【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

87 プレゼントの打ち合わせ

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「それにしても珍しいですね」
「何がです??」
「アキラさんが殿下と離れることですよ」

 厨房に向かって歩いてるとき、ザイルさんからそんなことを言われた。
 今までは別行動それなりにあったと思うんだけど……、……ん?いや、あまり、ない?
 でも、そんなふうに言われるくらい、最近はずっと一緒だったわけで。

「……だって、クリスの誕生日のプレゼント……贈り物のこと話したいのに、クリス本人が聞いてたら意味ないでしょ?」

 驚かせたいし、喜んでもらいたいし。

「なるほど」

 ザイルさんは凄く納得してくれた。

「確かに、それは秘密にしなければ、ですね」
「ですよね!」

 メリダさんもザイルさんも、意気込む俺を見て苦笑い。

「……二人とも、『すぐバレるのに』とか、思ってるんだ……」

 メリダさんはニコニコ笑うだけ。
 ザイルさんは、嘘っぽく「ははは」って笑う。
 そりゃ、俺の隠し事なんて、クリスはあっという間にわかっちゃうかもしれないけどさぁ。

「まあ、バレないように私も協力しますから」
「是非お願いします」
「アキラさんは坊っちゃんになにか聞かれたら、ニコニコしててください。私がどうにかしますから」
「はい……頼りにしてます」

 その『ニコニコ』だけでもバレそうですけどね……。

「でも、どうして厨房に?」

 メリダさんには、先に料理長さんに話をつけてもらってる。相談したいことがあるから、時間を作って欲しい、って。
 あまり遅くなると夕食の準備に入る時間になってしまうし、長居はできないし、いきなり行って空振りになるのも時間の無駄になるし。

「んー、クリスになにかあげたいんですけど、俺、城の中はともかく、買い物とかに行けないし、そもそもお金もたされてないし(自分で出したこともない。触ったことがないので当然だが)、だから、何か贈りたくても買うものじゃないほうがいいかな、て」
「厨房……ということは、何か作るんですか?」
「うーん……、作れたらいいなぁと思って?それを料理長さんに相談したくて。俺、ほんとに料理したことないから」

 目玉焼きすら作れない自信がある。
 おにぎりは、形にならなかった…。

「ほんとは、全部自分で作ってどーんとクリスに振る舞えればいいんだけど、まあ……無理だから高望みはしない方がいいかな」
「坊っちゃん、きっと喜びますよ」
「そう、かな?」
「殿下、喜びすぎて仕事にならなさそうですね」
「う……。やめたほうがいいです?」
「いやいや!驚かせましょう!その後仕事に引っ張っていくのは、オットーがどうにかしますから」

 あ、オットーさんが、なんだ。想像できるから面白い。

「私も家では料理などしたこともありませんでしたけど、殿下の兵団に入ってから遠征などで料理することも増えましたから。少しくらいはお手伝いできますよ」
「もちろん私も。お手伝いしますからね」
「ありがと、二人とも!」

 ふふふ。
 頼もしい助っ人だ!




 この間、リアさんと一緒に来た厨房。
 そんなに距離はないと思っていたけど、自分で歩くと結構な距離があった。
 お城、無駄に広い。

「……やばい、体力なさすぎる……。これ絶対クリスのせい……」
「終わる頃、殿下に迎えに来てもらいましょうか」

 って、ザイルさんは、滅茶苦茶真剣に考え込んでた。おんぶにしても抱っこにしても、殿下以外が触れるの嫌でしょ?と。
 確かにそうです。ごめんなさい。
 でも、ヴェルに乗るときとか、お兄さんとかオットーさんに持ち上げられたりしたから…、大丈夫かなぁ。

 うんうん唸ってる間に、厨房にはついた。
 大きな扉を、メリダさんが慣れた手付きで開けてくれる。
 昼食が終わっての片付けも一段落した時間のはず。
 中に入ると、すぐに料理人のみなさんが気づいてくれて、いつもお世話になってる料理長のカールさんが来てくれた。

「アキラ様!」

 俺を見るなり、カールさんは片隅にある椅子に誘導してくれて、そこに座るよう促してくれた。
 俺が座って長い息をつくと、カールさんは厨房の奥に戻って手にグラスを乗せたトレイを持って戻ってきた。

