上 下
298 / 560
第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

59 小さな魔法師

しおりを挟む



 エアハルトさんが外から馬車の扉を開けてくれた。
 先に降りたのはクリス。
 それから、手を伸ばされて、その手を取るようにして俺も降りる。エスコートっていうんだっけ?

 エーデル伯爵は綺麗な礼をしたまま、ご令嬢さんは……カーテシーとか言う?所謂淑女の礼ってやつを続けてる。
 ……『ご令嬢』って響きには抵抗感しかないけど、メリダさんが十四歳って言ってたし……、きっと、大丈夫?

「エーデル伯爵、久しぶりだな」
「殿下、お久しゅうございます。此度は我が領へのご訪問、嬉しく――――」
「魔物に被害に悩まされているとあったが?」

 クリスがそう言った途端、場の空気がぴしりと凍りついた気がした。
 あーあ……と、どうしたものかと悩んだけど、その空気を払ったのもクリスだった。

「――――魔物の件については後で話を聞こう。エーデル伯爵」
「……恐れ入ります、殿下」

 恐る恐る顔を上げたエーデル伯爵。伯爵とは大違いで、凛とした雰囲気でニコニコの笑顔を崩さないご令嬢。

「アキ、この伯爵領の現当主ヘイスベルト・エーデル伯爵だ」
「ヘイスベルト・エーデルでございます。ご婚約者殿。ご滞在中何かありましたら、ご遠慮なくお申し付けください」
「アキラです。よろしくおねがいします」

 手は出さない。
 エアハルトさんのときに懲りた。
 腰に回ったクリスの手にも力が入っていて、暗に『それ以上何もしなくていい』って言われてる気がしたし。

 ふと、なんか視線を感じた。それはご令嬢からで、ばっちり目が合ってしまう。

「これは私の娘で――――」
「セシリア・エーデルでございます。第二王子殿下、ご婚約者様。至らぬ点はあるかと思いますが、おくつろぎください」

 これで挨拶は終わり…と思ったら、セシリアさんの後ろから小さな影が出てきた。

「あ」

 ドレスに隠れるようにしていたのは、ふわふわの少し濃い金髪の三歳くらいの女の子だ。

「ミナ」

 少し慌てたようなセシリアさんと伯爵さんの声。
 二人目の娘さん?でもなんで紹介とかされないのか。

 ……そんな俺の疑問は、すぐに解決した。

「……伯爵、魔水晶を持って生まれた子は国に報告することが必要だと、知っているな?」

 クリスがその小さな女の子を見ながら、伯爵に声をかけた。

「な、なんのことで……」

 伯爵のうろたえぶりから見れば、もう答えは出てる気がした。

「えーと……ミナちゃん?おいで」

 クリスから離れて一歩前に出た。
 クリスからは何も言われないし、止められない。
 笑いながら手を伸ばしたら、ミナちゃんは俺をじっと見てから、にこりとはにかみ、少しよろよろした足取りで俺の方に歩いてきた。

「ミナ…っ」

 慌てた伯爵の声。
 ミナちゃんは不思議そうに伯爵を見上げたけれど、俺が差し出した手をぎゅっと握った。
 ……そしたら、何故か手が異様に熱い。
 もしかして…ってよく『視た』ら、ミナちゃんの小さな体の中で、渦を巻くような魔力の塊を感じた。

「クリス、この子」
「…ああ。このままじゃ暴走を起こす」

 抱き上げたら楽しそうに笑うけど。

「で、殿下、ミナをお返しください……どうか……」
「殿下、暴走……というのは」

 青褪めた顔色の伯爵と、険しい表情のセシリアさん。

「この子の魔水晶はどこだ。この年でこの魔力量…制御を覚えるにしてもまだ無理だろう。この子を死なせたくないなら、今すぐ魔水晶を返すんだ」
「で、ですが」
「わかりました。今すぐお持ちします」
「セシリアっ」
「お父様、ミナが死んでしまったら、何にもなりません」

 セシリアさんはそう言い切って、お屋敷の中に走っていった。
 なんというか……、ご令嬢のイメージじゃないなぁ…?

