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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

79 帰城、即、リアさんの試練

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 伯爵家のご令嬢二人が同行しているということで、行きよりも緊張感のある帰り道だった。
 夜間の警戒態勢も強化されたらしいし。
 リアさんとミナちゃんは、野営するときには馬車の中で休むんだけど、できるだけちゃんとした宿屋に泊まれるように調整もされてたみたい。
 馬車の中で寝泊まり…も、クッションも多めに積んでるし、椅子も広いしで、それなりに快適なんだけど。

 そうそう。馬車の揺れが少ない理由がわかった。
 御者してるエアハルトさんが、明らかな凸凹をみつけたら、すぐさま魔法で平地にしてるらしい。馬を操りながら、器用な人だ。そして魔法がうまい。株上げたよ、エアハルトさん。
 「アキラ様が乗っていなければ、ここまではしないのですが」って言葉は聞き流しておいてあげよう。

 行きよりも時間をかけた帰りの行程。
 途中、魔物を倒したりなんだりしながら、王都に戻ってきたのは、秋月に入った十日後のことだった。

 秋の一の月。
 ……おう。
 クリスの誕生日まで二週間くらいだ…!!





 昼をかなり過ぎた頃、馬車は城についた。
 お城では、お兄さんとティーナさん、メリダさんが迎えてくれた。
 俺が元気に馬車から降りると、メリダさんとティーナさんが喜んでくれた。
 …俺、信用ないな…。仕方ないけど。
 クリスの手に半分抱かれるような感じで馬車から降りた俺の後に、リアさんとミナちゃんが降りたんだけど、周りの驚きようがすごい。
 そんな空気を物ともせずに、リアさんがその場で綺麗に礼を取る。

「セシリア・エーデルでございます。王太子殿下。こちらは、妹のヴィレミナです。まだ挨拶もできない幼子を連れての登城、お許しください」

 ミナちゃんはリアさんのドレスの裾を掴んで離さない。
 警戒態勢って感じだ。

「ギルベルトだ。頭を上げて。……クリストフ、どうしてエーデル伯爵のご令嬢が同行してるんだい?」

 怪訝な顔をしたお兄さんが、クリスに問いかける。早馬とか出さなかったしね。

「俺が彼女に共に来てほしいと願ったんだ」
「クリストフが?」
「ええ、兄上。……彼女が、アキの故郷の料理に詳しいので。それを料理長に手ほどきしてもらいたくて」
「あー……なるほど」

 そこでようやく微妙な空気が軽くなった。
 メリダさんもティーナさんも、なんだかほっとしたような顔をしてるし。

「すまないね。クリストフの意図が見えなくて。アキラの故郷の料理、私達にも振る舞ってくれないだろうか」

 お兄さんが苦笑しながらリアさんに言う。

「私の料理は王族のお方々に召し上がっていただけるようなものではないのですが…」
「でもクリストフが認めたのだろう?それに、アキラは私達にとっても大事な義弟になる子だからね。いつもどおりのものでいいよ」
「私も食べてみたいです!」

 王太子夫妻にゴリ押しされたら、さすがのリアさんだって頷かないわけにいかない。

「――――はい。精一杯作らせていただきます」
「それじゃ、夕食のときに」

 お兄さん、にこやかに戻っていったけど。
 夕食、って。

「……夕食、だって」
「急がなきゃ……」

 リアさんの笑顔が引きつってる。
 そりゃそうか。
 王太子からの言葉だもんなぁ。

「落ち着け。メリダ、セシリア嬢とヴィレミナ嬢に部屋の用意を」
「かしこまりました」
「オットー、彼女たちに二名護衛をつけろ」
「わかりました。――――ネイトリン、ユージーン、護衛に。他の者は片付けに回ってください」
「はい」
「エアハルト、報酬は明日。宿に行くとレヴィに伝言してくれ」
「お受けいたします。明日、アキラ様は――――」
「セシリア嬢、部屋の準備ができるまで俺たちのところで待つといい」

 ……指示を出しつつ、エアハルトさんを華麗に無視しつつ。

「アキ、歩けるか?」
「ん、大丈夫だよ」

 俺にそんな断りを入れてから、クリスはミナちゃんを抱き上げた。
 縮こまってたミナちゃんは、視線が高くなって周りをキョロキョロし始める。

「お夕飯……何がいいかしら……?お城の食料庫ですもの……、なんでもある……わよね」

 リアさんはほとんど心ここにあらずだ。
 ちゃんとついてこれるかも心配になって、俺よりは小さい手を繋いだ。

 後ろからはいつもの護衛コンビがついてくる。
 野次馬みたいな視線も感じるけれど、もういいや。気にしてても仕方ない。

「ハンバーグ……コロッケ?ご飯があればドリアでも……、あ、ラザニア?どうせなら和食が食べたい…………」

 料理の方に完全に意識が行ってるリアさんが、可愛く見える。

 一旦俺たちの部屋で落ち着いて、居間の方でくつろいで、メリダさんを待った。
 メリダさんは部屋の手配が終わったのか、お茶を片手に部屋に戻ってくる。
 リアさんたちの荷物は、用意された客間の方に運び込まれて、滞在中お世話をする侍女さんたちが片付けているそうだ。

 リアさんにとっては試練だよね……と思いつつ、俺はまた懐かしい料理が食べれそうで楽しみだった。

 ……まさか、夕食の席に、陛下まで来るとは思ってもいなかったけどね。
 道理で、遠征の報告にすぐにいかなかったわけだよ……。
 リアさん、頑張れ。



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