【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

61 セシリア・エーデル

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「殿下、ご婚約者様とサロンでお茶をしてもよろしいでしょうか」

 昼食が終わる頃、セシリアさんが爆弾を投下してきた。
 クリスの周りの空気が一気に何度か下がった気がする。

「何故?」

 短い言葉なのに、凍てつくものを感じた。
 クリスの左手は俺の腰を捉えて離さない。

「殿下はこれからお父様とお仕事のお話がございますでしょう?その間、ご婚約者様と甘いお菓子を食べながら、王都のお話や学院の構想などをお聞きしたくて。いけませんか?」

 セシリアさんは笑顔のままだ。
 十四歳…だよね?
 ……とても年下には思えない。

「ミナは乳母がお昼寝に連れていきますし、どうでしょう、ご婚約者様?」
「えと」

 矛先をきれいに俺に向けてきた。
 俺も、話したいとは思ってたんだけど…。

「クリス…」

 ちょっと話したいなぁ…なんて思って視線を向けたら、クリスはしばし無言になってため息をついた。

「屋敷から外には出ないこと」
「ん」
「俺が迎えに行くまでその場から離れないこと」
「うん」
「無理はしないこと」
「うん」
「護衛はつけるけど…万が一の事態が起きたら、自分の身を守る最小限の魔法を使うこと。…アキならできるだろ?」
「最小限………」

 ………って、どれくらいだろうか………。

「ぜ、善処します……」

 ようは、倒れるほどの大きな魔法は使うなってことだろうし。護衛はつけるっていうんだから、基本は何もしなくていいはず…だし。

「セシリアさんとお茶してていいの?」
「仕方ないだろ。…アキの我儘には逆らえないんだから」

 諦めた苦笑交じりの返答。

「ありがと、クリス!」

 嬉しくて頬にキスをした。

「セシリア嬢、サロンまでの案内を」
「はい、殿下」

 クリスは俺を抱き上げると、すでに食事を終えてたクリス隊の面々に向き合った。

「オットー、ザイル、先に伯爵から子細の確認を」
「「は」」
「ディック、リオ、アキの護衛に」
「「はい」」
「他の者たちは街の周辺の調査に向かえ。魔物は即討伐だ」
「「御意」」

 皆すぐに行動に移った。
 オットーさん、ザイルさん以外の護衛がつくの久しぶりかも。

「では、殿下。こちらに」

 セシリアさんの笑顔も崩れないなぁ。
 ここに来るまでは、また嫌な気分にさせられるのかなとか思ってたから、ご令嬢って存在とは関わりたくなかったんだけど。
 なんかなぁ。想像してたのと違うっていうか。

「こちらです。どうぞ」

 セシリアさんが扉を開けて促してくれた。

「うわ…」

 サロンってどんな部屋だろう…って思っていたけど、すごく明るい部屋だった。
 庭に面した壁は大きな窓ガラスになっていて、庭に出ることができる扉もついてる。
 部屋の中にも花が飾られていて、外にもテーブルが置かれてた。

「外には出ませんので、ご安心ください、殿下」
「ああ」

 ディックさんとリオさんは、部屋の中の扉近くに立っている。
 クリスは部屋の中央の椅子に俺を下ろすと、少し溜息を付きながら髪に触れてきた。

「……本当に大丈夫か?」
「大丈夫。約束は守るし」
「……そうか」

 なんかクリスが寂しそうだな。
 身体を屈めたクリスが、俺の顎に指を添えた。それから額にキスをして、唇が移動していく。
 確かめるように、唇に触れてく。
 目を閉じないで、間近でクリスの碧の瞳を見てた。

「……また後で」
「ん…」

 最後にまた額にキスをして、クリスが俺から手を離した。
 ……離れてしまうのが寂しいとか思ってしまう俺は、ちょっと、重症かもしれない……。

 部屋を出てくクリスの後ろ姿をじっと見てた。
 セシリアさんと話がしたいと思ったのは、俺自身なのになぁ。
 セシリアさん。
 ……セシリアさん……!
 はっとして彼女の方を見たら、ニコニコと笑いながら俺を見てて、すごい…いたたまれない。

「お噂通りなんですね」
「……噂、ですか?」

 顔熱い……。
 またやったよ。二人きりじゃないのに、クリスしか目に入ってなかった。
 パタパタ手で顔をあおいでいたら、セシリアさんはやっぱり笑ってた。

「殿下がご婚約者様に骨抜きになってると」
「ほね……」
「一部、ご公務も放り出されてると噂されてましたが、それは間違いのようですね」
「……クリスは仕事放り出したりしませんよ」

 そんな話をしてる間に、メイドさん?がお茶やお菓子の準備をしていった。

「あとは私がするので、貴方方は下がっててください」
「かしこまりました」

 メイドさんたちを退室させて、セシリアさんは自分の手でお茶を淹れ始めた。
 でも途中で手を止めて、俺を見てくる。

「毒味は必要ですか?」

 ……って。

「や、毒味なんていらないですよっ」
「わかりました」

 セシリアさん、にっこり笑ってまた手を動かし始めた。

「私が先にいただきますね」

 二人分の紅茶を淹れたセシリアさんが、俺が手に取るよりも先に自分が口をつけた。
 コクリと一口飲んで目を伏せ、それから顔を上げる。

「大丈夫ですね。召し上がってくださいな」

 …さらっと毒味したんだ。

「……いただきます」

 紅茶は甘い花の香がした。
 柑橘系の香りもいいけど、花の香も好きかもしれない。
 知らず知らず肩に力が入っていたみたいで、紅茶を飲んで強張りが解けていくのを感じた。

「…美味しい」
「お口に合ったようでよかったです」
「はい」

 にこにこと笑うから、俺も釣られて笑う。

「以前から紅茶を飲んでいたのですか?」
「うーん…紅茶はあまり飲まなかったですよ。こっちに来てから美味しいなって」
「コーヒーとか?」
「時々?家にいたときは大体ジュースとか」
「オレンジジュースとか飲みたくなりますよね」
「ですね。果実水はあるけど、あれってジュースとは違うし」
「もう少し工夫したらスポーツドリンクにできそうですよね」
「ですね。そしたら汗かいたあととか、飲むのに丁度よく、て……………え?」

 目の前のセシリアさんの、にこにこと崩れない笑顔。
 俺は呆然と、彼女を見ていた。




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