「お疲れですか?顔色が少し悪いですよ。果実水飲んでください」
「あ、はい」

 カールさんはメリダさんとザイルさんにも用意してくれて、メリダさんは俺の隣に腰掛けて、ザイルさんは俺の斜め後ろに立ったまま、グラスを受け取ってた。
 グラスの半分くらいまでを一気に飲み干して、人心地ついた。
 ……俺、体力どこに忘れてきたのだろう。
 ビバ!引きこもりゲーム三昧ディ!!……を過ごしたときだって、こんなに酷くなかった。

「…冷たくて美味しいです」
「それはよかった。アキラ様のお夕飯にオムライスを予定してたんですが、他のものにしましょうか?」
「いえ、是非お願いします!オムライスを!!」

 食い気味に答えたら、ここにいるみんなばかりか、奥の料理人さんたちにも笑われた。
 なぜ俺はどこでも笑われてしまうのか。

「それじゃあ、予定通りに準備しますよ。食べ過ぎはだめですよ?またお腹痛くなっちゃいますからね?」
「……あれ以来、食べすぎてないです……」

 リアさん料理試食会ね。
 あのときは……、うん。ほんとに、お腹が痛くて大変だった。
 お粥を軽くお皿一つ分食べたくらいで、お昼までお腹が空かない程度のキャパしかないのに、いきなり詰め込みすぎた。反省。

「ちゃんと少なめに作りますからね。――――それで、今日はどうされたんです?夕食の確認に来られたわけじゃないのでしょう?」
「あ、はい」

 本題忘れるとこだった。
 カールさんに、クリスの誕生日に、何か料理を作りたいこと、料理初心者の俺にも作れるものがいいこと、とかとか、色々聞いてもらった。

「俺の国では、誕生日はケーキでお祝いすることが多くて」

 ケーキはあるんだよね。
 生クリームたっぷりのやつ。

「でも、流石にあのふわふわなスポンジとか、俺が作れる気がしないし…」
「んー……」

 カールさんは俺たちの前の椅子に腰掛けて、両手を組んで考え始めた。

「殿下、あまり甘いものは好まれないですよね」
「そうなんですよ…」

 ケーキは難しい、ってのと、甘いのはあまり食べないんだよね。クリス。食べても少しだけ。

「うーん……。それじゃあ、パウンドケーキにしませんか。少しお酒を効かせて。木の実も少し入れて、甘みは抑えて。添えるクリームも甘みを抑えたものにすれば、…どう思います?メリダ殿」
「お酒を使いすぎると、アキラさんが坊っちゃんと一緒に召し上がれなくなりますから、そこは程々でよいかと…。クリームも、アキラさんの分は少し甘めにするといいですね」

 メリダさんの意見が、『クリスの嗜好に合うかどうか』じゃなくて、『俺が食べるためには』ってとこで、ちょっとわらった。

「笑い事じゃないですよ、アキラさん」
「へ?」
「メリダ殿の言うとおりですよ、アキラさん。確かに殿下は甘すぎるものを好みませんけど、口にあったとしても、それがアキラさんの手作りだったとしても、アキラさんと一緒に楽しめないなら、喜び半減しちゃいますからね?」

 斜め後ろから、ザイルさんに真剣な表情で言われてしまった。
 カールさんもメリダさんも、うんうん頷いてる。

「そういうもん?」
「「「そういうものです」」」

 おう。
 はい。
 覚えておきます……。

 そんな感じで話を詰めて、詰めまくって、お酒は香り付けするくらいのごく少量、熱を通すから酒精は飛ぶだろうということ。
 ケーキ自体の甘さは控えめに、果物の砂糖煮を少量と木の実を使うこと。
 添える生クリームは、クリス用に甘さ控えめなものを、俺用にはそれなりに甘いものを用意すること。
 当日いきなりは怖いから、明日から練習すること。
 ……そんなことを決めて、今日の目的は達成。

「明日からよろしくおねがいします!!」
「こちらこそお願いします」

 深々と頭を下げたら、「頑張ってください」とか「お手伝いしますよ」とか、あったかい言葉も貰って。
 ザイルさんは俺の護衛だから傍を離れられないので、メリダさんが執務室にクリスを呼びに行ってくれた。
 クリスが来てくれるまで、果物のゼリーを貰ったりして。

 なんか、こういうの、いいな。




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