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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

56 エーデル伯爵領の村で

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 オットーさんの村を出て、道幅のある整備された街道を更に二日走ったあたりで、エーデル伯爵領に入ったらしい。
 魔物からの被害を防ぐために、村や町には大概、敷地を囲むように塀がたてられてる。
 魔物の少ない穏やかなところでは、囲みがないところもあるそうだけど。
 国の中には貴族が治めている領地と、貴族領には属さないで国が管理している土地がある。あまりにも辺鄙すぎて、貴族が嫌うような土地が、国管理なんだそうだ。貴族、我儘じゃない?
 各村には教会があって、神殿から神官が派遣される。浄化や、子供への祝福や、鎮魂の祈りのために必要だから。
 すぐ近くに比較的大きな街があるような所では、「すぐに連絡できるから」っていう理由で、教会がない村もある。タリカがその例らしい。

 んで、なんで貴族領――――エーデル伯爵領に入ったかわかるかって言うと、村を囲む塀に、伯爵家の印みたいなものが書かれてるんだって。
 貴族領に住む人たちは、貴族の人に税金みたいなものを払う代わりに、私兵の護衛が村に配置されたり、塀が強固なものにしてもらえたりと、利点はあるらしい。
 国が管理だと広すぎて、完全に把握し切ることは無理なんだとか。だから、駐屯さんたちが必要。税金以外の貴族がやってるようなことを、駐屯さんたちが担ってるってことだよね。
 駐屯さんたち、地味に仕事多いな。

 ちなみに、塀で囲われた村や町は、迂回することが可能。けど、それなりの敷地面積があって、時間がかかりすぎるので、街道が村の真ん中を突っ切っているなら、村の中を走っていくのが推奨される。
 伯爵領最初の村は、街道が村の中を通っているタイプだった。

「…村、っていうか、街っぽい」
「女神の加護も問題ないようだ。畑の実りもいい」

 窓から外を見て、クリスもうんうん頷く。
 村の中に入ってからはかなりゆっくりだから、人の表情や服装、村の様子や畑なんかもよく見えるんだよね。
 ゆっくり流れる景色に見入っていたら、ぬいぐるみのようなものを抱いた小さな女の子が手を振っていた。だから俺もなんとなく振り返したら、ぱぁぁっとまた笑顔になってくれた。可愛いなぁ。

「アキ」

 ぐいっと腰を引っ張られて、クリスにピタリと寄り添うような位置になった上に、窓の薄いカーテンを閉められた。

「なに?」
「そんなに、笑いかけるな」
「え??」
「アキの笑顔も俺だけのもの」

 そう言って、めちゃ強く抱きしめてくる。

「いやいや、クリス、それは」
「…………わかってる」

 他の誰にも笑いかけないなんて絶対に無理でしょ。ティーナさんに会ったら、俺、自動的に笑顔になること間違いないし。
 クリスも無茶なこと言ってる自覚はあるらしくて、それ以上は言ってこない。ただ、機嫌の悪そうな雰囲気だけが伝わってくる。

「クリス」

 背中を撫でて、頭も撫でる。
 少し顔を上げたクリスの頬に手を添えて、俺からキスをした。
 軽く触れて、すぐ離れて、お互いに見つめ合って、微笑み合って。
 啄むキスを繰り返して、座席に押し倒されてから深いキスになって。

「あ………あ……んん」

 舌……気持ちいい。
 吐息も熱い……って思ってたら、すり……って、そこを撫でられた。

「ひぅ……っ」
「可愛い」

 唇が離れて、耳朶を舐められて、耳の穴の中に舌が入り込んで、ちゅくちゅくって音がやたら大きく響いて、何度も身体が震えた。

「みみ……やめ……」

 手はすりすり擦るだけでなのに、俺のはもう反応してるのがわかる。

「………っ」

 カチャ…ってベルトをイジる音がしたとき、俺の背筋に快感じゃない、悪寒のようなゾクゾクしたものが走った。

「クリスっ」

 ぐい…っとクリスを押しのけたら、クリスは眉間にシワを寄せながら俺を見た。

「どこからだ」

 クリスの言葉に俺は内心ホッとした。
 俺がクリスとの行為を嫌がったとか思われてたら、すごく、嫌だったから。
 でもクリスは、正しく読み取ってくれる。

「多分北側。数はそれほどでもないと思う」
「アキは出るなよ」
「うん……」

 魔物が近づいてる。
 クリスのそばでクリスのサポートでも何でもしたいけど、魔法も禁止されてるし何もできない。……やだな。俺も近くにいたいのに。
 クリスは少し困った顔を見せると、俺の額に軽くキスをした。

「村の出口あたりで馬車を止める。アキは馬車から離れないでくれ」
「うん……」
「『御者』のエアハルトは置いていくが、絶対に不用意には近づくなよ」
「うん」

 触れ合わせるキスをして、クリスは立ち上がると、ゆっくり走ったままの馬車の扉を開けた。

「見ててもいいから、大人しく、な?」

 クリスはそう言って笑うと、馬車から降りてしまって、扉も閉まった。
 まぁ、ゆっくりだからとは言っても、走ってるんだけどね…?
 カーテンを開けて窓からみてたら、もうヴェルに乗っていて、オットーさんと何か話してる。
 窓ははめ込み式だから、開けれない。外で何を話してるのか聞こえない。
 クリスは窓の位置で並走してた。多分、俺がちゃんと見えるようにだと思う。
 じっと見てたら、俺の方を見て、ふ…っと笑う。
 魔物が来るのに余裕の表情。……格好いい。

 馬車は、塀の近くで止まった。
 一度降りようかどうしようか考えていたら、ドアが開いて、クリスが顔をのぞかせた。

「アキ、おいで」
「ん」

 手を伸ばされたので、その手を取る。
 馬車の踏み台に足をかけたところで、クリスに抱き上げられた。
 よくみたら、周りに村の人達が集まってる。そりゃそうか。馬車は立派だし、クリスの印が普通に施されてるし、クリス隊の皆が揃ってるし。

 東側の門を警備してるらしいエーデル伯爵の私兵?さんたちは、クリスを見て固まってた。
 まあ、自分の国の王子様見たら、そりゃ緊張するよね。

「あー……、三体……くらいかな。すごい勢いで走ってくる」

 少し門から出て北側を見たら、どどど……って音がかすかにした。

「……ん?」
「アキ?」
「馬に乗ってる人がいる。二人?魔物からの逃げてる……っていうか、追いかけられてる!」
「わかった」
「二人……まさか、狩りに出ている者はいますが……」

 門番さんは半信半疑。
 だって、見えないだろうし。
 でも、クリスとクリス隊の行動はとても迅速。
 すぐにクリスが指示を出して、クリス隊は駆け始める。門番の私兵さんたちが呆然とするくらい速い。

「アキ、馬車のところで待っててくれ。行ってくる」
「うん」

 クリスは俺を下ろすと、すぐにヴェルに飛び乗り、北の方に走っていった。




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