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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

58 伯爵領中心街に到着しました

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 ついでのイノシシ狩りをした翌日の昼前に、目的地であるエーデル伯爵領の中心街に入った。
 王都の西町ほどではないけれど、凄く賑わっているように見える。

「魔物に怯えてるようには見えないね」
「そうだな」

 クリスの膝の上に座って、触れ合うだけのキスを何度もする。

「このまま館まで行くが、何か見たいものでもあったか?」
「んー?特にないよ。…あ、メリダさんとティーナさんに、なにかお土産買っていきたい」

 気分は温泉旅行なんだよね。一応、魔物討伐がメインなんだけど。全然魔物の気配なんてしないし。

「後で見回りの店でも見ていこうか」
「うん!」

 俺の中ではこのエーデル伯爵領は、温泉街な観光地になってた。
 想像してたのは、日本の温泉地のように、あちこちから湯けむりが上がってて、浴衣で闊歩できる町並みだったけど、当然、この世界に浴衣はない。それに、町中に温泉独特の匂いがすることもなかった。
 甚平さんみたいな病衣はあるんだから、浴衣も作れそうだけどなぁ。需要がなければ作らないか。足とか見せたがらないし。

 伯爵領の中心街ともなると、二頭立ての立派な馬車が通っても、それほど珍しくはないらしい。
 街道を歩く人たちもごくごく普通だし、目を輝かせた子どもが駆け寄ってくる……ってこともなかった。
 西町のように露店が立ち並ぶ…ってこともなくて、恐らくメイン通りのこの街道は、道幅はあっても穏やかというか落ち着いてる。
 それに、よくよく見たら、この街道は端っこのところが少し高くレンガのようなものが敷かれていて、人はそこを歩いているから、まるで歩道みたいで。

「クリス、こっちの世界って歩道って概念あったんだ?」
「ほどう?」
「うん。馬車が通るとこと、人が歩く場所が別れてる感じで、歩道は、人が歩く場所……かな?」
「いや……、特にはないな。王都でも、広い街道なら馬車が通るときには人が避けている」

 やっぱりそうだよなぁ。

「じゃあ、ここだけなのかな。見て。ちゃんと歩道がある」

 窓の外を指し示したら、クリスが納得したようにうなずいた。

「人が通る場所と馬車が通る場所が決まっていたら、ある程度事故とか起きにくいからさ。王都ではないのかな、そういう事故」
「馬車側も十分注意はしているはずだが、そういった事故はよく起きていると聞いている」
「あ、そっか。そういうのはお兄さんが担当?」
「ああ」

 だからあんまり聞かないのか。
 納得した。

「じゃ、今度お兄さんに提案してみて。歩道と車道………じゃない、馬車が通るとこと、人が歩く場所をわけたら、そういう事故は減ると思うから。西町から試験的にやってみてもいいと思うし」
「なぜ西町?」
「ギルマスが手伝ってくれそうだから?」
「ああ…なるほど。今度提案してみるよ」
「うん」

 まぁ、大掛かりな工事になっちゃうし、区画がぁとか大変そうだから、そのあたりは丸投げだけどね。
 でも、こんなふうに歩道を設けるとか、エーデル伯爵って実はすごい人なんじゃないかな。手紙の文面からはそんなこと全然感じなかったけど。

 そんな街道を走ること少し。
 城…とまではいかないけど、とてもご立派なお屋敷がみえてきた。
 どうやらあれがエーデル伯爵のお屋敷らしい。
 …うん、貴族の住まいって、俺、初めてじゃね?いつも城住まいだけど。俺の行動範囲に、貴族のお屋敷はなかったわ。

 街道沿いに建てられた門の前に立つ私兵さん?は、クリス一行に気づくとすぐに門を開放した。
 身分とか確認しなくていいのかな?
 よくわからないまま眺めていたら、私兵さんたちはしっかりと礼を取りながら、馬車とクリス隊の皆が門を通り抜けるまで頭を上げることはなかった。

 門の内側の敷地もまた綺麗だった。
 門から伸びた道はお屋敷の正面まで続いているけれど、道の両脇には低く整えられた木が並んで、垣根のようになってる。
 垣根の向こう側はまさに庭園!って感じで、芝生は青々として、花壇には色とりどりの花が咲いていた。

「おお……」

 ザ・貴族のお庭って感じか。
 それから、よく見たら、ブランコみたいなものまである。すごい。

 馬車が正面玄関?に近づくと、中から沢山の人が出てきた。
 メイドさんみたいな服を着た人とか、執事服みたいなものを着た人とか。
 ぞろぞろっとした花道。
 それから、四十代くらいの身なりの整った男性と、俺と同い年くらいのピンクを基調にしたふんわりとしたドレスを着た女の子が、花道の中央に立った。

「エーデル伯爵と、そのご令嬢だ」

 クリスが教えてくれた。
 うん、と頷いたあたりで、馬首が右に転じて停車した。



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