「エーデル伯爵、この子はお前の娘か」

 クリスの大きな手が、俺の腕の中にいるミナちゃんの頭を撫でた。
 ミナちゃんは嬉しそうに笑って、俺の頬をペチペチ触ってる。

「……はい。私の二人目の娘のヴィレミナです……殿下」
「何故報告しなかった」
「……亡くなった妻の願いです。どうしてもミナを軍属にはさせたくないと。魔水晶さえなければ、見つかったとしても、魔力があることはわからないはずだと」
「奥方は何故軍属にさせたくないと?」
「……親しかった友人が、軍属になり、そのまま行方不明になったと言っておりました。その友人は平民だったようですが…」

 クリスの表情が揺らいだ。
 ……あの男の、犠牲になってしまったんだろうか。
 お嫁さんのその願いは当然かもしれない。今のあの組織には不安しかないから。

「ミナちゃん、俺と少し遊ぼうか」

 言葉はないのに、ぱぁっと花が咲いたような笑顔になる。
 負担にならないくらいに溜まった魔力を出してあげれればいいんだけど……、俺にはそんなことできないし。

 ミナちゃんを抱っこしたまま、クリスのそばを離れて庭に向かった。何も言わなくても、オットーさんとエアハルトさんがついてくる。
 あ、そうだ。エアハルトさんがいるじゃん。

 きれいに整った芝生の上にミナちゃんをおろして、俺もそこに腰を下ろした。

「ねぇ、エアハルトさん」
「なんでしょうか、アキラ様」

 めっちゃ嬉しそうだな。
 俺から話しかけたのがそんなにも嬉しいのか…。

「魔法の属性って、どうやったらわかるのかな」
「属性…ですか。ちなみに、アキラ様はどうやって?」
「俺の場合は………、クリスありきだったから……」
「アキラさんはほぼすべての属性魔法を使用することができますよ」

 しれっと答えたのはオットーさん。まぁ、あの場にいたし。

「な……」

 絶句したのはエアハルトさん。

「でも、うまく使えるのは水とか氷?」
「そのようですね」

 イメージしやすいからだと思うけど。

「ミナちゃんの属性がわかったら、少しは魔力を使わせてあげることができると思うんだけど…」

 溜まったものは出せばいい。
 でも、出し方を間違えたら、それはそれで暴走につながるし。
 うーんうーんと悩んでいたら、「お待たせいたしました!」って元気な声のセシリアさんが走ってきてた。その後ろに、ちょっと難しい顔をしたクリスもついてきてて。
 ……やっぱり、このセシリアさん、ご令嬢のイメージとかけ離れてるなぁ……。



しおりを挟む
感想 541

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

王子の宝剣

円玉
BL
剣道男子の大輔はあるとき異世界に召喚されたものの、彼がそこに召喚されたこと自体が手違いだった。 異世界人達が召喚したかったのはそもそもヒトでは無かった。 「自分なんかが出てきちゃってすんません」と思って居たが、召喚の儀式の中心人物だったエレオノール王子は逆に彼を巻き込んでしまったことに責任を感じて・・・ 1話目の最初の方、表現はザックリ目ですが男女の濡れ場が有りますので、お嫌いな方は避けてください。   主に攻め視点。攻め視点話の率が少なめに感じたので自力供給する事にしました。 攻めは最初性の知識がほとんどありません。でもきっと立派にやり遂げます。 作者は基本甘々およびスパダリ、そしてちょっと残念な子が好きです。 色々と初心者です。 R-18にしてありますが、どのレベルからがR-15なのか、どこからがR-18なのか、いまいちよくわかってないのですが、一応それかなと思ったら表示入れておきます。 あと、バトル描写の部分で、もしかすると人によってはグロいと感じる人が居るかも知れません。血とか内臓とか欠損とか苦手な方はご注意ください。魔獣なら大丈夫だけど対人間だと苦手だという方もご注意ください。ただ、作者自身は結構マイルドな表現にしているつもりではあります。 更新は不定期です。本業が忙しくなると暫くあいだがあいてしまいます。 一話一話が文字数多くてスミマセン。スマホだと大変かと思いますがこれが作者のペースなもんで。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

処理中です...