」
「うーん……、作れたらいいなぁと思って?それを料理長さんに相談したくて。俺、ほんとに料理したことないから」
目玉焼きすら作れない自信がある。
おにぎりは、形にならなかった…。
「ほんとは、全部自分で作ってどーんとクリスに振る舞えればいいんだけど、まあ……無理だから高望みはしない方がいいかな」
「坊っちゃん、きっと喜びますよ」
「そう、かな?」
「殿下、喜びすぎて仕事にならなさそうですね」
「う……。やめたほうがいいです?」
「いやいや!驚かせましょう!その後仕事に引っ張っていくのは、オットーがどうにかしますから」
あ、オットーさんが、なんだ。想像できるから面白い。
「私も家では料理などしたこともありませんでしたけど、殿下の兵団に入ってから遠征などで料理することも増えましたから。少しくらいはお手伝いできますよ」
「もちろん私も。お手伝いしますからね」
「ありがと、二人とも!」
ふふふ。
頼もしい助っ人だ!
この間、リアさんと一緒に来た厨房。
そんなに距離はないと思っていたけど、自分で歩くと結構な距離があった。
お城、無駄に広い。
「……やばい、体力なさすぎる……。これ絶対クリスのせい……」
「終わる頃、殿下に迎えに来てもらいましょうか」
って、ザイルさんは、滅茶苦茶真剣に考え込んでた。おんぶにしても抱っこにしても、殿下以外が触れるの嫌でしょ?と。
確かにそうです。ごめんなさい。
でも、ヴェルに乗るときとか、お兄さんとかオットーさんに持ち上げられたりしたから…、大丈夫かなぁ。
うんうん唸ってる間に、厨房にはついた。
大きな扉を、メリダさんが慣れた手付きで開けてくれる。
昼食が終わっての片付けも一段落した時間のはず。
中に入ると、すぐに料理人のみなさんが気づいてくれて、いつもお世話になってる料理長のカールさんが来てくれた。
「アキラ様!」
俺を見るなり、カールさんは片隅にある椅子に誘導してくれて、そこに座るよう促してくれた。
俺が座って長い息をつくと、カールさんは厨房の奥に戻って手にグラスを乗せたトレイを持って戻ってきた。
「お疲れですか?顔色が少し悪いですよ。果実水飲んでください」
「あ、はい」
カールさんはメリダさんとザイルさんにも用意してくれて、メリダさんは俺の隣に腰掛けて、ザイルさんは俺の斜め後ろに立ったまま、グラスを受け取ってた。
グラスの半分くらいまでを一気に飲み干して、人心地ついた。
……俺、体力どこに忘れてきたのだろう。
ビバ!引きこもりゲーム三昧ディ!!……を過ごしたときだって、こんなに酷くなかった。
「…冷たくて美味しいです」
「それはよかった。アキラ様のお夕飯にオムライスを予定してたんですが、他のものにしましょうか?」
「いえ、是非お願いします!オムライスを!!」
食い気味に答えたら、ここにいるみんなばかりか、奥の料理人さんたちにも笑われた。
なぜ俺はどこでも笑われてしまうのか。
「それじゃあ、予定通りに準備しますよ。食べ過ぎはだめですよ?またお腹痛くなっちゃいますからね?」
「……あれ以来、食べすぎてないです……」
リアさん料理試食会ね。
あのときは……、うん。ほんとに、お腹が痛くて大変だった。
お粥を軽くお皿一つ分食べたくらいで、お昼までお腹が空かない程度のキャパしかないのに、いきなり詰め込みすぎた。反省。
「ちゃんと少なめに作りますからね。――――それで、今日はどうされたんです?夕食の確認に来られたわけじゃないのでしょう?」
「あ、はい」
本題忘れるとこだった。
カールさんに、クリスの誕生日に、何か料理を作りたいこと、料理初心者の俺にも作れるものがいいこと、とかとか、色々聞いてもらった。
「俺の国では、誕生日はケーキでお祝いすることが多くて」
ケーキはあるんだよね。
生クリームたっぷりのやつ。
「でも、流石にあのふわふわなスポンジとか、俺が作れる気がしないし…」
「んー……」
カールさんは俺たちの前の椅子に腰掛けて、両手を組んで考え始めた。
「殿下、あまり甘いものは好まれないですよね」
「そうなんですよ…」
ケーキは難しい、ってのと、甘いのはあまり食べないんだよね。クリス。食べても少しだけ。
「うーん……。それじゃあ、パウンドケーキにしませんか。少しお酒を効かせて。木の実も少し入れて、甘みは抑えて。添えるクリームも甘みを抑えたものにすれば、…どう思います?メリダ殿」
「お酒を使いすぎると、アキラさんが坊っちゃんと一緒に召し上がれなくなりますから、そこは程々でよいかと…。クリームも、アキラさんの分は少し甘めにするといいですね」
メリダさんの意見が、『クリスの嗜好に合うかどうか』じゃなくて、『俺が食べるためには』ってとこで、ちょっとわらった。
「笑い事じゃないですよ、アキラさん」
「へ?」
「メリダ殿の言うとおりですよ、アキラさん。確かに殿下は甘すぎるものを好みませんけど、口にあったとしても、それがアキラさんの手作りだったとしても、アキラさんと一緒に楽しめないなら、喜び半減しちゃいますからね?」
斜め後ろから、ザイルさんに真剣な表情で言われてしまった。
カールさんもメリダさんも、うんうん頷いてる。
「そういうもん?」
「「「そういうものです」」」
おう。
はい。
覚えておきます……。
そんな感じで話を詰めて、詰めまくって、お酒は香り付けするくらいのごく少量、熱を通すから酒精は飛ぶだろうということ。
ケーキ自体の甘さは控えめに、果物の砂糖煮を少量と木の実を使うこと。
添える生クリームは、クリス用に甘さ控えめなものを、俺用にはそれなりに甘いものを用意すること。
当日いきなりは怖いから、明日から練習すること。
……そんなことを決めて、今日の目的は達成。
「明日からよろしくおねがいします!!」
「こちらこそお願いします」
深々と頭を下げたら、「頑張ってください」とか「お手伝いしますよ」とか、あったかい言葉も貰って。
ザイルさんは俺の護衛だから傍を離れられないので、メリダさんが執務室にクリスを呼びに行ってくれた。
クリスが来てくれるまで、果物のゼリーを貰ったりして。
なんか、こういうの、いいな。
144
お気に入りに追加
5,555
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。

迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる