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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

77 いきなり爆弾投下

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 街を散策して、お屋敷に戻ってお昼を頂いて、クリスに露天風呂に連れて行かれて、――――熱を出した。
 どうやら、はしゃぎすぎたようだ。小さな子供みたいだな!っていうツッコミはいらない。俺が一番わかってる。

「無理しすぎ」

 いつも俺が熱を出したら、心配してやばいくらい過保護になるクリスだけど、今日は穏やか。むしろ、笑ってる。

「う゛ー……」
「それとも無理させすぎたか?」

 含みのある言い方をして、俺の頭を撫でて額にキスするものだから、恥ずかしさに顔が熱くなった。

「また上がったか?タオル替えようか」
「まだいいし…」
「汗かいただろ?着替えしよう?」
「さっきクリス服に着替えたばっかりだから」

 なんでそんなに構い倒すのか。
 なんというか、心配はされてるんだとちゃんとわかるんだけど、いつもの悲壮感?みたいな悲しい感じはない。
 慣れたのか?
 俺がいつも熱出すから。
 それはそれで……申し訳ない。

「えと……」
「余計なこと考えてる?」
「……別に」

 余計なこと、とは思ってない。
 申し訳ないと思うのは本当だし。
 だからといって解決策は思い浮かばないんだけど。

「そうだな……」

 くすぐるように頬を撫でられた。

「それほど高熱でもないし、アキ自身がそれなりに元気そうだからな。いつもよりは気が楽だ」
「……そう?」
「そう。いつもより抱いてもそれほど負担もなさそうだし」

 くく……って笑う感じに言われたけども、また顔が熱い。

「クリス…意地悪…っ」
「アキとこんなにゆっくりできて、俺もかなり浮かれてるらしい」
「クリスが?」
「ああ。ここにきてからほぼ仕事をしないでアキの傍にいるだけだからな」
「……やっぱり旅行だ……」
「兄上には悪いが、たまにはいいだろう」
「うん」

 なんとなく、モゾモゾ動いて、クリスの手を握った。
 両手で、にぎにぎしてみる。

「どうした?」
「ん……」

 クリスがすごく優しい顔してるから。
 二人でこんなに穏やかに過ごせるのが嬉しいから。

 甘えたいな、とか。
 キス、してほしいな、とか。

「……アキ」

 少しかすれた声で。
 手は、握ったまま。

 ゆっくりと、唇が触れて。
 心のなかで願ったものが、あっという間に与えられて。
 ポカポカして。
 ふわふわして。
 心地よくて。

 何度もキスを繰り返してるうちに、だんだん眠くなってきて。

「夕食まで休め」

 最後にその言葉を聞いて、ふつりと眠りの中に落ちた。




 起こされたのは夕飯の直前だった。
 熱は下がってて、クリスに身支度を手伝ってもらった。
 二日目の夕食は、俺とクリス、伯爵家の三人だった。
 隊員さんたちは、街で好きにしてるみたい。お酒も飲んでいいって伝えたんだとか。
 夜間の見回りとか、警戒とか、そもそも私兵さんたちがやってることなので、「今日くらいは何もしなくていい」ってクリスが判断したらしい。
 明日から王都に着く数日間は、また気が抜けない旅になるからね。

「街はいかがでしたか、殿下」

 食事中、伯爵さんがそわそわしながらクリスに話しかけた。
 ……こう言っちゃなんだけど、影が薄いというか、あまり存在感のない人だから、会話をした記憶が殆ど無い。

「よく整えられていた。いい街だな」
「ありがとうございます!お恥ずかしながら、セシリアの手腕によるところが大きく」

 でしょうね。

「成人までの四年間で娘ほどではなくとも、私もしっかりと運営について腕を磨く所存でありますので」

 ……成人で、なにかあるの?

「成人後、殿下の第二婦人となった暁には――――」
「お父様!」

 伯爵さんから、まさかの爆弾が投下された。
 クリスの表情は険しくなっていたけど、何か口を開こうとしたときにリアさんの声が響いたから、そのまま言葉を飲み込んでいた。

「セシリア?」
「何を突然おっしゃるんですか。殿下の第二夫人など……。私は何も望んでおりません」
「しかし、明日、王都に」
「行きますよ?行きますけど、私は殿下に請われて料理人に料理を伝授しに行くだけです!昼間、そうご説明したはずですが」
「いや、だが」

 微妙な平行線。
 俺としては嫌な気はしてない。ちょっとドキッとはしたけど。
 でも、リアさんだからなぁ。そんなことにはならないって確信してるし。

「エーデル伯爵」

 クリスのとっても低い声に、伯爵さんとリアさんが固まった。

「私はアキ以外の伴侶は望んでいない。勝手な憶測でくれぐれも愚かな行動をおこさないよう願いたい」
「ですが、殿下……、ご婚約者様とはお子様が」
「子は望んでいない。王族の血は兄上――――王太子の血が残ればいい。伯爵、私を失望させるな。今後もこの領とは関係を持って行きたかったが、それも考え直さなければならなくなる」

 伯爵さんの顔色がどんどん悪くなっていく。
 リアさんは「やれやれ」って感じで首を振っていた。

「私に輿入れさせることよりも、この領の繁栄の為に、セシリア嬢が望む伴侶を見つけることが最優先ではないか」

 機嫌急下降のクリスは、食事の手を止めて俺の肩を抱いてきた。

「アキ、行こう」
「ん…」

 食事中に中座。クリス、本気で怒ってるよ……。
 大人の会話なんてまだなんもわからないミナちゃんは、一人きょとんとしてる。

「おやすみ、ミナちゃん。明日から頑張ろうね」
「おやすみなさい」

 にこっと笑ってくれるミナちゃんが救い。
 その後、俺はクリスに抱き上げられて、部屋を出た。

「クリス」
「ん?」
「……リアさんは、あんなこと思ってないよ?」
「わかってる。腹を立ててるのは伯爵に対してだ。セシリア嬢のことは疑ってもいない」
「よかった」

 よくはないんだろけど、よかった。
 俺たちの部屋に戻るなり、クリスは俺を力いっぱい抱きしめてくる。

「子供、子供と……。……アキ、やはりレヴィに」
「例の、『男でも子供が産める』研究!?いらないでしょ!?依頼しないでね!?」

 苛々しすぎてて、クリスの思考が変な方に行ってる。
 機嫌直すのも一苦労だよ……って困っていたら、控えめなノックの音。
 どうぞ、って促したら、ワゴンを押したリアさんだった。

「先程は父が大変失礼を……。申し訳ございませんでした、殿下」
「お前が謝ることではないだろう」
「いえ。身内の行いですから。――――軽食をお持ちしました。今お茶も淹れますので、お召し上がりください」

 リアさんがにこりと微笑んで。
 ようやく、クリスから力が抜けた。




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