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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

52 まさかの同行者

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 ガタンゴトンと揺れる馬車。
 振動は、それほど苦痛じゃない。
 座席はソファのように座り心地がいい。
 いつもはお馬にくくりつけていた収納魔法箱は、今回は馬車の中。
 基本、馬車はそんなに速くないので、周りを走るクリス隊の皆は時々談笑できるレベル。
 ヴェルは今回、馬車と並走してる。手綱を握ってなくても、離れることのない頭のいい優しい子だから。

 静養日を一日挟んで、東にあるエーデル伯爵領にむけて出発したのは、陽が登りきらない早朝。そして今は、もうすぐ昼時。
 出発してから俺はずっとクリスの膝の上で過ごしていた。
 なんか、ほんとに旅行みたい。

「……いいのかなぁ。俺たちだけ馬車って」
「問題ないだろ。緊急事案でもないんだから」

 馬で駆けるのも嫌いじゃない。
 でも、体調とか体力とかを考えると、今の俺にとっては馬車での移動が一番楽は楽なんだけど。
 ずっとクリスにくっついていても恥ずかしくないし。

「……でもさ、ほんと…………、よく許可したよね……クリス」
「………ほんとにな」

 俺とクリスは二人同時に進行方向――――もちろん壁があるから直接は見えないけど――――に、目を向けてそれは深い溜息をついた。





 昨日、午後からクリスは一人で西町に出た。
 オットーさんは今日からの遠征の準備の最終確認で、護衛はザイルさん。
 ……この二人にはあらためて静養日あげようよ……。
 ま、そのザイルさんは俺の護衛ってことで、部屋の前にいたから、ほんとにクリスは一人で西町に行ったんだ。
 王子一人で行っていいのか。部屋でずっと寝てる俺の護衛より、クリスの護衛についてもらったほうがいいんじゃないかと思ったけど、クリスは強いから、一人で問題ないんだって。
 そんな感じで西町に行って、ギルマスに会って帰ってきたクリスは、なんだかとっても疲れ切っていて。
 どうしても断れなかった……って、大きく溜息付きながら、俺のことを抱きしめていた。




「もう仕方ないよね」
「すまない……」
「クリスのせいじゃないでしょ。まぁ、腕は確かだし」

 溜息の原因の人は、今朝、ニコニコの笑顔で馬車の御者台に座ってた。
 測量だけじゃなかったのか。普通に御者もできるのか。
 昨日のうちにクリスから聞いてはいたけど、実際に見たら苦笑しか出てこなかった。

「………エアハルトさん、もう気分はクリス隊に入隊してるんじゃないのかな………」
「気絶してたときにアキが言ってたこと、もしかしたら聞いていたのかもな」
「えー?でも、聞いてたなら、もっと煩くなったと思うんだけど」
「違いない…」

 うん。
 今この馬車の御者をしているのは、エアハルトさんだ。
 クリスが入隊を許可するにしてもしないにしても、川の件が終わったら一度はお別れだと思ってたんだけど。
 ギルマスのところに行ったときに、御者に名乗り出たんだってさ……。
 クリスは専属の御者か、隊員で交代しながらを考えていたみたいだけど、エアハルトさんの強引な「私、御者できますよ!!」攻撃に屈したらしい。クリスを言い負かすなんて……。怖いよ、エアハルトさん。

「アキには絶対に触れさせないから」
「うん」

 馬車だし。
 御者してるエアハルトさんには見られないし。
 クリスの膝の上に対面で座りながら、キスをねだってみた。
 触れる唇が気持ちいい。
 こんな触れ合いも気兼ねしなくていいし。
 馬車バンザイ。

「もう、魔法関係全部エアハルトさんにしてもらおうよ。魔物の処理も楽になるし」
「そうだな」
「あんな綺麗な階段は、もういらないけど」
「全くだ」

 二人で笑い合って、ため息は終わり。

「風呂を覗き見るようなことがあれば即刻処刑だな」
「や、流石にそれは……」

 クリスの声がめちゃ本気で怖いから。
 覗き見は嫌だけど、それだけで処刑されるのも可哀想だと思ってしまう。
 甘いかなぁ、俺。

「アキも迂闊なことはするなよ?」
「しないし」
「……お前はちょっと気を抜くととんでもないことをしでかすから」

 なにか思い出してるみたいな、笑ってるような悔しがってるような、とても複雑そうな顔をするクリス。
 思い出してるのは、俺がクリス服で天幕を飛び出したあの一件ですか。それとも、飲み過ぎて酔っ払って脱衣しかけたことですか。
 どちらにしても、俺は言い返せないけど。

「……しないもん」

 小さな声になった。
 ついでに口を尖らせていたら、ちゅって音を立ててキスをされる。
 じ……っとクリスの碧い目を見てたら、細められて、キスが深くなる。
 ずっと、キスしててもいい……って思うくらい、クリスのキスは気持ちがいい。比較対象いないけどさ。

「そういえば」
「…なに?」

 離れた唇が嫌で、追いかけた。
 クリスはくすって笑って、また深いキスをくれる。
 顎を捉えていた指が離れて、両手で背中を擦られる。
 それから、じわりじわりと手が降りていって、腰のあたりを撫でられた。

「ぁ…、んぅ」

 そこから尻の上あたりを撫でられて、ごくごく自然な動作でベルトが緩められる。

「ちょ」
「まだしてなかったな」
「何を?」
「服を着たまま下着を脱がせる実践?」

 しらっと笑顔で言われて、次の瞬間には隙間に入ってきた指が、あろうことか両方の紐を解いた。

「っ!!!」

 するりするりと下着がぬかれてく。
 布のこすれる感触が、微妙な快感になってしまう。

「クリスっ」
「今度白いのも取り寄せるか」
「こればっかり何枚用意するつもりですかっ」
「何枚でも。アキに似合う色や形があれば」

 抗議してる間に、下着からただの布になったそれは、ズボンとウェストの隙間から、抜かれてしまった。

「も………っ」

 じわりと涙が滲む。
 直接服に擦れる変な感じ。

「ほら、簡単に脱がせられる」
「うー…………っ」

 クリスの馬鹿!変態!!

 目元の涙をべろりと舐められて、上機嫌なクリスに座席に押し倒されて、ほぼ無理やりズボンを剥ぎ取られて、半勃ちくらいになってた俺の息子を舐められた。
 抗う気力はないし、でも声出し過ぎたら馬車の外に漏れるだろうしで、また涙が滲んだけど。
 その後は、出して萎えた俺の息子を丁寧に舐めて残滓を拭って、やたら丁寧に、布を下着に戻した。紐の縛り方がね。ほんとにもう、なんていうか、丁寧で丁寧で。びっくりだよ……。
 クリスが俺の身支度も全部済ませて、俺はずっとクリスの膝の上で横向き座りで胸元に体を任せてた。
 はぁ……もぅ……。
 顔どころかあちこち熱い……。
 もう少し手加減してくれればいいのにさ。




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