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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
80 飯テロもどき ◆伯爵令嬢と料理長
しおりを挟む◆side:セシリア
お城に到着した途端、王太子殿下から難問を突きつけられた。
確かにクリストフ殿下からは、「皆、食べたがる」とは聞いていたけど、こんなに急展開になるものかしら?
いや、それよりも、アキラさんが王族の皆さんから好かれ過ぎではない?
最初に感じだあのアウェイ感は、あれよね。
『大事な義弟がいるのに何のこのこついてきたんだ』
っていう、アキラさんの身内からの盛大なバッシング。
領を出るときに殿下の兵団の方々がお父様に対して冷たかったのは、同じ理由よね。
殿下が話すとは思えないから、情報収集能力に秀でた方がいるのだわ。
それよりも、誤解はすぐに解かなければ。私だけではなくミナもいるのだから。
けれど、私からなにか言う前に殿下が説明をつけてくれた。
漸く和んだ空気にほっとしていたのもつかの間、今度は夕食に私の料理が食べたいと王太子に言われてしまう。
悪気がないのはわかっているけれど、公爵家のご令嬢で王太子妃までが賛同するとは思っていなかったわ。
まぁ、でも、怯えて縮こまる私ではないのよ。
前世からの年齢を足せば、アラフォーな私なのだから。人生経験は豊富。
恐れ多くも殿下の私室で待たせてもらい、客間の準備ができてすぐに服を着替えた。
こんなひらひらのドレスでは何もできない。
身の回りを手伝ってくれたのは、殿下付きというメリダ様。大勢いる侍女の中で侍女頭かと思えば、殿下に付いているのはメリダ様だけときいて驚いた。
ミナはメリダ様が預かってくれたので、簡素なドレスに着替えた私は、殿下に案内される形で厨房に向かった。
殿下から料理長様を紹介されたけれど、とても気さくな方でよかった。アキラさんは凄く丁寧に何度も頭を下げていて、それに合わせて料理長様も頭を下げるものだから、最後はみんなで笑ってしまったわ。
顔合わせが済んだので、アキラさんと殿下はお部屋に戻って行かれた。
案内してもらった食料庫。
もう、流石、お城の、王族のための食料庫だと感心してしまった。
生魚とかはないにしても、肉の種類も多いし、野菜も果物も色々揃ってる。
そして、探していたものを見つけてしまった……!!
「お米……!!!!」
きれいに精米された、見慣れたお米。
麻の大きな袋に入っていたけれど、手にすくってみたらさらさらこぼれ落ちた。
「料理長様、これはお米ですよね…!?一体どこからご購入を!?」
「ん?ああ。それなら、ゲールデンの商人が、麦の替わりになるからと勧めてきたので、試しに買ってみたのですよ。粉にして麦粉と同じようにしてみたんですが、中々うまくいかなくて」
ゲールデン!!
商人の国なら、確かに色々な物が手に入るかもしれない…。国内で探していた私にとっては盲点だったわ…!
「料理長様、これを沢山使ってもいいでしょうか!?」
「え、そりゃ、もちろん。アキラ様も食べられるものができるなら、こちらとしても教えていただきたいです」
それからは怒涛の時間だった。
色々な料理を少しずつ召し上がって頂きたくて、欲を出してしまった。
味噌や醤油は流石に見つけられなかったけれど、他の調味料は充実してた。
ああ、王城で飯テロもどきなことをするのがわかっていたら、もっと料理を覚えておけばよかったわ……!!
数刻後。
夕餉にお出しする料理が整ったとき、他の料理人の方々に拍手されながら、私は料理長様と硬い握手を交わしていた。
◆side:料理長(カール・ドムス)
第二王子であるクリストフ殿下の元に、黒髪の少年のように年若い婚約者がやってきた。
それと同時に、殿下が成人されて城を辞していたメリダ殿もまた戻ってきた。
料理長に就く前からメリダ殿とは既知であり、気心の知れた同士でもあった。まあ、親子ほどに年齢は違うのだが。
その彼女から、「食べやすいもの」「消化に良いもの」「柔らかいもの」という注文が頻繁に来るようになったのは、夏に入ってからだったと思う。
理由を聞けば、こっそりと、殿下の婚約者殿が大怪我を負ったことを話してくれた。
その影響でまだまともな食事はできないというのだ。
それからは試行錯誤の連続だった。
残されたものから、調理法や量などを考え直しながら、次の食事を用意していく。
……最初の一日一食の具のないコンソメスープから始まり、王太子殿下の婚姻式のあたりでは、それなりに量も増えていた。
食べられるものが増えるたび、食べる量が増えるたび、まだ会ったことはなかったが、婚約者殿の――――アキラ様の回復が見えるようで嬉しかった。
夏の三の月。
長期の遠征に出られるアキラ様の為に、食べやすい柔らかく小さめのパンや、野菜で作ったゼリーを殿下の兵団団長殿に託した。
途中、一度帰城された際には、広間で宴を開くと言われ、アキラ様が食べやすい料理も混ぜながら、提供させていただいた。
そして、長期の遠征から戻られたのは、秋の月に入ってから。
……まさか、伯爵家のご令嬢から料理指南を受けることになるとは思っていなかったが、このご令嬢、侮れない。
一体どこからそんな調理法を見つけてくるのか、今までやったことがないことを、次から次へと繰り出していく。
しかも、アキラ様の故郷の料理だと言うじゃないか。
それはもちろん覚えなくてはならない。
粉にするしか用途のなかった『米』というものも、ご令嬢に『炊き方』などを教えてもらった。
体調の悪いときにパン粥はもちろん美味しいが、米で作るお粥も美味しいのだと教えられ、実際に作って見せてくれた。
濃厚な時間だった。
大量に作られた料理は、立食形式のように自由に取れる様にするらしい。
あとは運ぶだけになったとき、他の料理人たちが拍手で労をねぎらい、私はご令嬢と握手を交わした。
珍しい食材が手に入ったら連絡することも、新しい調理法を思い出したときは、それを指南してもらうことも、互いの約束とした。
夕餉が終わったら、アキラ様がどれくらい食べることができたか、メリダ殿に聞いておこう。
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