上 下
290 / 560
第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

51 ちょっと寂しくなった

しおりを挟む



 静養日が、しっかりと静養日になってしまった。
 二日酔いってのは、クリスの癒やしでも完全には良くならないらしい。……ま、そりゃそうだよね。怪我じゃないもん……。

「う゛~~~~っ」

 吐く、までいかないのが幸いなのか?もうわかんない。

「アキラさん……申し訳ありません。私が果実酒を勧めなければ……」
「……誰だってあの果実酒でここまで酔うとは思わないだろ」

 ……って、ベッドに座ってずっと俺の頭を撫でてるクリスが、苦笑しながら言った。
 俺が飲んだお酒は、本当に弱いやつみたいで、ジュースにほんの少し酒が混じってるみたいなものらしい。
 それを飲んでここまで酔った俺は、この世界の人たちがドン引きするくらいお酒に弱いということみたいで。
 絶対に慣れとかだってあるんだから!と、主張したい。

「あたまいたい………」
「水飲むか?」
「ん……いらないぃ」

 父さんが二日酔いでグロッキーになってたの思い出すわ…。
 二日酔いの朝は、なんだっけ?アサリの味噌汁?しじみの味噌汁?

「……しじみの味噌汁食べたい……」
「シジミノミソシル?」

 ……変なイントネーションな言葉が帰ってきた。
 うん、知ってた。
 味噌ないし。
 貝類……そういえば見ないなぁ。

「海……」
「ん?」
「海、行きたい」
「好きなのか?」
「んー……、海水浴はあまり好きじゃないけど、波打ち際で足だけ浸かるのは結構好き……」

 頭がくらくらしてて、なんとなく弱気。
 こっちの世界で海水浴なんてしないだろうなぁとか思って、口をつく言葉は止められない。
 きっと、メリダさんは不思議そうな顔をしてると思う。
 クリスは………、『向こうの世界のことだな』って理解してくれると思う。

「あと……お米、食べたい」

 主食はパンだから。
 色んな味があって美味しいけど、白飯食べたい。
 味噌汁と、焼き魚と、冷奴と、煮物と。
 和食。
 和食食べさせて。

「メリダ、ここはいい。少し休んでくれ。何かあればすぐ呼ぶから」
「はい……坊ちゃん。何もなければ後で昼食をお持ちしますね」
「ああ、助かる」

 メリダさんが寝室を出た。
 そしたらクリスは俺の隣に寝転んで、腕枕をしてくれる。

「クリス……」

 唇が重なって、深いキスに溺れそうになる。
 キス……甘い。
 すごく、甘い。

「ん……ぅ……」

 唾液飲み込んだら、また少し、気分が楽になった。こわばってた筋肉が少し緩む。

「カイスイヨクってなに?」

 唇が離れて、腕枕のまま額と額が重なり合う。

「海で、水着ってのを着て、泳ぐの。水に浮く物をつかったり、船みたいな形のものに乗ったり」
「みずぎ?」
「うん。下着みたいな形だけど、水に濡れても服のように重たくはないし、泳ぎやすい服……かな」
「下着……?」

 クリスの視線が俺のお腹の下辺りまで降りて、顔が熱くなる。

「男の人はこういうの穿かないから!!」
「そうなのか?」
「そうなの!こういうのは、むしろ、女の子の水着にあるようなデザインで……」

 次はクリスが眉をひそめた。

「はしたないだろ。こんな姿で外にいたら」
「はしたない……って、そう思う下着を、喜々と俺に穿かせてるのは、どこの誰ですか!?」
「アキはいいんだ。見るのは俺だけだし。何より、可愛いし、綺麗だし、よく似合っている。それに、脱がせやすい」

 最後の言葉はにやりと笑いながら。

「服を着ていても脱がせられるからな」

 クリスはそう言うと、いざ実践!的な感じで、クリス服の裾から手を入れてきたけれど、はた、と、手が止まった。

「……これはだめだな。この下着でなくてもすぐ脱がせられる。……ああ、制服を着込んだら実証してみようか」
「そんな実証いりませんっ」

 あ~~~顔熱い!!
 もうっもうって怒っていたら、クリスがふふって笑った。

「少し元気が出たか?」
「あ………うん。ちょっと……楽になったみたい」
「それは良かった」

 大きな声出しても頭に響かなかった。嬉しい。

「……何の話だったっけ……?」
「下着」
「違うでしょ。……あ、水着か」
「ちなみに、それは上はなにを着るんだ?」
「着ないよ?」
「え?」
「上は何も着ない。パーカー……えーと、帽子のついた水着と同じような布で作った上着?みたいなの羽織ることはあるけど、男の人は基本裸………」
「アキも?」
「え?俺?」
「そう。お前の世界で。そんなあられもない格好で外に…人前に出てたのか?」
「そりゃ、授業でも水泳あったし…」

 はぁ…とため息をついて、クリスの腕の中に抱き込まれた。

「……よく襲われなかったな……」

 って、心の底から言われましたけど。

「あのね?俺、そんな襲われるほど可憐な容姿もしてなければ、体格でもないからね?それに、俺の世界だと、同性同士の恋愛はあまり歓迎されてないというか一般的じゃないというか、『結婚』は、異性としかできなかったし」

 できる国も確かあったけどさ。
 でも、この世界のように全面的にウェルカムな感じじゃなかったし。

「……こんなに可愛いのに?」
「や、それ、激しく贔屓目だから!」
「そんなことはない。誰に聞いてもアキは可愛いと答える」
「そんなこと他の人に聞いて回らないで!?」
「可愛いと言われるのは嫌か?」

 うぐ……っと言葉に詰まる。

「……クリスに言われるのは……、嫌じゃ、ないし」

 むしろ、そう思われたい。

「だろ?色々諦めろ」
「あう」

 水着の件はもういいや。
 文化の違い。こっちの人は泳がない。よし、覚えた。
 ……あれ?でも、だとしたら、まさかのみんなカナヅチ……?……うーん……、わからん。

 それからも色々聞かれた。
 話すうちに気分の悪さは落ち着いてきて、その代わり、ちょっと寂しさ…って言うか、郷愁?みたいな気持ちに襲われて、途中涙ぐんでしまった。
 涙は落ちる前にクリスの唇に拭われたけど。
 具合が悪いと弱気になる、そんな感じだったのかな。

 ダラダラと話してる間にお昼時間になったようで、メリダさんが持ってきてくれたお昼を食べた。
 パン粥。
 ちゃんと食べた。よかった。二日酔いからは抜け出したみたい。
 それもこれもクリスのおかげ。
 やっぱり俺にはクリスがいないと駄目みたいだ……なんて、再認識いたしました。




しおりを挟む
感想 541

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...