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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

82 お城でも

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 立食パーティーで提供される料理は、軽くつまめるものが多い。そして、がつがつ食べる人はそんなにいない。はしたないとか、礼儀がとか、食べる場ではなくて社交――――出会いの場だから。
 多分、それは、間違いじゃないはず。
 だから、伯爵家のお屋敷でビュッフェスタイルの夕食を見たときに、驚いたわけで。

「これは…?」
「まぁ…」

 夕食の準備が整ったと、案内された部屋に入った途端、俺とクリスは苦笑して、少し遅れて入ってきたお兄さんとティーナさんはやっぱり驚いていて、ひょっこり現れた陛下は目を丸くしていた。
 部屋の中央テーブルには、これでもかと料理が並べられている。
 大皿から取り分けるものは、一つ一つに給仕さんがついていて、取り分けてくれるらしい。
 他に、簡単に取れるように小鉢に少量ずつ盛られたものとか。
 暖かな料理の器の下には、熱い湯が張られていて、冷めないように配慮されて、冷たい料理やデザートの下には、氷らしきものが置かれて冷たさをキープしてた。

 料理の台の近くには、大きめのテーブルが置かれていて、全員が座れるようになってる。
 陛下が来たとき、緊張でリアさんが倒れかかったのには驚いた…。
 リアさんでもやっぱり陛下に会ったりするのは、緊張物なんだね。

「日本酒、作れるわ」

 陛下登場であたふたしていたリアさんは、落ち着いてから俺にこそっと話しかけてきた。
 てか、日本酒、って。
 まさか…と思ってよくよく料理を見たら、お米がっ。お米の料理が!!

「米ー!!!」

 …って叫んだ俺を、許してください。

 全ての料理を運び終えたのか、いつもは厨房から出てこない料理長さんも来ていた。

「気になる料理からお召し上がりください。取りにくいものはこちらで給仕いたします」

 リアさんの言葉に、お兄さんもティーナさんも、もちろん陛下も戸惑っていて。
 ま、当たり前か。

 俺はもちろん、クリスももう体験してることなので、一度座った席から立ち上がり、率先して大皿を手に料理が置かれている台に向かった。

「持とうか?」
「大丈夫!」

 米だ、まず米!
 一口大の俵おにぎりまである。
 それから、器にお粥をいれてもらって、漬物もどきも発見。ドリアも少し盛った。
 とにかく楽しくて、次は何を~って見て回ってたら、ティーナさんたちも意を決したように立ち上がった。
 流石に自分でお皿は持たず、侍女さんが手伝っていたけど。

 思い思いの料理を取って席に戻る。
 流石に箸はなかった。作って欲しいなぁ。
 コース料理とは違うから、テーブルにずらりとカトラリーが並んでるわけじゃない。
 一組のナイフとフォーク、スプーンがあれば事足りる。

「いただきます」

 おれはいつもどおり手を合わせて――――黒ごまのついた俵おにぎりを指で摘んで口に入れた。
 米!間違いなくこれは米!

「ん~~~!!!リアさん、おにぎり滅茶苦茶美味しい!!」
「料理長様も炊き方マスターされたから、これからいつでも食べられるわよ」
「嬉しい!!」

 テンション上がりすぎてて、あまり周りのこと気にしてなかった。

「クリス、はい、あーん!」

 バク上がりのテンションのまま、俵おにぎりを、クリスの口元に運ぶ。
 クリスはくすって笑うと、躊躇いなくそれを食べて、俺の指についた米粒も舐め取った。

「ちょ」
「……ああ、これは美味いな」
「俺の指まで舐めないでよ…っ」
「残すのは勿体ない、だろ?」

 くすっと笑ったクリスは、ドリアを小さな一口分、俺の口元に運んでくれた。
 うん、うまい。

 陛下もお兄さんたちも、若干ポカンとした感じで俺たちの方を見てたんだけど、俺は気づかないまま、クリスに餌付けされてた。
 無意識に足の上に座ってなくてよかったよ……ほんと。
 視線を感じてみんなの方を見たら、ばっちり目が合って、恥ずかしくなってしまった。

「すみません……。騒がしくて」
「いや、気にしないでくれ、アキラ殿」

 陛下はそう言って笑うと、俵おにぎりを俺と同じように指で摘んで食べ始めた。

「ん」

 反応が気になる。
 表情的には問題なさそうだけど。

「うまいな」

 って言葉が貰えて、思わずリアさんとハイタッチしてしまったよ。

 その後は雰囲気とかにもなれてきたのか、食が進んだ。
 お兄さんとティーナさんからも好評。
 陛下やお兄さんたちにはワインのようなお酒が用意されて、俺とクリスにはお茶だった。

 食事も大体終わってみんなの手が止まった頃、クリスは今回の遠征の報告をサラリと始める。こんな食事の場でいいのかな。
 俺はティーナさんとデザートコーナーを眺めて歩いた。ゼリーやムースが美味しそう。
 お互いが手に持つお皿に、デザートの山ができていて、笑ってしまった。ついでに、戻ったときにクリスにも笑われたし、なんなら、陛下にも笑われたよ。
 料理はかなり残っていたけど、後で料理人さんたちや、リアさんとミナちゃんも食べるからいいんだって。むしろ、そのために多めに作ったのだとか。
 あ、メリダさんにも食べてもらいたい。

「セシリア嬢、どれも素晴らしい料理だった」
「陛下のお言葉、とても嬉しく思います」
「アキラ殿とも仲の良い様子。滞在中は厨房を自由に使って構わない。あー、カール、よいだろうか」
「もちろんでございます、陛下。我々もセシリア嬢からは、まだ教えていただきたいことがたくさんありますので」
「今までにも増して食事が楽しみになりそうだ」

 豪快に笑う陛下。
 料理人さんたちとリアさんが、険悪になったらどうしようかと心配してたけど、そんなこともなさそうでホッとした。
 陛下はその後、まだ仕事があるらしく退室した。
 俺は紅茶片手に一口大のチーズケーキを食べて――――うっと息を詰まらせた。

「アキ」
「……うう」
「どうした?」
「た、食べすぎてお腹痛い……っ」
「はしゃぎすぎるから」

 呆れたクリスの笑い声。

「じゃあそろそろお開きにしよう。料理人たちも食べたいだろうし」

 お兄さんはティーナさんの手を取って立ち上がり、リアさんに「美味しかった」と微笑んで伝えて退室していった。
 俺はクリスの腕の中で、ティーナさんに向けて手をなんとか振った。
 お腹重い…痛い…。

「食べ過ぎは癒やしじゃ治らないからな?」

 耳元でのこそっとした声。
 そんなことわかってるし。

「セシリア嬢、今日は急なことですまなかった」
「問題ありません」
「料理長、今後もアキの食事に関してよろしく頼む」
「はい。お任せください、殿下」

 少し言葉をかわして、部屋を出る。
 メリダさんとミナちゃんと、入れ替わり。

 部屋についたら、すぐにベッドに降ろされた。
 お腹の痛みは少し良くなった。

「リアさん、認められてよかった」
「そうだな」

 微笑むクリスの顔が近づいてきて。
 唇が触れ合う瞬間、俺は目を閉じた。




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