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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

43 まあ……お約束ですね。

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 地面で寝始めたエアハルトさんは、隊員さんが天幕に引きずっていって、少し遅い昼食になった。
 俺は本当に久しぶりに、給仕手伝いしたよ。出来たよ。少しだけど!
 駐屯さんたちも一緒だったんだけど、パンが盛られたお皿みたいなものを、何個か運んだ。声をかけるたびに、つちのこでも見つけたような驚いた顔で俺のことを見るのは、どうにかしてほしかったけど。

 スープの器は持たせてもらえなかった。クリス隊のメンバー全員から却下された。
 一つずつなら持てるのに…。

「無茶は駄目です。無茶は!」

 ……って、みんなに言われたよ。

「むぅ」

 俺とクリスのパンを持って、クリスのとこに戻ったら、苦笑したクリスが俺の肩を抱いて額にキスしてくれた。

「できるのに――――」
「皆、アキの事が心配なんだ。俺だって、出来れば膝の上にいて欲しいくらいなんだから」
「……だって、動けるようになったし」
「そう言って無茶するだろう、アキは」
「しないし」
「嘘だな」

 クリスが楽しそうに笑う。
 その点に関して、俺の信用は全く無いらしい。
 更にむっとしていたら、クリスが何度か額にキスをしてきた。

「……自覚無しはこれだから困る」

 呆れたような溜息と一緒に、俺はクリスの膝の上に座らされた。
 その途端、身体からふ…っと力が抜けた。
 んー…、知らないうちに緊張してたのか。身体のこわばりがあったらしい。
 少し動けるようになっても、クリスの膝の上ここが落ち着く場所だってことには、変わりない。

「口開けて」

 大人しく口を開けたら、葡萄が放り込まれた。
 ご飯より先に果物か…。好きだからいいんだけど。

「飲め」

 手渡されたのは果実水。
 それもコクコク飲み干す。
 ……ああ、結構、喉乾いてたんだ。

「……はぁ」
「オットー、ゼリーはまだあるか?」
「ああ、はい。今お持ちします」

 ゼリー。
 この間のやつかな。
 次は騙されない。食事ゼリーと思えば思わるる衝撃はない。うん。

「クリス、スープ」
「ちょっと待て」
「パンは?」
「後で」

 なんでさ。
 スープ、冷めちゃうよ。

「殿下、こちらを――――アキラさん、大丈夫ですか?」
「ぅえ?うん、大丈夫……」

 って答えたら、オットーさんに苦笑された。何故?
 それからクリスがゼリーを口に運んでくれた。
 色……色ね。薄いオレンジ色?ぱっと見、食事ゼリーなんて思えない色だね…。綺麗だった。

「うまいか?」
「うん。冷たくて美味しい」
「そうか」

 クリスは俺に食べさせながらも、ちゃんと自分食事も進めてた。
 俺がゼリーを完食したあたりでスープを一匙口元に運んでくれた。喜んでスプーンを口に入れたけど、飲み込むのに物凄く時間がかかった。

「ん?」

 それに、二口目はどうしても食べれない。
 なんで食べれないんだろう。
 果物とかゼリーとか食べたから?
 でも、その後に口に入れられた葡萄は、食べることができた。

「んんー?」

 首を傾げていたら、なんとなく空が暗くなり始めた。

「……ああ、雨か」
「あー…」

 クリスが空を仰ぎ見て、俺もつられて空を見上げた。
 遠くにあったはずの入道雲がすごく近い。その上、どこから流れてきたのか、暗雲が立ち込めてきてる。
 雨が降る時の湿っぽい匂いが鼻をかすめた。

「丁度いいな。オットー、一旦戻る。雨の準備を。駐屯兵団の皆にも」
「はい。後で果実水をお持ちします」
「頼んだ」

 指示を出したクリスは、俺を抱き上げて天幕にスタスタ歩いてむかった。

「クリス、歩ける」
「駄目だ」

 また、駄目、ってさぁ。
 歩けるのに。

 天幕に入るころに、ぽつりと雨粒が落ちてきた。
 この世界に来て、初めての雨?

 クリスは慌てることなく天幕に入って、入り口の布をしっかり閉じた。
 遅い昼食だったけど、まだまだ昼間。けど、黒い雨雲のせいで少し暗い。
 クリスは俺をベッドにおろして、制服に手をかけた。

「クリス、自分で――――」
「大人しくしてろ」

 抵抗することもできないまま、あっさり脱がされ、クリス服を着せられた。
 ……なんで?少し休んだら、まだやることあるよね?

「クリス?」
「本当に……自覚がないっていうのは困ったもんだな」
「自覚?」

 なんの??

「少し動けるようになったからと言って、はしゃぎすぎ。熱が上がってることにも気づいてないだろ」
「熱??」

 そんなの……って思ったけれど、ベッドが心地よくて、頬に触れたクリスの手がとても冷たく感じて気持ちよくて。

「あー……」

 『自覚』したら、途端に身体がズン…と重たくなった気がした。

「クリス」
「食事もまともに食べれないだろ。大人しく寝てるんだ」
「ん……」

 ああ、そっか。
 果物に果実水にゼリー。
 俺が、食欲ないときに用意されるメニューだわ。今更気づいた。

「……だって、動けて嬉しくて」
「わかってる」
「……何か、したくて」
「そうだな」
「クリス……ごめんなさい……」

 まだ頬を撫でてくれてる手にすり寄ったら、クリスから『くす』って笑う声が聞こえてくる。

「気にするな。アキの楽しそうな顔は可愛いから」
「ん…」
「だから、謝らなくていい。丁度雨だしな。ゆっくり休め」
「うん……クリスは?」
「アキが眠ったら外の様子を見てくるよ」

 額にキスが落ちてきた。
 鼻の頭も通って、頬を滑って。
 唇に触れて。

「ぁ……んぅ」

 しっかりと重ねて、舌先をくすぐって。
 じわりと身体の中に魔力と癒やしが巡って。

「眠れ」

 低くて甘い声とともに、意識は深い眠りの中に落ちていった。




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