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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

83 「いいこ?」

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 翌日、午前中の早目の時間で西町に向かった。
 勿論、リアさんとミナちゃんも一緒で、護衛についてきてるザイルさんがミナちゃんを抱っこしてる。
 俺は、まぁ、いつも通り。

 通りにはそれなりに人が出始める時間。
 露店も開店準備中ってとこかな。
 こことは別に朝市みたいなものもあるらしい。今度見てみたい。
 リアさんも、王都は初めての様で、あたりの様子をよく観察してた。いいところは取り込もう、って感じかな。

 暁亭について扉を開けると、結構な冒険者さんたちがいた。一斉に視線がこっちに来て、ちょっとびびる。

「お、来たか」

 カウンターの奥から、声がかかる。
 ギルマスはエプロンをつけた女の子に声をかけると、俺たちに向かって手招きした。

「おはようございます」
「おう、おはよーさん」

 ギルマスは俺たちを順繰りと見てから、ザイルさんに抱かれてちょっとおどおどしてるミナちゃんをしっかりと見つめる。

「――――なるほど」

 一人納得したギルマス。

「奥に入れ」
「ああ。――――オットー、ザイル、ここで待っていてくれ」
「「はい」」
「あ、オットー、ちょいと俺の代わりに依頼の取りまとめしててくれや。覚えてるだろ?」
「覚えてますけど……。人使い荒くないですか……」
「気にすんな」

 ザイルさんに降ろされたミナちゃんは、すぐにリアさんのスカート(ワンピースタイプの服)を掴んで顔をうつむかせた。大きな人が多いから怖いよね。

 ギルマスに促されて奥の部屋に入る。中央のソファにそれぞれが座ってから、クリスはポーチから魔導具を二つ取り出し、返しついでに遮音を発動させた。

「助かった。やはり手配してほしい」
「だろうな。伝手でどうにか手に入れてやるよ」
「ああ。頼んだ」

 やっぱりそうなるよね。便利だし。
 クリスとギルマスがある程度打ち合わせして、エアハルトさんへの報酬が入った袋をギルマスに渡した。…本人に渡すんじゃないのか。会わなくていいのか。よかった……。

「さてと。本題だな」

 ギルマスがそう切り出すと、リアさんはソファから立ち上がり礼をした。

「セシリア・エーデルです。店主様」
「レヴィだ。まあ、座っとけ。礼儀を気にする奴はここにはいない」

 確かにそうだ。
 クリスはここに来たらそういうの全く気にしないし。

「ありがとうございます」

 リアさんは座り直してから、ぴたりとくっついて離れないミナちゃんを、膝の上に抱き上げる。

「妹のヴィレミナです」
「ふむ…」

 ギルマスは改めてミナちゃんを見ると頷き、クリスに視線を向けた。

「国には?」
「報告していない」
「英断だな。時期尚早。坊主が魔法師長になってからだな」

 またそれ。

「おれよりギルマスのほうがいいって……」
「俺ぁただの冒険者達の統括だ」

 って盛大に笑われた。

「それで。魔法のことだけじゃないだろ、わざわざあいつらを遠ざけて、まで起動させて」
「ああ。一応教えておこうと思って。セシリアは転生者らしい」
「ほう」
「アキと同郷のようだ」
「そりゃまた。爺様といい、坊主たちがいた世界とこっちで、変な道でも繋がってるのかね?」

 驚きも何もなく、あっさりと受け入れたギルマス。
 懐が広いというか、なんというか。
 むしろ、驚いているのはリアさんの方。

「驚かれないんですか?」
「何故?」
「普通の事じゃないので。それに、お祖父様、というのは…」
「俺の爺様が転移者だった。これで納得するか?……むしろ、坊主から聞いてなかったのか」

 結構重要そうな情報だから、俺から言うのは何か違う気がしたんだけど。
 言ってよかったのか。

「まぁ、納得がいった。エーデル伯爵領の中心街はこの世界のどことも違った作りだったからな」
「改善できる点を取り入れたつもりです。……駄目、だったでしょうか?」

 いいところは取り入れる――――ってのは、他の世界の知識を持つ転移者とか転生者の特権みたいなもんだよね。俺だってトランプとか作ってもらったし。
 それがいいとか悪いとか、考えたことなかった。

「駄目なもんは女神が排除するだろ。天罰が降りてないんだから、問題ないってことだ」
「え、天罰とかあるの?」

 ギルマスがカラカラ笑っていったけど、天罰って!俺、初めて知った――――

「ないよ」
「は?」

 クリスは苦笑しながら、俺の頭を撫でてく。

「レヴィの冗談だよ、アキ」
「……ありそうで冗談だと思わなかったよ……」

 みんなに笑われた。
 不思議そうな顔をしたミナちゃんが、とことこ俺の近くに来てよじ登ってきて――――

「いいこ?」

 頭、撫でられた……。
 ますますみんな笑うし。
 リアさんまでこらえきれずに笑ってるし…っ。

「もー……」

 ニコニコしてるミナちゃんを、抱き上げて膝の上に座らせた。小さな身体をぎゅってだきしめると、きゃっきゃって喜ぶ声がする。

「まぁ、なんだ。ほら。ヴィレミナに関しちゃ俺が面倒見てやるから、なんかあったらいつでも相談にこい。それなりに距離はあるがな。魔水晶は常に持たせておけよ」
「はい。ありがとうございます!」

 これで、ここに来た目的完了。
 俺が笑われた意味なし。
 ミナちゃんを抱きしめたまま不貞腐れてたら、クリスが俺の頬を撫でてきて、はたっとなにか思い出したような顔をした。

「あ、そういえば。レヴィ、魔水晶だが」
「ん?」
「持ち主の魔力を吸い取ってるようだと、アキが」
「う、ん??」

 ギルマスに、ミナちゃんと魔水晶のことを話した。
 途中、クリスも言葉を挟んでくれる。

「――――ああ、なるほどな…。逆なわけか」

 魔水晶を持ってるから魔力が高いのではなくて、魔力が高いから魔水晶を持たなければならない、ってのが、俺の考えなんだけど、ギルマスも同じことを思ったかな。

「でも、俺が感じただけだから」
「あのな、アキラ」
「はい」
「俺も、クリストフも、西の一件以来、お前の『感知』に関しては絶対の信頼をおいているんだよ」
「はあ……」
「だから、お前が見たと言うなら、魔力の流れは確かにあったはずだ」

 そう見えた、感じたけど。
 感知と言われても、わからないときのほうが多いわけで。

「……やっぱり、一度リーデンベルグの魔法研究所に行くといい。――――来年、クリストフと婚姻式を挙げたら、な」

 ギルマスは、ふ…っと目を細めてそう言うと、最後には笑ってた。









*****
更新遅くなってすみません(-_-;
今月中に5章完結目指します…!

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