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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
74 クリスからの提案
しおりを挟むミナちゃんが夜中に怯えていた原因がわかった翌日。
朝一でクリスと露天風呂に入って、朝食前にマッサージしてもらった。
なーんか抱き潰された気がしてたのに、ある程度寝たら回復してるから恐ろしいクリスの癒やしの力。
ありがたいのかなんなのか。前だったら確実に朝起きてないよ。あれだけされたら…。
身体はそれなりでも、頭の中がポヤポヤしててやばい。
やたらクリスばかり見てるし。なんか、凄く格好良く見えるし。や、そもそもイケメンなわけなんだけど。でも、目が合ったら顔が熱くなる。目を細めて微笑まれたら、心臓止まりそうになる。
……クリスのこと好きすぎてやばい。
自分で言うのは何だけど、激しく抱かれた後遺症みたいなものだろうか。
見ていたいのに見られたら恥ずかしい。
触れていたいのに、少しでも体温を感じたら逃げたくなる。
……厄介だ。ほんと。困った。
最終的に逃げ出さないで、クリスにしがみついたりしてるわけだけど。
いっそ裸同士のほうが恥ずかしくないのは何故だ。
魔物騒ぎが片付いてしまったので、本来の目的は終了したってわけ。
だから、帰り支度始まっちゃうのか……ってちょっと残念に思ってたら、クリスがなにか思うところがあって、滞在が少し伸びた。
もとより、数日間の滞在を予定していたらしいリアさんやエーデル伯爵さんも大歓迎な様子でホッとした。
「殿下は何を気にされてるんですか?」
朝食後、紅茶を手に俺たちが借りてる部屋を訪れたリアさん。
侍女さんにしてもらうでもなく、自分で紅茶を注いで俺たちの前においてくれた。
「まあ……、それほど深く考えることでもないんだが」
歯切れが悪い。
珍しい。
俺はいつもの定位置のようにクリスの膝の上に座らされてる状態。
リアさんがいてもかわらないこのポジション。
……くっついていたいんだから、仕方ないじゃないか。後遺症なんだよ、うん。
「セシリア嬢」
「はい?」
クリスは若干ため息混じりで、リアさんを真っ直ぐに見た。
「俺たちと共に一度城に来ないか」
「「え」」
驚いたのは、リアさんだけじゃなくて、俺も。
「殿下、それは――――」
「アキの国の料理を、料理人に教えてもらいたいんだ」
「あー………なるほど」
……もっと重要なことだと思ったのに、そんなこと。
「や……いいよ、クリス。料理長さんにそれでなくても迷惑かけてるんだから…」
「でも、いつもより食べられただろ?」
「まあ……それは、そうなんだけど」
懐かしいってのもあるけど、食べやすかったから。
一枚肉よりハンバーグのほうが喉を通りやすい。
「それは構いませんが…、私がお伝えできる料理は、王族の方々には向かないと思うのですけど」
「アキが食べれればそれでいい。まあ、兄上も陛下も、普通に食すと思うが」
「……責任重大ですね」
言葉とは裏腹に楽しそうに笑うリアさん。
これはやる気満々って表情だよね。
「……ほんとにいいのに」
「俺が、アキにできる限りのことをしたいんだよ」
笑って俺の頰にキスしてくる。
想われるのは…嫌じゃないけど。
「ヴィレミナも問題がないなら連れて行こう」
「ミナもですか?…ですが」
ミナちゃんつれていくとなると、魔力のこときっとバレてしまう。
家族だけで行くなら、こっそりギルマスに会うのも可能なんだろうけど。
「ああ。ついでと言うと聞こえが悪いが、レヴィに一度会わせておきたい。……魔水晶持ちということは、陛下には報告しない」
クリス、そこんとこ考えていてくれた。
しかも、陛下に内緒にするとか、大丈夫なんだろうか。
リアさんも多分同じようなことを思っている。不安そうな、訝しむような、そんな表情だから。
クリスは俺やリアさんの不安を理解してるのか、「大丈夫だ」って、俺の頭を撫でていく。
「アキが魔法師長になってから全て動けばいい」
「アキラさんが魔法師長に?」
「……俺は、なる、って言ってないし……」
「お前以外の適任はいないんだ。諦めろ」
西のときに、クリスとギルマスが言ってたけど、そういうの俺は嫌なんだけど…。
とりあえずこの場ではいいや。流しとこ。
「アキラさんは魔法学院のことといい、魔法師団のことといい、やることが沢山ですね。魔法関連ばかり。ちょっと羨ましい…って思うのは仕方ないですよね?」
私も魔法が使えたならよかったのに…って、口を尖らせる感じは、外見年齢相応に見えた。
やっと年下らしい顔を見た気がするよ…。
「それでは殿下、領地は暫くお父様にお任せするので、私とミナ、よろしくお願いいたします」
「準備はいつまでにできる?」
「明日までには」
「では、出発は明日。朝食後にしよう」
てことは、温泉は実質今日までか…。案外短い旅行……もとい遠征だったな。
「王都までは俺たちが使っていた馬車に乗るといい。伯爵領に戻る際は、レヴィに護衛を出すように依頼しておく。俺のところからも出したいところなんだが」
「ギルドの所有馬車であれば返却にも問題ありませんし。私はそれで構いませんよ?」
行きは王族御用達の馬車で。帰りは冒険者たちと。
下手に他の兵士とか付けないほうがいいよね。ミナちゃんのことがどこからバレるかわからないんだから。
「私とミナは王都に宿を借りたほうがいいでしょうか」
「いや、城の客間を用意させる。警護の問題もあるからな」
「わかりました。何から何までありがとうございます」
「いや、頼んでいるのは俺の方だ。願いを聞き入れてくれたこと、感謝する」
「そんな…。殿下からの感謝だなんて恐れ多いです」
……昨日、『剣を向けた人』と『向けられた人』との会話とは思えない……。
リアさん、ほんとに強い人だ。
「ああ、そうだ。セシリア嬢」
「はい?」
「城では、料理のことだけ指示を出してくれればいい。…間違っても、俺の専属侍女から何かを学ぶことのないように」
クリスの妙な牽制に、リアさんは一瞬ポカンとして、直後クスクス笑い始めた。
「ご心配されずとも、私がお城でお勤めするようなことにはなりませんよ。とにかく今は、領地経営に燃えてるので」
「……まさか、オットーからなにか聞いたのか」
「団長様からですか?……そうですね。一言だけ、『お強いですね』と言われましたよ?」
微笑みながら言うリアさん。
その笑みがちょっと怖いと思ったよ…。
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